どん底だった少女は努力で幸せを手に入れる

レモン🍋

文字の大きさ
18 / 26

第十三話

しおりを挟む


  結局、萌が雅也と別れたのは夕方になってからだった。
カフェで勉強を見てもらったり、公園を二人で散歩したりと、穏やかに過ごした萌。


 話を聞いてもらって、何気ない時間を共に過ごせたことがなぜだかたまらなく嬉しい。




 施設に帰ってからも、久々に集中して勉強に取り組むことができた。

月曜日、ちゃんと潤たちと話そうと決意して布団に入る。


 正直なところ、夜寝るのはまだ怖い。

暗闇の中必死に目を閉じていると着信音が鳴った。
なんとそれは雅也からだった。
――雅也からの初めての電話。


 驚きと緊張と、わずかな気恥ずかしさを感じながら電話に出る萌。

「もしもし」

「もしもし、もう寝てた? 起こしちゃったかな?」
優しい優しい声がする。


「大丈夫です、起きてました」
なんだかとっても恥ずかしい。


「萌が寝る前に声聞きたいと思って。大丈夫? ちゃんと寝れそう? もし怖いなら、俺が電話で萌が寝るまで話し相手になるよ」

 雅也の気遣いにあったかい気持ちになる萌。


 普段だったらもしかしたら断っていてかもしれない。
でも気づけば萌は、雅也の提案をありがたく受け入れていた。





「……ふふふ、……雅也さんと……雄星さん……ホント……仲が……いいです……ね」

萌がうとうとしながらしゃべる。


どれくらいしゃべっていたのだろうか。
気づけばもう半分夢の中だ。



「おやすみ、萌。いい夢を」

 雅也はそっとそう言うと、静かに電話を切った。
――願わくば、彼女に穏やかな夢が訪れんことを。






*~*~*~*~*~*~*~*~*~*




 月曜日、萌は緊張しながら教室に入った。
クラスの視線が気になるというのももちろんあるが、潤たちに話しかけようという気負いで顔が強張る。




 しかし、教室に入ると先週の出来事が嘘だったかのように、疑惑やぶしつけな好奇心、嘲りなどを含んだ視線が飛んでこない。

 遠巻きにはされているが、負の感情は伝わってこないのだ。




拍子抜けしたような、なんだかよく分からないような気持ちになる萌。


 鞄を置いて、もう既に教室にいる潤と春希と星華に挨拶しようと気持ちを固めたところへ、当人たちが何のためらいもなくおはようと言いに来てくれた。



「おっ、おはよう! あの、先週はよそよそしい態度とったり避けちゃったりしてごめんね」

「え、俺ら避けられてたの!? 気づかなかったー!」

おずおずと切り出した萌に、大げさなほど驚いて見せる春希。
気づかなかったと言っているが、萌にはそれが春希の優しさだと分かる。


「全然気にしなくていいよ、俺らはいつでも萌の味方だから。何かあったら遠慮なく相談してほしい」

「そうよ! 萌は頑張りすぎ。ちょっとは私たちに頼ってよ」

 潤と星華も優しい言葉をかけてくれる。



 何にも心配することはなかった。
三人はいつだって萌の味方だったのだ。

 信じないで、自分の世界にこもっていたことを申し訳なく思った。





*~*~*~*~*~*~*~*~*~*




全てのテストが終了し、萌は気になっていたことを潤たちに尋ねる。


「あの……さ。先週とクラスの雰囲気が違うんだけど、なんでか分かる? あと、新山さんテストなのにずっと学校来てないけど……なにかあったのかな?」


「ああ、新山さんは停学中だよ。萌の噂流したのは新山さんだったみたいで、悪質だから停学になったらしい」


「え、学校側が調査してくれたってこと……?」


「いや、学校がというより、確かな筋から証拠付きで告発があったらしいよ。確か桜道社っていう出版社。うちの学校に寄付してくれてる会社でもあるから、学校側も無視できなかったんじゃないかな」


 驚いた。
あの日、萌と別れてから雅也さんが何かしたのだろうか。


「ツイッターで情報流れて、クラスの奴も反省してるんじゃないかな。学校側が調査して、萌はやっぱり学費免除を優遇されてないって証明されたしね」



「そっか。教えてくれてありがとう」
微笑む萌。



 萌はお人よしじゃない。
明菜が停学になったのを可哀そうだとは思わないし、寧ろ少しの間でも会わないことにほっとしている。







 潤たちもほっとしていた。
先週の萌は見てられなかった。

 日々やつれていき、生気がなくなっていく萌。
クマも酷く、明らかに憔悴していた。

 担任も心配して何度か声をかけていたが、大丈夫というばかりで誰にも頼らず一人で抱え込んでいた萌。




 自分たちに何ができるか分からずヤキモキしていたところへの明菜の停学だ。



 まだ全快ではないが、萌の瞳はきちんと前を見据え、クマも薄れている。

 自分たちが真っ先に萌を救ったわけじゃないところが悔しいが、萌がもう一度笑ってくれるようになったことが本当に嬉しいのだ。






*~*~*~*~*~*~*~*~*~*




「雅也さん、私の学校になにか働きかけてくれましたよね? 噂が収まってて、噂流した人が停学になったんです。ありがとうございます!」


 あの日以来、夜になると雅也は毎日電話をかけ、萌もそれを楽しみにしている。


「いや、それは俺じゃないよ。俺にはそんな権力無いからね……。うちの会社が青藍高校に寄付してるのは知ってたから、萌の窮状を大泉さんに話したんだ。そしたらすげー怒って、即座に対処してくれたよ」



「そうなんですか! でも、雅也さんが伝えてくれなければ変わらなかったと思います。だから、本当にありがとうございます」
 心からの感謝を述べる。


「あの、大泉さんにお礼を渡そうと思うんですけど、もしよかったら今度の休みに一緒に選んでくれませんか?」

 誘うだけなのにドキドキする。


「もちろん! じゃあ、土曜日一緒に買いに行こうか! 楽しみだな。デートだね」

 こんな時、どう返したらいいのか分からない萌。


「! ありがとうございます! わ、私も楽しみです」
動揺したようにそう言うのがやっとだった。

 なぜだか、デートという言葉を否定したくなかった。




詳細を決めて電話を切ったとき、萌の顔は真っ赤になっていた。






*~*~*~*~*~*~*~*~*~*




 そして迎えた土曜日。
待ち合わせ場所に萌が着くと、雅也はもう既に来ていた。


「お待たせしてしまってすいません」

「いや、俺も今来たとこだよ。……萌ちゃん、可愛いね」

言われて、ポンと音を立てそうなほど真っ赤になる萌。


今日の萌は頑張ってオシャレしたのだ。
あまり服を持っていないが、スカートをはいて髪の毛もアレンジしてみた。


「……ありがとうございます。雅也さんも、かっこいいです」
恥ずかしくて声が小さくなる。


「ありがとう。じゃあ、行こうか」



「え……?」


 にこやかに差し出された手に疑問の声を上げる萌。


「手、つなごうよ」


「は、恥ずかしいです」


「俺はつなぎたいな。……それとも、俺と手をつなぐのは嫌?」
悲しそうな顔で見つめてくる雅也に、萌はズルいと思う。


「い、嫌じゃないです」

 おずおずと手を握った。






 雅也とのショッピングは楽しかった。
モール内のいろんな店を回り、萌はずーっと笑顔だった。


 楽しいときほど時間が経つのはあっという間で、気づけば空は群青色に染まっていた。

「今日はありがとうございました。おかげでプレゼントも買えたし、すごく楽しかったです!」
 弾んだ声で言う萌。


「それで、これ、よかったら貰ってください。この間と今日付き合ってもらったお礼です」


「えっ! いいの? 気を使わせちゃってごめん。でもすごく嬉しいよ。ありがとう」

 嬉しそうな雅也に萌はほっとした。
誰かにプレゼントを渡すなんて初めてで、喜んでくれるか、受け取ってくれるか不安だったのだ。


「実は俺も、萌ちゃんにプレゼント。今日めちゃめちゃ楽しかったから、そのお礼」

雅也が可愛くラッピングされた包みを差し出してきて、びっくりする萌。

「え……。あ、ありがとうございます! すっごく嬉しいです」

 予期せぬことに驚いたが、目をきらめかせて受け取った。



 少し前の萌なら、きっと遠慮して受け取らなかっただろう。
でも自分がプレゼントを渡したとき、受け取ってもらえなかったらと不安だった。
受け取ってもらえて、喜んでもらえて嬉しかった。


 だから、萌は素直に受け取った。
雅也には、素直になれた。






 その後、本当は一人で大泉の所へお礼を言いに行くつもりだったが、雅也が一緒に来てくれるというのでその言葉に甘えた萌。

 もう少し一緒にいたい気分だったのだ。
――お互いに。





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。 そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。 最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。 そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。 上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。 貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。 実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、 上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。 そこで知ったルーカスの秘密。 彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。 元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。 戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。 シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。 所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。 そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。 心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。 けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。 シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか―― ※他サイトでも公開しています

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...