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【乃亜の章】
永遠がはじまるとき ☆
もしかしたら目をつむっているべきなのかもしれない。
でも乃亜は一瞬でもこのひと時を見逃したくなくて、うっすらと目を開けたまま、ゆっくりと深くなっていくキスを続けた。
「もし家に戻りたいなら……今だ」
キスとキスの間に、かすれた声でダグラスがささやく。
厩舎の外にはダグラスのピックアップトラックがあったから、雨の中でも移動することはできる。
だから彼の提案はごく合理的なことだった。
そして、乃亜のはじめてを尊重してくれた証拠だった。
でも乃亜はここでいいと思った──ここがいい、と。他のどこでもない、ダグラスが悲しいと思ったときに心を鎮めるために選んだ、この場所で。
「ここがいいの……お願い」
ダグラスは一度だけ小さくうなずくと、それ以上はなにも言わなかった。
「あ……」
ダグラスの身体の部分で乃亜が好きなものは沢山あったけれど、どこかひとつを選べと言われたら……その神秘的な灰色の瞳でも、キスの上手な唇でもなくて、彼の大きな手だった。
大地を守る男の手。
その手が乃亜の身体の、あらゆる場所をまさぐる。
肩や背中や腰……そして服の布越しに、胸に触れられた。
「んっ」
最初は優しく撫でるように。
それでも乃亜がもどかしさに身をよじると、それに応えるように乳房をすっぽりと包んで揉みしだきはじめた。乃亜はすぐにピクリと反応した。
「あ……っ、これ……は」
いくらはじめてで初心だといっても、乃亜はこの現代に生を受けた。この行為に関する知識はある。いわゆる自慰も……試みたことはある。そこまで熱心に耽ったことはないが、どこをどうすれば気持ちよくなるのかの知識は、それなりにあった。
──でも。
「きゃうっ! あぁん!」
胸の先端の蕾をギュッと摘まれただけで、乃亜は跳ねるように首を反らしてしまった。ダグラスがなにかを我慢するようにギリッと奥歯を鳴らす。
「ノア……まだ、はじまってもいないのに」
そう言うダグラス自身の息も、まるで何キロも走ったあとのように荒くなっている。
はー、はー……という欲望の宿った息遣いを聞いているだけで、達してしまいそうになる自分がいる。
ダグラスはまた同じように乃亜の胸の先端をいじめ続けた。
「あぁっ、ひ」
「そんなに可愛い声ばかり出さないでくれ」
「ん……で、でも……ふ──ぁ!」
「もっと乱してしまいたくなる」
「──っ」
おそらく、もし酔っていなければダグラスはもっと繊細に優しく、乃亜にはじめての経験を与えてくれた。でもこのダグラスは、もっとむき出しの……本物のダグラスだ。
いつもは理性の陰に隠れている貪欲な、男そのもののダグラス。
こんなふうに彼の理性が危うくなっている隙にセックスを求めた乃亜は、もしかしたらズルいのかもしれない。本来ならきっと断られると、わかっていたから。
乃亜はいつもの理性的な彼を愛している。
でも……。
でも乃亜は、こんな生々しい彼も同じくらい愛しいと思った。こんなふうに素直になった彼も、同じように欲しいと。
ときにはこうやって正直になる権利が、この男性にはあると──。
「じゃあ、もっと乱し……て」
言葉はもう必要なかった。
布越しに触れていたダグラスの手が、服の中に入ってくる。乃亜はきっと周囲の馬たちを恐がらせてしまうような鋭い嬌声をあげた。
ダグラスはそのまま次々に乃亜の服を脱がせていくと、下着だけの姿にさせた。そして乃亜をくるりと回転させる。
ふたりは向き合った。
濡れているとはいえダグラスはまだ服を着ている。ここは厩舎で、動物の匂いがして、乃亜の背後にあるのは干し草の山だった。
「君を傷つけたくない」
ダグラスは言うと、彼のフランネルシャツを脱いで干し草の上にそれを投げた。下着姿の乃亜を抱き上げると、シャツが背中に当たるようにゆっくりと下ろす。
ベッドよりも少し高いくらいの位置で、なだらかな高低がついている。乃亜は仰向けになった。
ダグラスは覆いかぶさってきた。
「君がどんな下着をつけているのか、いつも想像していた」
と言って、ピンクのブラのストラップを一本、ピンと引っ張る。乃亜は小さく笑った。
「そんなことを? いつから?」
「最初からずっと」
「嘘でしょう? ずっと眉間に皺を寄せて、難しい顔してたのに……」
「ずっと真剣に考えていたんだ……君の下着の色や、形や、その下にある素肌のことを」
ダグラスの人差し指が胸の谷間にすっと入ってきて、カップを少しだけ持ち上げて中をのぞいた。彼の喉仏がごくりと上下する。
「……どう? 想像通り?」
「ああ」
こんなときだけど、ダグラスの声は本当に優しかった。「想像以上だ」
「よかった」
「脱がしても?」
「どうぞ」
赤外線ヒーターのお陰で寒くはない。むしろ焼かれているようで暑いと感じてしまった。
それでもダグラスは乃亜を脱がすよりも先に、彼が下に着ていたタンクトップを脱ぎ捨てて上半身裸になった。
彼のたくましい筋肉を見るのははじめてではないけれど、これからこの身体に抱かれるのだと思うと、今までとは少しレベルの違う……緊張を感じた。
期待も。
ダグラスは乃亜の肩にちゅっと唇を寄せた。
「このときまで待っていてくれて、ありがとう」
ああ……。
この歳まで処女でいたことについて、焦りや、悲しみさえあった。嗤われたことも。別れを選ぶ結果になったことさえ。でもすべてが報われた。
──この愛を永遠にできなくても、この瞬間だけは乃亜の中で永遠になる。
ダグラスの右手が背中に回って、乃亜のブラのホックを外した。もう片方の手がショーツを引き下げる。
大きな彼が着ていたフランネルシャツは乃亜のほぼすべてを干し草から守ってくれたけど、足の先だけははみ出してしまい、少しチクチクした。でも、そんなことはすぐ気にならなくなったけれど。
「ふ……っ」
女性器の入り口を指でなぞられる。
湧いてくる淫情は今まで感じたどんなものより強かった。まだ誰も迎え入れたことのない最奥が、目の前のこの男性を求めてうずいている。
「あぅ……は……っ」
ダグラスの選んだ愛撫は繊細さと激しさの混じったもので、こそばゆく花弁をなぞられたと思ったら、強く花芽を潰されたりして、乃亜の心を奪っていった。
くちゅ、くちゅと、艶やかな水音を奏でながら、彼の指はさらに奥を目指して進んでいった。乃亜はどんどん乱れていく。
心臓でも子宮でもないどこか臓物の奥に、熱い火が灯ったような熱を感じて、乃亜は背をしならせた。
ダグラスはそこで、乃亜の乳房の先端を口に含んで強く吸った。
「は──ぁっ! あっ! あ!」
星が爆ぜて、花火のように散っていく。
大きく胸を上下させて荒い息を繰り返しながら、はじめて自分の手以外で迎えた絶頂の余韻に溺れた。
「悪いが、もう挿れさせてもらうよ」
ダグラスはベルトを外して乃亜の横に置くと、ジーンズのジッパーを下ろした。そして現れたのは、今までどうやって服の中に収まっていたのか不思議になるくらいに猛った、ダグラスの男性自身だった。
彼は脱ぎ捨てる前にジーンズのポケットから避妊具を出した。
「それ……いつも、持ち歩いているの?」
乃亜がからかうと、ダグラスは指と口でパッケージを破りながら短く笑う。
「君と最初にチャンピオンに乗ったあとから、持ち歩きはじめたよ。手を出してはいけないと思っていたが、自分を信用しきれなかったから……せめて、もしそうなっても、安全に抱いてやらなきゃいけないと」
「もう」
「この厩舎で、君がキスしたことさえないと大演説したのを聞いたあと、俺が何回自分の手で抜いたか知ったら……裸足でここから逃げ出したくなるだろうな」
逃げ出すところか、乃亜の深いところは、その可哀そうなダグラスの大切な一部を早く受け入れたいと啼いている。
その、したことさえなかったキスは、彼がすでに奪ったから。今はもう最後の砦を崩すだけ……。
「きて、ください……」
「そうさせてもらうよ」
薄い膜を根元まで装着し終えたダグラスは、正面から乃亜に覆い被さった。
ふたりは舌を絡め合う口づけで互いを高め合い、そして、挿入のときを迎えた。
「ん……ぁ……っ、……っ」
痛くなかったと言えば嘘になる。目尻には涙が浮んだ。
素晴らしいばかりではない、無垢を捨て去る破瓜の痛み。乃亜は必死にダグラスの背にしがみついた。ダグラスは乃亜を守るように彼女の腰を抱いた。
大地を濡らす雨は、いつまでも振り続けていた。
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