僕らと異世界

山田めろう

文字の大きさ
20 / 41
第三章 凍える大地

人狼

しおりを挟む
 獣の唸りが聞こえる。
 獲物を狩る合図か、それとも逃げることさえできない愚か者を殺める決断か。
 いずれにせよ、今の僕にとっては、どちらもが死神の鎌でしかない。
 首筋に触れる死の切っ先。
 これが、命を奪われる者の恐怖。
 声さえあがらず、体の感覚さえ失うほどの萎縮。
 それを――――。

「敵襲っ!!」

 ――――一喝と共に、鉄の閃きが斬り裂いた。
 地が揺れるような足音と、背後から入れ違うように雪崩れ込む人影。

人狼じんろうだ! 異人様を城内へ連れ戻せ!!」
「ギリアン! マリフ! 異人様を!」
「敵襲! 敵襲――!!」
「さぁ、異人様! こちらへ!!」
「――来るぞ!」

 二人の兵士に両腕を抱えられ、僕は引きずられるようにして城内へと連れ戻される。
 その最中、僕のすぐ目の前で、初めての実戦が始まった。
 人狼は四。兵士は視界内だけで六人。
 閃きがぶつかり合い、火花を散らす。
 風を裂く音を聞くだけで、背筋が凍りつきそうになる。
 訓練ではない、本物の剣戟。
 互いの生死をかけた、本物の戦いだ。

「こいつら――魔人がどうしてここに!?」
「知るか! 左、固めろ! 突破力は相手が上だ!」
「城内に入れさせるなよ!」

 ――後続、応援は!?
                     五番隊がもうじき追いつく!――
 ――非戦闘員の避難を急がせろ!
                    ブライアン! 兵長に報告を!――
 ――走れ走れ走れ!!

 声が殺到する。
 その間でさえ、殺意と殺意がぶつかり合い、入り乱れる攻防の音はまるで怒濤の如し。

「異人様、立てますか?」
「・・・・・・あ」

 僕の顔を一人の兵士がのぞき込んでいた。
 その顔は兜で覆われ見えないが、僅かに奥で光る瞳と声は、確かに僕の身を案じている。

「ここは我々が抑えます。ブライアンが案内します、城内を戻ってください。いいですね?」
「え・・・・・・で、でも・・・・・・」
「ご心配なく。こういう時の為、我ら兵士は日々鍛錬を積んでいるのですよ」

 ぽん、と僕の肩を叩く兵士。
 その手は、まるで命のように重くのしかかる。

「走れますね? さぁ、後ろの彼についていってください」

 使い物にならない頭でも、本能は生き延びようとしているのだろう。
 震える足のまま、僕は生まれた子鹿みたいな足取りで立ち上がり、彼らを見据える。

「まずい! エリック――!」

 刹那、弾けるような風圧によろけた。

「さぁ! 急いで!!」

 目の前で、人狼の爪を剣で受け止めながら、兵士は叫んだ。
 その背中が、僕の本能が――振り返るな、と言っている。

「・・・・・・っ!」
「私についてきてください!」

 遠ざかる戦の音を背に受け、僕は再び城内をひた走る。
 何度か転びそうになりながら、疲労で千切れそうな両脚は悲鳴をあげつつも、このからだを危険から遠ざけんと動き続けた。
 どれほど走ったか。
 あまりの必死さに記憶は曖昧で、とてもターナを探せるような状態ではなくなっている。
 肩で息をしながら、僕は兵士の人に会わせて足を止めた。
 ・・・・・・でも、なんでだろう?

「・・・・・・馬鹿な。それは・・・・・・ネグロフの紋章?」

 兵士の人――確かブライアンと呼ばれていたその人の声は、震えていた。
 緊張と疲労で揺れる視界。
 長距離走で全力を出し切ったようになっている僕は、遅れて目の前の存在を視認した。
 灰色の甲冑。
 その胸元には、狼らしき獣を象った紋章のようなものが描かれている。
 そしてその足下には・・・・・・数名の兵士が、血溜まりの上に倒れ込んでいた。

「何故っ・・・・・・ネグロフの者でありながら、何故このような真似をする!?」

 よく見ると、灰色の甲冑は三人だった。
 いずれもが長剣を手にしており、各々がこちらを無言のまま不動で見返している。
 それが、言い様もなく恐ろしかった。
 まして、倒れている兵士よりも彼らの頭数は少ない。
 数で劣りながら勝利していることは、同時に彼らが並々ならぬ手練れであることを連想させる。
 ゆらり、と一人が長剣の切っ先をこちらへ向けた。

「我らの団長が選んだ道ゆえ、貴殿らを手に掛けねばならん。理由は聞くな。・・・・・・到底、貴殿らが受け入れられるものではない」
「だ、団長・・・・・・だと? ベルサー将軍のことか!? ふざけるな、将軍が祖国を裏切るなど・・・・・・」

 ブライアンさんは、明らかに困惑していた。
 少しだけ呼吸が整ってきたおかげで、僕の脳にも酸素が回ってきたのかもしれない。
 聞く限りでは、灰色の甲冑三人はネグロフの人達らしい。
 彼らが人狼とどう繋がりがあるのか分からないが、どうにも団長とやらに従っている様子だった。

「否。しかし、聞き覚えがなくて当然のこと。本来、我らは秘蔵の騎士団――」
「そこまでにしておけ」

 別の一人が、切っ先を向ける一人の言葉を遮った。

「何も知らずに逝かせてやるのが、せめてもの手向けだ」
「・・・・・・そうだな。ネグロフの兵よ。いずれ我らも同じ場所へゆく」

 剣を構える音が聞こえる。

「咎めは、そこで聞こう」

 兜で素顔さえ見えないはずなのに、ぎらりと睨まれたように体が硬直してしまう。
 背筋の芯が急激に熱を失い、ひどい発汗と震えが全身を襲う。
 僕は、そこでようやく、それが殺気を受けての反応だと気づいた。
 研ぎ澄まされたある種の意思は、無形として同じ無形へと影響を与える。
 つまり、相手の殺意に対して、それを受け取るのは僕の意思――精神だ。
 だから、僕は怯えているんだ。
 今まさに、自分が殺されてしまうという肉薄する事実に対して。

「異人様! お逃げくださいっ!」

 ブライアンさんの声が飛び、僕はびくり、と体を強張らせる。
 けど、「生き延びる」という一点においては、僕の本能が既に臨戦態勢だったらしく、考えるよりも早く体は動いた。
 場所は城内の主要通路。一直線の長い廊下だ。
 当然、前進するという選択肢はない。
 後ろを振り返り、少し戻った先に左へ逸れる道が目に入る。

「早くっ!」

 声に急かされ、僕は走り出した。
 体は疲労を訴えているが、同時に体がそれをねじ伏せていく。
 無理だ、という理性からだを、走り続けろ、という本能からだが塗りつぶす。
 流れる視界。
 極端に狭まったその中でさえ、城内では幾つもの戦いが繰り広げられていた。
 狂乱状態で逃げ惑う使用人。
 あちこちで床に伏す誰か。
 壁や天井に刻まれた、得物の傷痕。
 そして、人狼と灰色の甲冑達に抵抗する兵士達。
 地獄だ。それは、きっと地獄だった。
 アニメ? ゲーム? 漫画?
 ――そのどれともだって似つかないことを、今更僕は痛感する。
 嘘だ。これはきっと、なにか悪い夢なんだ。
 思わずそう逃避してしまいそうになるほどの、血生臭い緊張感。
 吐き気を催す重圧感。
 ごっそりと思考を削ぎ取られてゆく戦場の空気は、元の世界のどんな創作物でだって味わうことはできないだろう。

「・・・・・・っ!?」

 一瞬、体が宙に浮き、そのまま突っ伏すように倒れ込む。
 無理を押してきた体も、そろそろ限界だったようだ。
 まるで水を浴びたような汗と、酸素を求めて足掻く肺。
 レッドラインを超えた体が至る箇所に警告を発し、唯一縋り付いていた本能さえも弱々しくなっていく。
 どこをどう走ったかなど、覚えていないどころか考えてさえいなかった。
 直感が捉えた死を避け続け、がむしゃらに走り続けてここまで来たのだ。
 覚えている方が、どうかしている。

「はぁ、はぁっ・・・・・・はぁはぁ、はぁ・・・・・・」

 呼吸は一向に整わない。
 心臓の鼓動ばかりが速いままで、肝心の僕自身がまるでだめになってしまっている。
 定まらない視点のまま、振り絞るようにして前を向く。
 それが、今の僕の全力。精一杯の生きる動作だった。

(・・・・・・あぁ、くっそぉ)

 白い輪郭が目に止まる。
 最後の最後に、ついていない。
 こんな状態でだって、自分が逃げ続けてきた相手くらいは認識できるものだ。
 人型の獣。あるいは獣型の人か。
 どうであれ、人狼と呼ばれる怪物が近づいてくることに違いはない。
 死を目の前にすれば、都合良く体が動いて・・・・・・なんて奇跡は・・・・・・たぶん、起こる。
 けど、僕にとって、その奇跡は既に何度か掴み取ったものだったことが、最大の問題で。
 奇跡は起こるが、そう何度も僕を助けてはくれない。
 一度、二度でこの戦場を脱せなかった僕が悪い。
 死に際の教訓だ。
 奇跡だって、それをものにするかどうかは個人次第。
 そう、あれはきっと――英雄とかが手にするからこそ、全てを覆せるものなのだ。

「――――様っ!!」

 諦めかけた瞬間、呼ぶような声が意識を揺らした。
 それとほぼ同時に、ガラスか何かが割れたような高い音が耳に入る。

「ぐっ!? が、あっ!」

 すると、あと数歩という距離まで来ていた人狼が、突然後ずさりながら苦悶をもらし始めた。

「――スケ様!」
「・・・・・・この、こえ」

 聞き覚えのある声。
 僕が探していた、誰かの・・・・・・。

「ユウスケ様! ユウスケ様!!」

 駆け寄る気配と僕を呼ぶ声。
 間違いない。うつぶせで倒れているせいか、まだ顔だって確かめていないけど、この声を聞き間違えるはずがない。

「タ、ターナ・・・・・・」
「はい、私です! ターナです! お怪我はありませんか!?」
「う、うん・・・・・・ちょっと、転んじゃっただけだから」

 そう言いながら立ち上がろうとするが、一度熱の下がった体は思うように動かない。
 すると、ふわっと軽くなった感覚と同時に、僕は一気に立たせられた。

「ほい、しゃんと立ってくださいよ、異人様」
「だから、あまり失礼を言うな。・・・・・・異人様、よくぞご無事で」

 僕の両脇を抱えるのは、これまた聞き覚えのある兵士二人。
 そうだ、見張り台を持ち場とする、あの兵士の人達だ。

「しっかし、ひでぇ臭いだな、嬢ちゃん。ありゃなんだよ」
「気化性の薬物です。嗅覚に優れる生物であれば、この刺激臭は十分驚異になるはずです」
「あぁ、みてぇだな。んで、本当に毒性はないんだろうなぁ?」
「そんな大層な薬物ではないので、ご安心ください。服に臭いがつくと、しばらく取れないくらいですので」

 そりゃ最高だね、と言いながら、抱えていた僕をターナに預ける。

「あまり長話もしていられない。城内は完全に混乱状態だ。おまけに相手は、この魔人どもと謎の甲冑連中ときたものだ」
「へっ、傭兵やってた頃を思い出すなぁ、おい。よりによって満月に人狼たぁ、随分とおあつらえ向きじゃねぇか」
「笑えん話だな。いずれにせよ、異人様を安全な場所までお守りせねばならん。あいつが怯んでいる間に撤退するぞ」

 言うや否や、僕らは再び走り始める。
 とはいえ、僕はターナに支えられながら、ようやく重たい足を動かせる程度なので、お世辞にも速いとはいえない。

「ごめんね・・・・・・」
「え、どうされましたか、ユウスケ様?」
「僕が・・・・・・余計なことしたから・・・・・・」
「いいえ、そんなことはございません。すぐにでもお側に戻れなかった、私の責任です。ご自分を責めるのは、お止めください」

 こんな状況でも、ターナは僕を気遣ってくれる。
 本当はターナだって怖いはずなのに・・・・・・。

「しかし他の異人をまったく見ねぇが、どこに行っちまったんだ?」
「分からん。まぁ、彼らは陛下の庇護のもとにいる。場合によっては、既に王城を脱しているかもしれんな」
「あり得るねぇ。俺ら国軍兵が軒並み出張ってんだ、奴さんはここに釘付けだろうよ。それに、異人を狙っての襲撃かどうかも怪しいもんだしな」
「違うとすれば、陛下か。城下の状況がまったく入ってこないのが不気味だが、戦力を王城に集中させている可能性はあるな」
「ま、このご時世、国をまるごと相手取るような戦法はとらねぇだろ。そんな戦力、どこから引っ張ってきて、どこに隠すってんだよ。外は猛吹雪、それに強襲。・・・・・・どう見たって、やり口が短期決戦だぜ」

 僕とターナの前後を相互で警戒しながら、兵士二人は状況を冷静に分析していた。
 その間も足を止めることはなく、しばらくして開けた空間に出る。
 そこは、見る限りでは激戦の後らしき広間だった。
 剣や槍がそこかしこに転がり、十人を超える兵士達やローブ姿の人々が倒れ、あるいは壁に寄りかかったまま事切れている。

「あまりじろじろ見んなよ。気持ちの良いもんじゃあねぇ。前だけ向いてろ。生きることに集中してりゃあ、それでいい」

 未だ、遠くからは剣戟の音や裂帛の声、あるいは断末魔じみた叫びが、木霊するように聞こえてくる。
 僕もターナも、素直に兵士の言葉通りにし、息を潜めるようにして先を急いだ。

「人狼も強敵だが、あの灰色の甲冑ども。剣術の腕が並ではない。一体何者だ・・・・・・?」
「ネグロフの紋章をひっさげてるのは見たろ。陛下お抱えの私兵団とかじゃねぇのか」
「私兵団が裏切るものか。私達のような傭兵崩れじゃない限り、裏切る要素がない。しかし、私達の知らない親衛隊のようなものだとしても、城外から攻め入ってくる点が疑問として残る」
「まぁな。陛下の側近だってんなら、寝込みを襲うくらいは朝飯前だろうしなぁ。人目にさらせない懐刀ってんなら、それこそ暗殺は独壇場・・・・・・」
「だが、暗殺というには不手際が過ぎる。こうも騒ぎとなっては意味がないだろう。人狼とは共闘関係にある風から見ても、同じ魔人と考えるのが妥当なところだが・・・・・・なぜ、変化している個体と人の身を保ったままの個体がいる?」
「知るかよ。んなこたぁ、奴さんに聞いてくれ。第一、まずは異人様と嬢ちゃんの安全を確保しねぇとだろ。小難しい話は後回しにしようぜ、相棒」

 脱線しかかっていた当初の目的を確認しあった二人は、ターナに道順を尋ねる。

「嬢ちゃん、ここらで安全な場所ってあるか?」
「安全、ですか」
「身を隠せるような場所って言い換えてもいいぜ。ほら、俺達ぁ見ての通りぺーぺーの下っ端兵だからよ。持ち場以外はあんま歩き回らねぇんだよ」
「・・・・・・ここからですと、使用人の控え室が一番の近場かと。部屋数もありますし、身を隠すにはまだ使えると思います」
「よし。んで、この通路を直線で行けんのか?」
「いえ、今が二階部分なので・・・・・・一階へ下りてから、階段を背に東側の突き当たりです」
「この状況では、目と鼻の先、とは言い難いな」

 しかしながら、他に動き回るほどのリスクと天秤にかけて向かう先もなく、僕らはターナの案で控え室を目指すこととなった。
 二階部分は、随所に激しい戦闘の跡が残されており、それが同時に光明でもあった。
 突破された後ということもあり、敵との遭遇は今のところない。
 ターナ達が駆けつけてくれた際の人狼も、追撃してくる様子はなかった。
 単純に諦めたのか、こちらを見失ったのか。
 死屍累々の廊下を行くと、踊り場のような空間と上下へ繋がる階段に辿り着く。
 先導を務める兵士が手で「止まれ」と合図を送ってきた。

「・・・・・・よし。人影はない。散乱物が多い、足下に気をつけろ」

 兵士の一人が先に下り、僕はターナと一緒に壁伝いで階段を下っていく。
 一度屈んでしまうとそのままへたり込んでしまいそうな僕に代わり、散らばる小物や破片、武器などはターナが絨毯の上にそっと置いて、どかしてくれた。
 情けないけど、僕は完全に体力が空っぽになってしまったらしい。

「嫌な空気だ。・・・・・・西で不死者退治の依頼を、この馬鹿が二束三文で引き受けた時並に胃が痛ぇぜ」
「静かにしろ。それと、あれはあれで良い経験になったろう」
「あぁ。二度と地下墓地カタコンベになんざ入らねぇって心に誓ったからな」

 この二人の兵士は、元々は傭兵稼業を生業としていたみたいだ。
 会話のやり取りを聞いているだけでも、二人が長い間相棒同士としてやってきたことが伝わってくる。
 階段を下りてからは、主要通路を避けて内勤者が利用する連絡路を進んでいく。
 すれ違う程度が精一杯な細いそこは、常に似たような設計になっており、まるで迷宮にでも踏み込んだかのようだった。
 しかし、比較的敵襲にさらされづらいそこでさえ、時折、犠牲となった人達がいた。

「随分と城内の間取りを把握してるみてぇだな。使用人はともかく、兵士は根こそぎか」
「戦闘要員は皆殺しだな。優れた統率に徹底した武力制圧。・・・・・・急ごう、私達もベルサー将軍の元に向かわなければ」
「へっ、心配すんな。あの鬼将軍が簡単にくたばるタマかよ」

 そうして、僕らはようやく突き当たりの前までやってくることができた。
 そう・・・・・・突き当たりではなく、その手前まで。

「・・・・・・そ、んな」

 僕を支えるターナが、震える声で途切れがちに言葉をもらす。
 無理もない。僕だって、言葉がでない。

「くそったれが・・・・・・今日はどうにもついてないぜ」

 連絡路から直接控え室へ繋がることに安心していた手前、そこに佇む一人の剣士の存在感たるや、衝撃にも近いものがある。
 無言のままこちらを見据える姿は、やはり灰色の甲冑で身を包んでいる。
 兜と鎧には返り血が飛び散ったのか、鮮烈な模様が上塗りされており、いかに凄惨な戦いが行われたのかを物語っていた。

「どうする、相棒。来た道を戻るか?」
「いや、ここで仕留める」

 問いに対し、先導していた兵士は即決をした。
 修羅場を潜り抜けてきた判断力というものなのだろうか。
 もはや二人の兵士には、一片の迷いさえないようだった。

「さがってな、今ちゃっちゃと片付けるからよ」

 言いながら、しんがりを務めていた兵士が兜を脱ぎ捨て、僕らよりも一歩前へ出た。
 手にした弓を構え、背負った矢筒に手を伸ばす。
 それが切欠か、それとも両勢に別の合図があったのか。
 僕には分からないが、先に仕掛けてきたのは敵の方だった。
 速い。およそ鎧を着込んでいるとは思えない、驚異的な身体能力。
 間合いとしては中距離――まだ弓矢の距離ほども離れていたにも関わらず、気づけば灰色の剣士は兵士の目前にまで迫っていた。
 袈裟懸けに放たれた剣閃を、前衛は盾で受け流し、更にその肉薄したまま体重を乗せた盾のぶちかましが炸裂する。
 一度、片手剣を肩程まで持ち上げていた構えからのフェイントだ。
 姿勢からでは読み切れない一撃は、防がれることなく剣士を押し戻す。
 その隙を狙い、前衛の顔を掠めるようにして、矢が灰色の剣士を射貫いた。

「ちっ・・・・・・なんつー反応だよ、おい」

 悪態がもれる。
 確実に命中するかと思われた矢は、明らかに体勢を崩したままの相手によって剣の腹で弾かれたのだ。
 僕からすれば、もはや曲芸じみた動体視力。
 数秒にさえ満たない刹那で迫る飛び道具、おまけに線ではなく点で撃ち抜くそれを、一体全体どうすれば一瞬の判断で防げるというのか。

「・・・・・・見事な連携だ。賞賛に値する。貴殿ら・・・・・・ネグロフの正規兵ではないな」

 再び半身で構えた剣士は、二人の兵士へそう語りかけた。

「残念だが、私達はネグロフの兵士だ」
「あぁ。万年見張り台で突っ立ってるしがない下っ端だっての」
「ほぅ・・・・・・ぬかすものよ。国軍兵が、このような極度の閉鎖空間での戦闘に練達しているものか。今の立ち回り、思いつきで成せるものではない」

 剣の切っ先を持ち上げながら、「余程、染みついた戦技と見える」と自らの分析をぶつけてくる。
 一拍置いて、二人の緊張が強まるのを僕らは感じた。
 表情でなくとも、それは背中だけで十分すぎるほど濃厚な気配。

「・・・・・・一つ問いたい」

 兵士の言葉に、灰色の剣士は「聞こう」と短く答える。

「何者だ。そちらこそ、尋常の使い手ではないだろう。その紋章、ネグロフに所縁ある者と見受けるが」
「先の一合に敬意を表し、身を明かそう。幸い、我が同志もいない」

 そう言い、灰色の剣士は兜を脱ぐと、その場に落として見せた。
 鉄の下、その顔は確かに男性ひとのもの。
 しかし。

「――その瞳、まさか」

 獣の瞳。
 猫目のような縦に細い瞳孔は、間違いなく人間のものではなかった。

「いかにも。貴殿らが魔人、あるいは人狼と呼ぶ者。その血脈にこそ魔を宿し、人と魔族の狭間にある異端だ」
「何故、魔人がネグロフの紋章を・・・・・・」
「先ほどの立ち回りを見せた武人にしては、察しが悪い。いや、受け入れられぬだけか?」

 嘲るわけでもなく、素顔をさらした剣士は困ったように笑ってみせた。

「知れたこと。我らは百獣の騎士団。古くから、ネグロフ王家の秘蔵として在る、人狼の騎士に他ならない」
「おいおい・・・・・・こいつ、自分が何言ってるか分かってんのか!?」
「あぁ、正気だとも。でなければ、大国といえど英雄戦力に欠くネグロフが、王都からの応援もなしに北境の統括を任されるわけがあるまい」

 そして、我らこそがその英雄戦力きりふだの代替だ、と。
 しかし、そう考えれば、状況はまさしく最悪そのものであった。

「ネグロフが・・・・・・人狼を抱える国家だっただと・・・・・・」
「秘蔵である意味は、わざわざ話す必要もないだろう。貴殿らにとって、魔人は畏怖の対象。いずれにせよ、我らは民と共存できる存在ではない」
「待て! では・・・・・・そちらも陛下に仕える身のはずだ。それが何故、このような凶行に及ぶ。古くからネグロフと共に在ると語るならば、王家への反逆はその歴史を否定することになるぞ」

 指摘は的を射ていた。
 百獣の騎士団とやらがネグロフ王家に仕えるならば、この反乱は一体どういう意味を持つのか。

「その通りだ、兵士よ。これは、ネグロフの否定。いや、我らが団長の意思そのものである。騎士として誓いを立てた以上、恨みはないが、貴殿らを屠らねばならん・・・・・・」

 最後、言葉尻には僅かな後悔が垣間見えた。
 迷いはないが、決して求めたわけではない。そんな風に、僕には聞こえたのだった。

「団長? 王家に仕えると――――」

 言いかけ、兵士ははっと息を呑む。
 何か、気づいてはいけないことに気づいたように。

「辿り着いたか。そうだ――コーネリア様こそ、我ら百獣の騎士を束ねる長。死して英雄となられた、タリム様を超えるネグロフ最強の剣士の一人よ」
「・・・・・・なんてこった。じゃあ、あの馬鹿でかい怪物は・・・・・・」
「『凍える息のコーネリア』。人狼としての力に呑まれた、我らが団長その人だ。満月の下にあっては、あの方を止められる者は今のネグロフに存在しまい」

 ――我らも含めて、と剣士は締めくくる。
 忘我の内にあるコーネリア姫は、人狼の怪物となってネグロフに攻め入った。
 誰もが、衝撃で言葉を失っていた。

「けど、どうして・・・・・・コーネリア様はそんなことを・・・・・・」

 僕が、静寂の中でぽつりとこぼす。

「首謀者が姫様となりゃあ、目的はまず間違いなく陛下だ。・・・・・・二年前、陛下は姫様の再三にわたる嘆願を無視して、その婚約者だったタリム様を戦地へ送り出したんだ」
「ど、どうしてそんなこと・・・・・・」
「そうしなけりゃ、ネグロフは国際上孤立する羽目になるからだよ」
「そうだ、異人の少年。北境はただの領土上の境界線ではない。二年前、魔族が北境を超えようと進軍した。ルカルディ、ウィンターベアの両国はもとより、王都からの応援も駆けつけ、北部絶対防衛戦線が構築された。・・・・・・この状況で、自国だけ主力を出さずに許されると思うか?」

 ・・・・・・許されるわけがない。
 皆が命をかけて戦っているのに、自分達だけ助かろうなんて真似をすれば、それこそネグロフの立場はズタズタだろう。

「必然だった。だが、コーネリア様はその必然に抗おうとした。せめて、生きて戻れないならば、同じ戦場で散ってゆくとして。しかし、それさえ許されず、あの方は独り残されてしまった」

 それは、僕らには語られなかった、父と娘の確執だった。
 愛する者を奪われながら、その奪った張本人達を守る立場にあるという、皮肉な運命。

「人狼としても、剣士としても、コーネリア様はお強かった。だが、一人の女性としては――純粋なまでに女性然としていたのだろう。その心が弱まる様は、まるでつがいを失った獣そのものであった」

 ずぅん、と腹の底に響くような音と揺れに、思わず僕はすくみ上がった。

「長話が過ぎたな。・・・・・・さて、そろそろ幕切れだ。貴殿らも、我らも、仕える者と同じ末路を辿るのが宿命よ。百獣が理性を失うならば、貴殿らはここで力尽きるのが定め」

 今までの語り口調とは一転し、灰色の剣士――いや、百獣の騎士の構えは瞬時であった。
 弾丸のような接近。
 受ける盾に向けて、矢継ぎ早に放たれる剣閃は烈火のよう。
 前衛の兵士は、正面から受けていた盾を払い、相手の真横に位置取るよう足を運ぶ。
 そのすれ違う一瞬の合間。
 前傾のまま長剣を空振る騎士から、まるで小動物を鷲掴みにでもするように手が伸び、兵士の片腕を捉えた。
 風を切る音が鳴る。
 後衛で弓を構えていた兵士からの狙撃。
 相棒を離せ、と意思を込めたようなその一撃は、百獣の騎士を今度こそ射貫いた。
 威力を保つに距離は十分。
 むしろ、弓としては近すぎるかもしれない程で放たれた矢は、いかな鉄の鎧といえど貫いてしまう。
 血が滴る。
 矢は、騎士の手の平を真っ直ぐに命中している。

「くそっ――やべぇ、離れろ!!」

 だというのに、二人の反応はその真逆だった。
 蠕動する肉体。
 鎧の金具を自ら吹き飛ばし、ケダモノへと変わる悪夢の変化。

「ちく、しょう――!」

 抑えられているのは剣を持つ腕。
 盾を手放し、拳を撃ち込むが、もはや通常の膂力では通用している様子はなかった。
 兵士の一人が、矢をつがえる。
 膨れあがった肉体は鋼のようであり、白い毛皮と鋭い爪が最初の恐怖を想起させた。
 二度目の狙撃。
 主の手を離れた矢は、その相棒を救わんと空を奔る。
 が、今の相手は人狼。
 剣術を捨てた騎士は、その代価として野性の感覚と生命力を得ていたのだろう。
 振り払う片腕によって、矢は呆気なく破砕してしまった。
 完全に飛び道具を見切られた。
 射手にとって、これ以上とない絶望。
 それは、つまり――。

「――――やめろっ!!」

 ――囚われの相棒を助けることは、もはや手遅れであることを意味していた。
 叫び声は虚しく。
 鎧に覆われていない喉笛を、人狼の牙が捕らえる。
 噴き出す鮮血。
 筋繊維ごと食い千切られ、人狼の顔全体を朱に染めながら、兵士が一人、がくりと膝を着く。
 そのままゆっくりと。
 まるで、彼の死に際だけ時間が遅れて流れているように、絶命の瞬間は脳裏に焼き付いていく。

「野郎ぉ!!」

 怒りが、残されたもう一人を突き動かした。
 更に速く、更に正確に、その頭に風穴をあけてやるとして。

 ――狩人と獣の相対。

 もし、そこに勝敗を分ける理由をもう一つ挙げるならば。

「がっ・・・・・・な、に・・・・・・?」

 連絡路という地形条件こそが、人狼の身体能力に味方していた。
 地形の起伏はおろか、標的までは避けようのない直線。
 蹴り上げる石畳が砕けるほどの脚力の前では、もはや勝負にさえなっていなかった。
 胴体に、四本――爪痕を刻まれた彼もまた、がくり、とその場で崩れていく。
 腰元から、床へみるみるうちに血溜まりができあがる。

「タ、ターナ・・・・・・見ちゃだめ!」

 僕にできることなんて、何一つなかった。
 けど、反射的に僕はターナを抱き寄せ、その視界を奪う。
 爪が薙ぐ。
 同じく、首筋という急所を狙った必殺。
 容赦ない一撃に仰け反り、最後は背中から床に倒れる。
僕らをここまで守り抜いてくれた勇敢な兵士二人は、僕らの目の前で物言わぬ故人になってしまった。
 呆然と立ち尽くす僕らに、ぎろり、と青い双眸が向けられる。

「・・・・・・・・・・・・ぁ」

 声が出ない。
 体が動かない。
 足も手も震え、僕は情けないくらい恐怖に打ち負けていた。
 けど――。

「ターナ・・・・・・――て」
「・・・・・・え?」

 ――どうしてだろう? 僕は、目の前に転がっていた剣を拾い上げていたんだ。

「逃げて! 早くっ!」
「そ、そんなっ――」

 困惑するターナから離れ、僕は庇うように人狼に剣の切っ先を向ける。
 震えているせいで定まらないそれでも、今にだって逃げ出しそうになる両脚に奥歯を噛みながら、精一杯の威嚇をする。
 涙が出てきた。
 死ぬに決まってる。
 勝てる道理がないのだ。
 せめて、ターナの手をひいて逃げ出せば、まだ希望はあるかもしれないのに。

「く、来るな! 来るなぁ!」

 どうして、こんな馬鹿な真似をしているのだろうか。
 無論、人狼は僕の言葉など歯牙にもかけず、その肩を揺らしながら一歩一歩近づいてくる。

「・・・・・・ひっ」

 息が止まる。
 近い。もうきっと、あの怪物にとっては容易く僕を殺せる距離だ。
 視界はぼやけ、嗚咽が止まらない。
 涙を堪える強さなんてないし、気迫のままに一矢報いる勇気もない。

「・・・・・・異人の少年。それで、我らに勝てるつもりか?」

 そんなの、勝てるわけがないじゃないか。
 勝てないなんて僕も知ってる。

「タ、ターナだけは・・・・・・ターナだけはっ」

 知ってるけど。

「いやなんだ・・・・・・ターナだけは、」

 もう、これ以上、目の前で誰かを喪ってしまったら。

「だから・・・・・・ぼ、ぼくは・・・・・・しん、だっていいから・・・・・・」

 ――きっと、僕はもう、戻れない。
 そんな訳の分からない予感が、僕を突き動かしていた。

「お止めください、ユウスケ様!」
「だめ! きちゃ、だめだ!」

 鼻をすすりながら、僕は必死の抵抗を叫ぶ。
 守る力はない。
 けど、守ろうとすることと、守れないことは同義じゃない。
 そんな弱者の醜態を、人狼は歯を噛んで見据えていた。

「――――」

 剣が折れた。
 目にも止まらないなぎ払いは、僕の鼻先を掠め、構えていた長剣だけを吹き飛ばしてしまった。
 尻もちをつく暇さえなかった。
 僕は剣の柄だけを構えたまま、こみ上げる恐怖に目をつむる。
 何度も崩れそうになる身体を懸命に支え、止めどなく頬を伝う涙は、そのままぽつりぽつりと落ちていく。
 ぎりり、と。
 人狼の歯ぎしりが聞こえた。

「笑わせる。・・・・・・覚悟の上と知りながら身を投じたが・・・・・・これが、これが――――」

 ――――百獣の末路とでもいうか。

「なぜだ・・・・・・なぜ・・・・・・」

 その人狼は、僕と同じく、涙を流していた。
 それは、人としての吐露。
 騎士として生きるはずだった、誰かの贖罪。

「なぜ、殺さねばならない!」

 爪が振り上がる。
 今までと同じように、それは殺戮の軌道を辿っている。
 けど・・・・・・その手は、確かに震えていた。

「殺せる・・・・・・ものか。殺せるものかっ。・・・・・・戦場さえ知らぬ少年を、我が手にかけることなど・・・・・・」

 使命と理性の鬩ぎ合い。
 殺さねばならぬ道へと踏み出した彼はしかし、己の騎士としての起点にこそ、 振り上げたその爪を止められていた。

「・・・・・・どう、して」
「どうしてだと? 決まっている・・・・・・我らは百獣の騎士。本来・・・・・・この国を守り、民を守るために・・・・・・王家の懐刀となったのだ」

 例え人の身を捨てようとも、彼らは国を、民を、故郷を守ると誓った。
 人道にもとる戦と知りながら、彼と彼の同胞は王城を襲ったのだろう。
 だが、その人狼は力ない者――本来ならば自分達が死力をかけて守るべき者を前にし、自らの苦悩と直面したのだろうか。

「なぜだ、少年・・・・・・なぜ、ネグロフに縁もゆかりもない君が、彼女を守れる」

 その人狼は、僕に「なぜ命を賭せるのか」と聞いてくる。
 僕はまとまらない頭で考えながら、嗚咽の中、精一杯の答えを口にした。

「わかりません・・・・・・けど、いやなんです。ぼく・・・・・・ターナがしんじゃったら・・・・・・もう、もどれない・・・・・・きがして」
「・・・・・・・・・・・・」

 結局、答えらしい答えなど、僕の口からは出てこない。
 ただ、思い浮かぶありのままを言葉にしただけ。

「・・・・・・戻れない、か」

 けど、その人狼には思うところがあったのか。
 繰り返すように呟くと同時に、今にも僕を引き裂こうとしていた爪が、ゆっくりと降ろされる。

「その通りだ、少年。我らはもう戻れない。騎士として誓った、あの夢の日々には戻れないのだ・・・・・・」

 すると、気づいた時には、人狼は僕とターナを通り過ぎ、その大きすぎる背を向けていた。

「息を潜め、生き延びるのだ。・・・・・・我らには、この滅びを全うする義務がある。だが・・・・・・もし君が生きてくれるならば、きっと――――」

――――この滅びにも、意味が生まれるだろう。

 まるで、それは願いを托すような、儚い言葉だった。
 それ以上語ることはなく、人狼は風の音だけを残し、僕らの前から姿を消してしまう。
 ・・・・・・どうして、彼は僕らを見逃してくれたのだろう。
 答えのでない疑問はしかし、ターナの声で消えていった。

「ユウスケ様! どうして、ユウスケ様!!」
「・・・・・・・・・・・・」

 僕の前に駆けだしてきた彼女もまた、涙を流している。
 はは、僕ら全員、泣いていたんだね。
 緊張が解けていくのか、柄にもないことをした代償か、そんな場違いな言葉が胸中に浮かんだ。

「あんな無茶をなさったのですか!」
「・・・・・・ターナ」
「私、ユウスケ様が死んでしまったら・・・・・・死んでしまったら!」
「・・・・・・タ、ターナ、ごめんっ・・・・・・痛っ、いたいよターナ」
「私だって痛いです! すごく、痛いんです!」

 僕の肩を揺らしながら、ターナは全身で想いを吐き出している。
 死線をなんとか凌いだ僕は、それが心の話だと気づくのに、数秒の時間を要した。
 きっと、ターナにとっては生きた心地がしなかったろう。
 自分が死んでしまう以上に、彼女にとって僕の死は受け入れがたいものだったのかもしれない。
 ・・・・・・なんだか、そう思ってもらえてたなら、それはそれで嬉しいような恥ずかしいような。

(あぁもう・・・・・・ほんとう、今の僕はだめだ)

 張りつめすぎた緊張が事切れたのだ。
 緩むというよりも、緊張する機能そのものが疲弊しきっているのかも。

「よかった・・・・・・ユウスケ様が生きていて、よかった」
「うん。ごめんね、ターナ」
「ほんとうです。もう二度と、あんな真似はお止めになってください」

 それは、どうだろう。
 約束できず、僕はつい言葉を詰らせる。
 幸いなのは、お互いに疲れ切っているからか、ターナにそれを追求されることはなかったことだ。

「ターナ、行こう。・・・・・・本当はお墓とか作ってあげたいけど・・・・・・今は、隠れなきゃ」
「・・・・・・はい」

 涙でぐしゃぐしゃのまま、僕はターナと一緒に、ようやく目的地へと歩き出す。
 何気なく開けた控え室への扉の先は、やはり悲劇の後だった。
 兵士が四人。いずれも、一太刀で絶命させられた風に見える。
 部屋は血でこそ汚れているが、ここに来る道中ほど荒れ果ててはいない。
 この様子では、メイドさん達を逃がすために、この兵士の人達は時間稼ぎのように立ち向かったのだろう。
 振り返り、僕らをここまで導いてくれた二人の亡骸に、しばしの別れを告げる。
 まだ、戦いは続いている。
 僕とターナは扉を閉め、ただただこの惨劇が終わるのを待つことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...