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入れ替わり先の親友の彼女、本当に最高だった

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僕には彼女がいない。生まれてこの方二十ニ年間ずっとだ。
流石に高校くらいで仲良くなれる子くらいいるはずだと思っていたら大学生になった。大学ではできるだろうと思ったらもう三年生。……そんな感じで、僕は今年もフリーのまま大学四年生になってしまったわけである。
「はぁ」
ため息を吐きながら、僕はスマホの画面を見る。そこにはメッセージアプリの通知が一件来ていた。タップしたが、いつもの画面には辿り着かない。
「あれ…?」
よく見たらアプリのアイコンがいつものと微妙に違う。困ったアプリだ。
「まあいいや……」
そう言ってアプリを開く。そして見慣れた名前を見て安心すると同時に落胆した。
『恭介今日暇?』
僕の唯一の友達、佐藤翔平からの連絡だったのだ。
『どしたの?』
僕は素っ気ない返事をする。本当は遊びたいけど、就活があり、今は忙しい。
『飲み会行こうぜ!』
『すまん』
そこで、気になっていたことを聞いた。
『なんでこのアプリにしたの?』
『まぁ、いいじゃん。たまには』
こうやって気楽に話せる友達がいるのは幸せな方だ。
そう思って、今夜は早いが眠りにつくことにした。



…朝、起きる。なんだろう、物凄い違和感だ。いつもの自分じゃないみたいだ。だいたいこんな布団で寝てたっけ…

数秒後、僕は鏡を見たことを後悔した。いや、視界に鏡があったので仕方がない。
鏡に写ったのは翔平の顔だった。何度も観た顔だ。間違いない。
心の奥底から恐怖と不安が湧いて出るが、目の前の顔を自分の意思で動かせることを確認するために、笑ってみる。
彼の笑顔と瓜二つ、いや、そのままだった。
次に、僕は自分自身の自我は昨日までの村田恭介であることを確認したかった。住所、電話番号、学校名、家族の名前…全部わかる。僕は僕自身ではあるようだ。
布団に目を向けると、スマホがあった。違和感が凄い。何しろ、見ず知らずの部屋の中でただ一つだけ、見覚えのあるものだったからだ。
「スマホだけはそのままってことか…」
夢のはずだ。こんなものは。しかし、夢にしては妙にリアルすぎるし、感触もある。それに、なんだか身体中痛いし……。
そんなことを考えているうちに時間は過ぎていく。僕はとりあえず着替えることにした。……数分後。着替え終わった僕は部屋を出た。リビングに行くと、メモがあった。
『恭介へ
 突然のことに驚いていると思う。すまん。
 単刀直入に言うと、俺と君は身体が入れ替わっている。昨日のアプリによるものだ。とある科学者が開発したもので、この間食事に行った時にこっそり君のスマホにインストールした。勝手にごめんな。
 その時、君はテンションが高ぶって、彼女がいないこと、就活がうまくいかないことを嘆いていたね。真面目な君が思っていたよりも深刻に悩むところが心苦しかった。
 そこで提案だ。就活は自分で頑張ってもらうとして、俺には彼女がいる。ちなみに今喧嘩中だ。その彼女と仲直りしてくれたら、ちょっとくらいならデートしてもいい。その後は元通りにしよう。
 この提案を飲まないんだったらすぐに連絡してくれ。』
読み終わってもなお、僕は混乱していた。
つまり、これは夢ではなく現実ということなのか? でも何故翔平の姿になっているんだろう。いやアプリの力か。
どうしよう。他人の生活を過ごす、それは大変なことだろうし、こんな超常現象何が起こってもおかしくはない。リスクが高すぎる。でも、これを逃せば生まれて初めての恋愛が…そこまで考えたところでインターホンが鳴る。誰か来たようだ。
ドアを開けると、そこには見知らぬ女性がいた。
「こんにちわー」
明るい声で挨拶された。綺麗な黒髪に整った顔立ち。服装はシンプルだが清潔感がある。スタイルも良い。
「おはよう…ございます。」
「翔くん、寝起きじゃん。悪かったね。」
「いや、全然…」
誰だろうこの人。
「あのさ、翔くん…」
「な、何?」
「こないだはごめん!私が悪かったよ!」
いきなり謝られても事情を知らないのだから困る。とりあえず普通の返事をすればいいんだ。
「そ、そんな謝らなくてもいいよ!」
そういえば彼女と喧嘩中って…
「ほんっとに!私が悪いから!ごめんね。」
「いや、もう、全然気にしてないから…」
「ありがとう。優しいとこ好き。」
っ!!!これは確定だ。この子、翔平の彼女だ。
「あ、そうだ。朝ごはん作ってきたんだけど食べる?」
えっ!?朝食を作ってくれたのか。なんて良い子なんだ。
「食べます。いただきます。」
彼女は笑顔で言った。
「じゃ、一緒にたべようか。上がっていいよね?」
「あ、うん。散らかってるけど…」
自分の家じゃないけど、女子を家に上げるなんて初めてだ。少し緊張する。
テーブルに座ると、彼女が話し始めた。
「昨日見たテレビがね、面白くてつい夜更かししちゃったんだよねぇ~」
「そうだったんだね。」
僕は彼女の言葉に相槌を打つ。
「でさぁ、その面白い番組見てたらいつの間にか寝ててさ~。起きたのが三時だったの。それで、まだ眠いなと思って二度寝しようとしたんだけど、なんか眠れなくてさ。」
「なるほどね。」
僕はただ聞いているだけだが、それでも楽しい会話だ。
「で、朝ご飯作ったの。目玉焼きとトーストだけど。」
「なるほど。」
か、可愛い…他人の恋人にこんなことを思ってはいけないとは知りながらただ相槌を打つだけで楽しいこの空間が既に愛おしい。他人の彼女を好きになってしまうなんて許されないことだとわかっていてもこの感情を抑えることができない。この気持ちは本物だ。
それからしばらく話した後、彼女が立ち上がった。
「じゃ、私は帰るね。また連絡します。」
「わかった。気をつけて。」
「ありがと。」
一人になって、スマホを出す。
『提案ありがとう。しばらく入れ替わってみよう。』
『了解』
踏み込んだ瞬間だった。いいのだろうか。まぁいい。翔平以外には誰にも知られていないのだから。
『ちなみに、彼女と仲直りできた?』
どっちで答えたらいいのだろう、できたと言えば次のステップ、一回きりのデートに進まなければならなくなり、できていないと言えば唯一無二の親友に大噓を付くことになる。
『できてない』
嘘をつくことにした。
『ガンバ』
『サンキュー』
今まで感謝した中で、一番心苦しい感謝だった。ごめんな、翔平。

翌日も彼女は家にやって来た。
「おはよ~」
「おはよう。」
「今日はもう起きてるんだね。」
「うん。まぁね。」
「上がっていい?」
「もちろん!」
昨日よりオシャレしてきたのか、昨日より輝いて見える。
「綺麗だね。」
「え?なにが?」
「君がだよ。」
翔平の真似をして言ってみる。
「ちょ、ちょっと……急にそういうこと言わないでよ……照れるじゃん……」
やばい。可愛すぎる。
「だって本当に綺麗なんだもん。」
「……」
彼女が黙ってしまった。まずい、引かれたか?
「ねぇ…」
雰囲気が変わった。ごくりと唾を飲み込む。
「キスしたいって言ったらどうする?」
「え?」
予想外の質問に動揺する。
「だから、キス……」
彼女が顔を近づけてくる。僕は慌てて後ずさりをした。
「ちょっと待って!僕たち…その…」
「そんなの今更だって」
彼女がさらに距離を詰める。
「…よしっ…」
僕は決心した。この体は翔平のものだ。だから、この体が体験したことは、形式上翔平のものになる。だから、いい。
僕も彼女に距離を詰める。「……」
あと5センチ……3センチ……1……
「んっ…」
僕にとっての、初めてのキス。柔らかい唇が触れ合う感触が伝わってきた。そして、彼女の吐息を感じた。
「はぁ……はぁ……」
心臓が高鳴っている。
「ふぅ……」
彼女の顔を薄めで見る。そこには頬を赤く染めた女の子がいた。
「翔くん……大好き……」
「俺も……」
彼女の肩を掴む。
「んっ……」
もう一度、今度は長めのキスをする。舌と唾液が絡み合って、頭の中で音が響く。彼女の身体はとても熱くて、汗ばんでいた。
「暑いから…脱ぐね…」
彼女は服を脱ぎ始めた。
「いいよ……」
僕の許可が出ると同時に下着姿になった。とても綺麗だ。
「いいよ……きて……」
僕は理性を失ったように彼女の胸に吸い付いた。
「あっ!……だめぇ……」
「……」
「い、いつもこんな激しかったっけ?」
「ご、ごめん…」
「いや、最近だと久しぶりだし…あんっ!」
「……」
「やっ……もっと……」
「……」
「あああ!●っちゃう!!」
まだだ。もうちょっといじりたい。僕の指は自然と下半身の方へ伸びていた。
「えっ!?あぁっ…ちょっと…」
「いいじゃん……」
僕は一際美しいその太ももを刺激した。
「あぁ!そこぉ!!イィ……」
「……」
「●クッ……」
「最高。」
「あぁ!ダメ!!そこは!」
「……」
「あぁぁっ!!!」
彼女の全身が大きく痙攣する。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
「うん。」
「じゃあ次はこっちね。」
「え!?あぁ!!今終わったばかりなのにぃ……」
僕は容赦なく踏み込んだ。一生で一度かもしれない。後悔しないように、全てをぶつけようと思った。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「好きだよ。」
「私もぉっ!」
一割の罪悪感と、九割の快楽。その日は、一生忘れられない日になった。
どうしよう、翔平の幸せな生活をずっと続けていたい。腐りきった自分のなんとなくの人生なんて捨ててしまいたい。でも、それは許されない。翔平が許さない。それに、この生活はいつまで続くんだろう。もし元に戻ったら、僕はどんな顔して翔平に会えばいいんだ。
『仲直り、どう?』
もう、やめにしよう。
『仲直り、できたよ』
『デートしたい?』
『いや、いいよ。戻ろう。』
『じゃあ、もう寝て』
友情が勝った。
目が覚めると、元通りの身体だった。村田恭介としての再スタートが始まる。
メールを開くと、就活の面接の日程が書かれていた。そういえばそんな時期かと思いながら、返信の文章を打ち始める。
『わかりました。では明後日の十時でよろしいでしょうか?』
送信すると、すぐに返事が来た。
『ありがとうございます。よろしくお願いします。』
このまま恋人なんてできないかもしれないし、この面接にも落ちるかもしれない。でも、自分なら大丈夫と勝手に思えた。僕は案外、できる奴だから。
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