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第三話
しおりを挟む――月曜日。
雲一つない快晴で、絶好の合宿日和。
「じゃあ出発するぞー」
点呼が終わり、いよいよバスが出発した。
「ねえねえ、お菓子食べない?私いっぱいお菓子持ってきちゃった」
前の座席から星華が萌たちに声をかけた。
バスの座席は班ごとで、男女が隣になるように座っているため、前方に星華と春希が、その後ろに萌と潤が座っている。
「ありがとう、星華ちゃん。あの、私もお菓子持ってきたから、よかったらみんな食べて」
「さんきゅっ、俺も持ってきたからホテルで食べようぜ」
「一つ貰うね。俺のもホテルに着いたら分けよう。さすがに今開けたら食べすぎだからね」
お菓子を食べて少しおしゃべりを楽しむと、はしゃぎすぎたのか、星華が寝てしまった。
「俺も寝るわ」
そう言うと、春希も寝てしまい、潤と萌の間に沈黙が落ちる。
「萌は休みの日、何してるの?」
沈黙を破り、潤君が聞いてくる。
「うーん、本読んだり、バイトしたりかな。潤君は?」
「俺も読書したり、テレビ見たりかな。たまに春希と遊んだりもするけど」
「春希君と仲いいんだね」
「まあ、小学校の頃からの仲だから。それより、萌は読書好きなの?おすすめの本あったら教えてほしいな」
本の話題が出て萌はほっとする。
自分のことを話すのは得意ではないが、大好きな本のことなら話せそうだ。
「風宮隼人先生の、『七人の暗殺者』っていう本が面白いよ。私の一番好きな本」
萌のお気に入りの一冊を紹介する。
「それ、俺も好き。風宮先生の本は全部好きだけど、『七人の暗殺者』が俺も一番好きだな。俺たち趣味が合うね」
潤が微笑みながらそう言うと、萌がぱっと目を輝かせて笑う。
その笑顔に顔が赤くなるのを止められない潤。
潤が萌に少なからず好意を持っていることは、はた目から見れば明らかで、
「潤君、お菓子食べない?」
「せっかくだし私たちとも話そうよ~」
通路を挟んだ隣にいる女子たちが潤に声をかける。
顔は笑顔だが目が笑っていない女子たちに、萌はびくっとなる。
辛い経験から、萌は少し人の視線に敏感だ。
「ごめん、寝てる人もいるからうるさくしたくないんだ」
萌のそんな様子に気づいてきっぱり断る潤に、女子たちは不満そうながらも前を向いた。
潤と楽しくしゃべっていた萌だが、バスの揺れが心地よく、うとうとしはじめた。
「寝ていいよ、着いたら起こしてあげるから」
潤の穏やかな声を最後に、萌はいつの間にか眠りに落ちた。
優しく体をゆすられる感覚に、萌はゆっくりと目を開けた。
「おはよう、ちょうど着いたとこだよ」
潤の言葉に夢に心地だった萌の意識は覚醒した。
なんと、潤の肩にもたれて寝てしまっていた。
「ご、ごめんなさい、肩借りちゃって。起こしてくれてありがとう」
焦りながら言うと、気にしないでと微笑みながら返された。
バスから降りると、目の前には立派な建物が。
青藍高校が所有している施設だそうで、さすがは私立だと感心してしまう。
この後みんなでお昼を食べ、それから途中で休憩を挟みながら六時まで勉強だそうだ。
「はあー疲れた。せっかく受験終わったのにこんなに勉強しなきゃダメとか嫌になっちゃう」
夕食を食べ終わり、部屋に着くなりベッドに飛び込んだ星華。
部屋は星華と萌の二人部屋だ。
「受験の時より勉強したかも。明日は午前中も勉強だし、辛いね」
萌も長時間勉強したのは久しぶりで、少し疲れた。
「すごい、お風呂が二つもある! めっちゃ豪華じゃん!」
星華がはしゃいだ声を出す。
疲れているとは思えないはしゃぎっぷりに、萌はついクスリと笑ってしまう。
星華は明るくて気さくで、こんな素敵な人と友達になれて良かったと思う萌だった。
疲れていたからだろうか。
それとも環境が変わったからだろうか。
萌は久しぶりに夢を見た。
――悪夢を。
両親が死に、親戚は母の妹しかいなかった萌は、当然のようにその妹夫婦の家に引き取られた。
一緒に暮らした半年間は地獄だった。
両親の死を受け入れられず苦しんでいた萌は、その家では邪魔な存在だったのだろう。
さらに萌の両親は何者かに殺され、そのせいで何度も警察が萌に話を聞きに来て、世間体を気にする二人にとっては迷惑でしかなかった。
食事を抜くなんて当たり前。
殴る蹴るの暴力や、お風呂に顔を沈めてくることもあった。
本気で命の危険を感じていた。
学校も変わり、両親の死と虐待によっておどおどした萌に、子供たちは関わろうとはしなかった。
家では暴力、学校でも一人孤独で、夜は両親の死を何度も夢に見る。
やつれて生気がなくなった萌に気づいたのは、萌の両親の事件を担当した刑事だった。
当初その刑事は、両親を失い元気がないのは無理もないことだと何の違和感も持っていなかった。
しかし、半年後に萌に会った時、瞳の虚ろさ、恐怖に身を縮める姿に危機感を抱いた。
根気よく萌と話し、ようやく萌が虐待を受けていることを知った。
それからの彼の動きは速かった。
すぐに令状を取り、萌の叔母夫婦は逮捕された。
萌は児童養護施設へ入った。
フラッシュバックを克服するため、病院にも通った。
それでも小学生の間は、両親が殺されたときの光景がフラッシュバックしたり、大きな音や水に恐怖を感じたりして辛かった。
新しい学校にも、施設にもなじめなかった。
けれど薬を飲み続けることでフラッシュバックも落ち着き、中学生になるとマスターと出会い、落ち着ける場所、信頼できる大人を得ることが出来た。
学校や施設には相変わらずなじめなかったが、大泉さんとも出会い、少しずつ前向きになることが出来た。
そして、高校生になった今では友達までできた。
幸せすぎて、怖くなる。
両親が死んだのに幸せを感じている自分に戸惑ってしまう。
地獄の日々に戻りたくない。
今の生活を失いたくない。
眠る萌の目尻から、一筋の涙が流れた。
――合宿二日目、最終日。
この日は九時から一時まで班ごとに各部屋に分かれて勉強した。
前日の分からなかった問題を友達に聞いたり、逆に自分が教えてあげたりして、なかなか充実した四時間を過ごすことが出来た。
萌は今まで誰かと一緒に勉強する、教え合うなんてことをしたことがなかったので、楽しかった。
午後は五時まで自習し、やっと帰ることができた。
勉強に疲れ切った生徒も沢山いるが、萌にとっては楽しい経験になった。
友達と過ごすことがこんなにも楽しいことだとは知らなかった。
*~*~*~*~*
五月と言えば中間テストだ。
中学のころと変わらず、青藍高校の中間テストも五月の下旬にある。
合宿が終わったとはいえ、二週間後には高校生になって初めてのテストがあるため、気を抜いている暇はない。
けれど萌にとって勉強は苦ではなかった。
特に今は勉強することが楽しくさえある。
放課後、潤たちと図書室で勉強することが増え、毎日がとても楽しい。
マスターにそのことを話すと、頭をくしゃくしゃに撫でられた。
あの合宿の日以来、悪夢を見ていない。
順調すぎる日々に言い知れぬ不安を抱くこともあるが、今の萌は一人じゃない。
マスターや雅也さんなど、相談できる人もいるし、友人もいる。
学校でも孤独を感じることはない。
少し遅めの萌の高校ライフが幕を開けた。
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