訳ありメイドは女嫌いの侯爵令息と男嫌いを克服します!?~特訓の相手は憧れのお姉さま♡かと思いきや、女装した私の苦手なあいつでした!?~

千賀春里

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芝居

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『俺が誰だか知っていての無礼か?』



 ルーブスは自国のソールフレント語で話し掛けて来た。



 他国の言語に尻込みするとでも思っているのだろうか。

 侮られていることに腹が立つ。



『もちろんです。それを踏まえて、我が国の要人をお守りするのがこの城に務める者の最優先業務です』



ルディアーナはルーブスを睨み付けて臆することなく言い放つ。



流暢なソールフレント語にルーブスは少々驚いたようだった。

 するとルーブス懐から何かを取り出し、ルディアーナに差し出す。



「ほら、受け取れ」



 今度はシェイスリンの言語で言う。



 そしてここを去れと言った。

 ルーブスの手の平に転がるのは数枚の金貨だ。



 舐めるにもほどがある。



「何のおつもりですか?」

「くれてやる。欲しいだろ? お前のような使用人の給金では到底稼げない額だ」



 その通り、使用人の給料ではこの金額を稼ぐのに一年以上かかる。

 だが、金貨如きとシェリルが交換できるはずがない。

 本当に、ここまで馬鹿だとは思わなかった。



「仕方ないですね」

「ルディア⁉」



 不安そうなシェリルの声が背中越しに聞こえてくる。

 ルディアーナの言葉を肯定と取ったルーブスはルディアーナに金貨を手渡す。

 本当にここまで馬鹿だとは思わなかった。大事なことなので心の中で繰り返す。

 ルディアーナは受け取った金貨を床に叩きつけて走り出す。



「何だ?」



 ルディア―ナは廊下の角にあった花瓶から薔薇の花を抜き、花瓶を力一杯床に向かって叩きつけた。



 思った以上に大きな花瓶はけたたましい音を立てて、砕け散る。

 ガシャーンと大きな音が廊下全体にこだまし、人が何事かと集まって来る。



 私があんなはした金でお姉さまを売る訳ないでしょ!

 馬鹿げている。



 心の中で毒づき、ルーブスを睨み付ける。



 ルディアーナを小賢しいと言わんばかりの目でルーブスが見つめていた。視線が交わり、背後からウィルモートの声が聞こえてくるとルディアーナは勝利を確信した。



「一体何事だ⁉」

「ウィルモート様!」



 現れたウィルモートの胸にシェリルが飛び込み、シェリルの安全が保障されたことに安堵する。



「この者が……」

「不届き者がいたのです!」



 ルーブスの言葉をルディアーナは大きな声で遮る。



「不届き者だと?」

「はい。シェリル様の跡を追いかけていたので。不届き者を威嚇するために花瓶を投げてました。ルーブス王子は騒ぎを聞きつけて今し方駆けつけて下さいました」

「そうなのか?」



 ウィルモートはシェリルに訊ねる。



「そうです。ルディアーナが花瓶を投げて、不届き者は逃げて行きました」



 流石です、シェリル様!

 心の中で拍手を送りたい。



 不審者が現れたが、何事も起こらなかった。



 これが最善の策だ。シェリルがルーブスに乱暴されそうになっていた、などと知れればルーブスの処分は当然として、シェリルの醜聞になってしまう。未婚の女性が無理やりでも男性と関係を持ったとなれば社交界に出ることは出来ない。それが事実であろうがなかろうが、噂になってしまえば立場が非常に悪くなる。



 こんな馬鹿のせいでシェリルの立ち位置が危うくなるなど、あってはならない。



「騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした。ルーブス王子にも不愉快な思いをさせてしまいました。王太子殿下、私に罰をお与え下さい」



 ルディアーナは頭を深く下げて言う。



「とにかく、不審な者がいないか調べろ。そなたは来い。騒ぎを起こした罰を受けさせる」



 そう言って兵を動かし、周囲の巡回を命じたウィルモートはルーブスに向き合う。



「騒がせてすまなかった。王子が安心して過ごせるよう、配慮が行き届いていなかったことを詫びよう」

「いえ、何事もなく何よりです」



 ルーブスはそう言うしかない



 シェリルがルディアーナの話に乗った時点でルーブスがルディアーナを罰することは出来ない。

 シェリルが涙目でルーブスを睨み付ける。



「震えているな。怖い思いをさせて済まなかった」

「ウィルモート様」



 二人の甘い雰囲気にルーブスは歯ぎしりをする。



 ふん、馬鹿なやつ。あんたなんかにお姉さまは汚させないわよ。



 シェリルにはウィルモートがのみ相応しい。



 他国の令嬢を無理やり手籠めにするために使用人に賄賂を渡すような矮小な男とウィルモートでは秤にかけるのも憚られる。



 ルディアーナは心の中でルーブスを罵る。



「そなたはこっちだ。連れて行け」



 ウィルモートの兵士に挟み込まれて歩くように促され、ルディアーナは歩き出す。



 憤りの炎が灯った目でこちらを睨み付けているルーブスと視線がぶつかるが怖くはない。



 私の勝ちよ、大嫌いなお兄様。

 シェリルは諦めなさい。



 口元に笑みを浮かべ、その場を退いた。



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