月の光

ましゅまろん

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「フェーイヒ・カイト」

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「今日の活動はこれで終わりです。夕食は七時からなので、遅れないように」
「はーい」



ここ、フェーイヒ・カイト子ども院に集められた子どもは、みんな能力を持っている。
特例を除けば、各家庭で能力が暴走してしまい、ここに来ているらしい。

ここの子どもは家にいられなくなっただけでなく、学校にも行けなくなった。
だから、ここでは基礎的な学力をつけるための授業が毎日行われている。

今日の最後の授業は能力制御。
この施設特有の授業で、ズィン先生という人が担当している。
なんとこの人、見た目は八歳だが中身は二十歳らしい……。
すごく可愛い。

僕は自分の能力を隠すことに決めたから、この授業には参加出来ない。
先生には、自分の能力がわからないと伝えてある。




「先生………僕、みんなみたいに能力を持ってないみたいなんです……。」
「……!……どういうこと?」
「レーゼンが僕の心を当てて見せてくれたりしたのに、僕は何も出来ないんです……」
「あららら………」
「僕、何も出来ないから身体が大きい人たちに絡まれたりして怖いです……もう授業出たくないです……」
「なるほどね…………?」
(あれ………この子、フライヤの器だよね?なんで能力無いの……?)
「僕っ、毎日……つら、くて……うぇぇぇん」
「あっ、ごめ、ごめん泣かないでっ!……そうだね、特に僕の授業なんかは辛いよね……よし、他はどうしたらいいかわからないけど、僕の授業はひとまず、見学にしようか?」
「先生っ……(ウルウル)、ありがとうございますっ(泣)」





にやり。



この先生は騙されやすい……。



実際は、レーゼンともあれから話すどころか会っても挨拶する程度。
レーゼンは何かしゃべりたそうにしてるけど、僕は目を合わせない。

心を読まれたら困るから。

もちろん、他の子とも関わりを持たない。
新しく入ってきた僕に寄ってくる子はいっぱいいたけど、僕の関わりたくないオーラはなかなか優秀だった。


僕が授業を休もうとしているのには、いくつか理由がある。
一つは、もちろん能力を使えないから。
わざわざ披露するつもりは毛頭ない。
もう一つは、この施設の中の人を調査する必要があるからだ。
僕の敵を、探さなければならない。






「あれ、リヒトくんだね」


え。
誰だっけ、この人。

パーマがかった黒髪、黒縁眼鏡。
ニコニコ、いや、笑ってない。
なんで僕の名前を知ってるのかな?

「なんで授業中にここにいるのかな?」


………僕は能力制御の授業の時間は見学すらしないで、施設のあらゆるところを歩いてみてまわっている。
今いる場所は……ミス・エルターンの部屋の前。

このタイミングでなんで知らない人が現れるのかわからない。
怪しい。


「あぁ、ごめんね。僕の名前はアールツト。ここで、医者をしているよ。」

よろしくね、


そう言って差し出してよこした右手を、一応礼儀として握る………

「!?」

……握ろうとしたが、離してしまった。


手が触れた瞬間、嫌な感覚が身体に流れた。


「ん?どうかした?」

にっこり、という言葉がピッタリな笑顔を貼り付けた・・・・・彼が、僕の目を見る。




確信した。



これが、僕の敵だ。



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