水の神女と王印を持つ者~婚約破談のために旅に出た神女は出会った美麗の青年に可愛がられてます~

千賀春里

文字の大きさ
5 / 17

占い師

「人探し? お前のような子供に何故?」
「それに結婚という話も……」
「とんだ変態じゃないか」

 三人の男達は唖然と目の前の少女を見つめた。
 どう見ても三歳か四歳の子供だ。

 容姿は可憐で美しく愛らしい。こんな子供に結婚を強いるなど重度の変態だ。

「私、占い師だから」
「占い師?」

 蒼子は鳳の言葉に大きく頷く。

「だから婚姻と引き換えに依頼人の息子を捜し出す事にした。私はまだ結婚なんてしたくない」

 気の毒な話だ。

 こんな小さな子供を捕まえて一体何をしようとゆうのか。
 結婚は少なくとも十年は必要だろうし、第一に子供を産める身体ではないだろう。
 むしろそれがよくてこんな子供を選んだのかも知れない。

 何にせよとんでもない輩がいたものだ。
 人探しだろうが何でもしたくなるだろう。

「お礼に何か利益になりそうな事を占う」
「何だ、占ってくれるのか?」
「はい。何を知りたい?」
「何でも構わない」
「何でもって……はっきりして。困る」
「なら、良いか?」

 鳳の代わりに椋が身を乗り出す。

「この店では女性向けの商品を取り扱っているんだが、客層によって流行や傾向を探るのは男では限界がある。そこでどんな商品がどんな層に売れるのか、これからの流行を知りたい」

 そう述べた椋の脇腹に鳳の肘が食い込む。

「お前は……」
「何でもって言うから……」
「具体的だな。よろしい」

 その言葉に鳳と椋は目を見開く。

「蒼子さん、無理しなくても良いんですよ」
「別に無理じゃない。柊さん、皿に水を張って持って来て下さい」

 すぐに柊が皿に水を張り持ってくる。

 鳳と椋の前には皿の代わりにお茶が置かれた。
 目の前に置かれた皿の水の波紋を少女は見つめている。

 椅子に座ったままでは卓の皿が見えないので椅子の上に立ち皿を覗き込んでいる状態だ。

 ちまっとした様子がとても子供らしい。

「香水……花の香の香水が売れる。それと、小物。真珠と小さく綺麗な石を使った装飾品が裕福層に売れる。小さな石が光る上品な物が上質な男に受ける」

 淡々と皿の水を見て話す蒼子にみんなが目を瞬かせる。

「香水? 香油では駄目か?」

 唖然とする鳳と柊を横に一人だけ興味深々で質問する。

「香油が駄目だって訳じゃない。勿論香油の需要はある。けど香水の方が安価で幅広い層で売れる。香油は香りもあって肌に艶が出る。夜はかなり使える。でも舐めたり咬んだりすると苦い」

「「「ぶっ」」」

 蒼子の言葉でお茶を盛大に噴き出す。

「汚いんだけど」

 幼い少女とは思えない大胆な発言に三人は言葉を失う。

「けど香水なら肌だけじゃない、服にも手拭いにも小物にも使える。襟首と胸元に香りを仕込む。体温で匂い立つよな芳香に変わる。最初は遊女に広げる」

「……何故、遊女なんだ?」

「男を引っかけるのが上手い。意中の男を落とす為なら女は何でも使う生き物。遊女だと蔑んでも、その男を引っかける小技は得たいと思うもの。遊女から広めて裕福層が欲しがる。裕福層が欲しがる物は庶民も手にしたがる。もともと香油より安価だから問題なく売れる。二日後に来る商船が積んでいる。少しは押さえた方が良い」

「なるほど……検討しよう。香りは花が良いのか?」
「好みがある……けど花の香が一番売れる」
「装飾品は首飾りが良いか?」
「首飾りと耳飾り、揃えた物が売れる。統一感があって華奢で可憐な女が男にウケる」
「色はどうだ?」
「白。ただ幅広く取り入れるのが一番」

 茫然とする鳳と柊を余所に蒼子と椋は利益に繋がる会話を重ねている。

 鳳も柊も貴方は幸せになれますよ、と子供の占いごっこのようなものを想像していた。

 しかし、口から飛び出てくるやけに具体的で生々しい言葉の数々に鳳達は言葉を失う。
 話し方も内容も子供らしさを全く感じない。

「本当か?」

 たまらず鳳が訊ねる。

「嘘はない……んっ……」

 小さい口を開けて欠伸をして目元をごしごしと擦る。

「眠いのか?」

 こくりと蒼子が頷く。

 瞼がとろんと重たそうで、その様子は先程とは違い幼子のものだ。
 そのまま力尽きたように椅子に座り、小さな手足を投げ出して寝息を立て始めた。

「……何者なんでしょう」
「適当に話しているだけかも知れんぞ」
「……二日後の商船が来るまで泊める事にする」

 鳳は立ち上がり小さな身体を抱き上げた。

「嘘だったらどうするんだ?」
「……そう言う割にはしっかりと話しを聞いていたな、お前は」
「遊女から広めるという発想はなかったもので」
「嘘でも本当でも泊めてあげるという事で良いですか、鳳様?」

口元に妖しい笑みを浮かべて蒼子を抱えて部屋を出て行く。

「……気に入ったんですね」
「みたいだな。普通の女に飽きたのか?」
「そのうち帰したくないとか言い出すんじゃ」
「あり得るな。人探しも手伝う流れだな」
「けれど力は入れませんね」
「見つからなくても構わないからな、きっと」
「あの顔、楽しい玩具を見つけたって感じでしたね」
「しばらくは楽しむだろうな」


「「……幼女趣味……?」」


 二人の声が重なる。

 双子は顔を突き合わせて主人の行く末が不安で仕方なかった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

『愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私は離縁状を置いて旅に出ます。これからは幸せになります――そう思っていました。』

まさき
恋愛
夫に名前すら呼ばれず、冷たく扱われ続けた私は、ある朝、ついに限界を迎えた。 決定打は、夫が見知らぬ女性を連れて帰ってきたことだった。 ――もういい。こんな場所に、私の居場所はない。 離縁状を残し、屋敷を飛び出す。 これからは自由に、幸せに生きるのだと信じて。 旅先で出会う優しい人々。 初めて名前を呼ばれ、笑い、温かい食事を囲む日々。 私は少しずつ、“普通の幸せ”を知っていく。 けれど、そのたびに――背中の痣は、静かに増えていた。 やがて知る、自らの家系にかけられた呪い。 それは「幸せを感じるほど、命を削る」という残酷なものだった。 一方その頃、私を追って旅に出た夫は、焦燥の中で彼女を探し続けていた。 あの冷たさも、あの女性も、すべては――。 けれど、すべてを知ったときには、もう遅くて。 これは、愛されていなかったと信じた私が、 最後にようやく“本当の愛”に気づくまでの物語。

「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜

まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。 継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。 気づいていなかったのだ、あの人たちは。 私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。 ある夜、私は静かに荷物をまとめた。 怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。 三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。 「リーナを探せ」 今更、ですか。 私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

『お前を愛する事はない』旦那様、それではごきげんよう

あんど もあ
ファンタジー
結婚初夜に「お前を愛する事はない」と言われたアレクシア。成金男爵令嬢が名門旧家の伯爵家の令息との恋を実らせたはずが、彼は贅沢を享受したいだけで、愛する女性は別にいた。それから三年。アレクシアは夫から家を追い出される事になるが……。

番ではないと言われた王妃の行く末

にのまえ
恋愛
 獣人の国エスラエルの王妃スノーは、人間でありながら“番”として選ばれ、オオカミ族の王ローレンスと結婚した。しかし三年間、彼に番と認められることも愛されることもなく、白い結婚のまま冷遇され続ける。  それでも王妃として国に尽くしてきたスノーだったが、ある日、ローレンスが別の令嬢レイアーを懐妊させ、側妃として迎えると知る。ついに心が折れたスノーは離縁を決意し、国を去ろうとする。  しかしその道中、レイアー嬢の実家の襲撃に遭い、スノーは命を落とす寸前、自身の命と引き換えに広域回復魔法で多くの命を救う。  これでスノーの、人生は終わりのはずだった。  だが次に目を覚ますと、スノーは三年前の結婚式当日に戻っていた。何度死んでも、何度拒絶しても、結婚式の誓いの瞬間へと戻される。  番から逃れようと、スノーは何度も死を選ぶが――。