4つの力が彩るこの世界で。

出会い

「早く出ていきな!!」

　首根っこを掴まれると、凄い勢いで施設の外に放り出される。
　豪雨の中に放り込まれ、水溜まりから水しぶきを上げると同時に服は一瞬でビショビショになるが、怒鳴っているおばさんはゴミをゴミ箱へ捨てたのと同じ感覚なのだろう。心を痛めている様子は無く、それよりも怒りと同時に清々しい感情すら感じられた。

　今日は15歳の誕生日。まさか生まれてからこんなにも悲惨な誕生日を迎えるとは思ってもいなかった。ただひとつだけ人間と違うというだけで。

　初めての異変は3歳くらいの頃。目の前のおもちゃを拾おうとした時、不意に身体から雷が発生したのだ。それを見ていた親は、自分のことを気味悪がり、孤児院へと預けた。
　そして数年が経ち孤児院に預けられた後、昼休みに友達と遊んでいる最中に身体から風が吹き出し、友達に擦り傷程度の怪我を負わせてしまう。
　園長先生は何も変わらぬ態度で育ててくれていたが、他の保育士達が自分を見る目は180度変わってしまった。化け物を見るかのような目はその時から今までのトラウマである。
　おそらく、今日まで孤児院で生きてこれたのは園長先生のおかげだろう。園長先生がいなければ能力を使った瞬間に追い出されていたはずだけじゃなく、精神までやられていた。

「待って先生！ 俺、あれから能力使ったことないよ……！ だから…。」

　バタン!!

　話ている途中だったがドアは思い切り閉められ、何もなかったように孤児院の中へ戻る足音が聞こえる。それから、どれだけ叫び続けてもさっきの先生が戻ってくることはない。悲しさや虚しさもあったが、今日から生きる術を持たないことが不安で仕方がなかった。

　これからどうすればいいのかわからない恐怖と、一気に押し寄せる孤独感からその場で泣き続けた。泣き声と涙は大雨の中にかき消され、自分がこの世に存在しないのかもしれないと錯覚をする。

　しばらくの間泣き続けているといつの間にか雨も上がり、陽の光が森全体に射し込んでいる。光を浴びたところで気持ちが晴れるわけでもなかったが、何となく涙も枯れて、なにかしら行動をしようという気力が生まれる。
　その気持ちが冷めないうちに、重い脚を無理やり上げて山の麓ふもとへと向かい始める。まだ、生きる意味も目標も見つけられないが、それらを見つけるために少しずつ歩いていく。
　山道は思ったより長い。いつも街へ行く時は、友達と談笑しながら進んでいた。昨日の夜に観たテレビの話や新しいゲームの話。そんな話をしているとあっという間だったのだが、1人で歩く山道ではそんなおしゃべりをすることも出来ない。代わりに、小鳥の囀さえずる声や、道の脇に咲く小さな花を見つけて、写真に残しておきたいと思うほどに美しいと思えるものがあった。
　時折、水溜まりに映った自分を見つけると、その存在を消すかのように強く足を叩きつけ、自己否定をしながら進む。森は美しくても、自分自身はこの世界に認知されない忌み子なのだ。しかし、途中からそんな自己否定をする体力も無くなっていき、歩く速度は徐々に落ちていき、街へ出る頃には既に太陽の代わりに月明かりが森を照らしていた。

　これ以上動く気力もなく、今夜は山で野宿をしようと体を丸めた時、一人の男がこちらへ向かって歩いてくるのが見える。正確に言えば自分に向かってくるのではなくこの道の先へ向かうのだろうが、この先には孤児院と山奥があるだけだ。山奥に行って修行をしにいくわけでなければ、目的地は必然的に孤児院ということになる。
　この男は何故、こんな夜遅くに人気のない孤児院へ向かうのだろうか。そんな事を考えても正当な理由は思い浮かばない、この道を夜中に出歩くには場違いで、明らかに怪しい人間であり、ここを通してはいけないような気がする。
　そこで、この男を倒してしまえば孤児院は守られ、さらにお金が奪えるのではないかと考えていく。
　そんな事を考えている間にも男は、孤児院の方へに向かって行くのだから、考えることを終え、覚悟を決めて身体に力を込める。
　力を込めた身体からは電流と突風が溢れ出し、溢れ出てきた電流は地面の水滴を渡りながら線香花火の様に散っていく。突風は周りの木々を揺らし、砂埃を撒き散らして森の中に一際大きい存在感を滲ませていく。その中心にいる事は、まるで神のようであるが、実際には世間から嫌われている忌み子なだけである。
　技と言うには幼稚で芸のない力技なのだが、一般人には出来ない芸当なのだから力を発揮するだけで充分すぎる程だろう。その証拠に、すれ違いざまの男も一瞬驚いたような顔をする。
　驚いている男に隙も与えないまま、距離を一気に詰めて思い切りタックルを仕掛ける。相手に激突し男の体は確実に仰け反り、ダメージを与えた実感まではあった。そこから更に、電流は相手の身体をつたり、突風は皮膚を削っていく……

　はずだったのだが、電流は男にぶつかると同時に威力を弱め、突風も元から無かったかのように消えていく。その空間には男と子供がぶつかった衝撃だけが残り、男の方にダメージは無いも同然だった。
　すぐに反撃されると思い、後ろへと下がり警戒態勢へ入る。仮にも強盗だと仮定した人間だ、刃物や拳銃などを持っていてもおかしくはない、もしかしたらここで殺されてしまうのかもしれない。そんな考えが脳裏をよぎる。しかし、その男は立っているままで攻撃を仕掛ける素振りは見せない。
　その男はしばらく、じーっとこちらの顔を覗き込み、話しかけてくる。

「君、名前は？」

　とても穏やかな声で物凄く落ち着く。さっきまで顔もよく見なかったのだが、好青年で顔も整っていて、服装も相まって爽やか大学生と言った感じだ。思わずなんでもしてあげたくなるような雰囲気を持っている。

「疾風 迅です……」

　その好青年は聞いた答えに納得し、笑みを浮かべると唐突に右手を差し出してくる。その手は少しだけ開かれており、握手をしたいという表現であることがすぐに分かった。ただ、何故握手をしたいのかは分からないが、なされるがままに相手の握手に応える。

「僕は王と呼ばれています。僕たちは君の事を迎えに来ました。」

　王と名乗った好青年は、握手をしたままこちらを見つめている。
　迅は、誰か知らない人から自分を迎えに来たことに困惑しながらも、その男の期待に応えるように見つめ返した。