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3.レイシュア様をご案内

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めんどくさいことになったな……。
という本音がわたしの顔に出ていたのでしょう、休み時間、校舎内を案内しようと廊下に出た途端、レイシュア様が言い放ちました。

「……貴様は自分の立場がわかっていないようだな」

振り向いてみると、レイシュア様の端正なお顔に憎悪の念が窺えました。
貴様……なんて初めて言われました。

「どういうことですか?」
「お前みたいな田舎の庶民の女が俺と話せるチャンスなんて一生ないってことだ!」
「今、普通に話してるじゃないですか」
「減らず口を叩くな! 偉そうに!」

偉そうなのはどっちなのでしょうか。
怒りながらも後ろをついてくるご令息に嘆息しながら、淡々と説明していきます。

まずは音楽室。

「こちらは音楽室です。オルガンがあります」
「うわ、ボロいオルガン。貧乏くさいなあ。グランドピアノやバイオリンはないの?」
「ありません。次行きます」

そして図書室。隠れた人気スポットです。

「こちらは図書室です。昼休みはわりと人気です」
「これっぽっちの蔵書しかないの? 薄暗いし、なんか不潔だな」
「きれいにしてると思います。日当たりが良くないことと、書物も古くなっているのでそう見えるのかもしれません。次行きます」

さらに、運動場に出て飼育小屋へ。

「こちらは飼育小屋です。酪農の勉強も兼ね、鶏、牛がいます」
「臭っ……うるさいし……不潔」
「それはこの子たちが元気に生きている証拠です。生き物なので。この子たちの命や乳をいただいてわたしたちが生かされていますから」

山に住む家庭は酪農業を営む方が多いので、動物たちは身近な存在です。我が家もベイクの家もそうです。
わたしが牛さんを撫でてやるとレイシュア様が後ずさりしました。

「汚ねっ! その手で俺に触るなよ! こっち寄るなよ!」
「? バーネット家には家畜はいませんか? 馬は? 貴族なら乗馬するのでは?」
「家畜なんていないさ。ちなみに、牛と馬は別だ。馬は乗り物として使うんだからな!」

鼻息荒く胸を張るレイシュア様を、牛さんと二人で静かに眺めます。

……あれ。なんか、イライラしてきました。できるだけ淡々と業務を遂行しようと思っていたのに。

知らず知らずのうちにグッと拳を作ってしまいましたが、感情に任せて転校生を殴ってしまうなんていけないと自らに言い聞かせます。
薪割りで鍛えているので腕力には自信がありますが。

「じゃあね、牛さん。たくさんごはん食べて元気に過ごしてね。また来るね」

牛さんにバイバイして、レイシュア様を置いて教室に戻ることにしました。
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