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閑話
しおりを挟む雅也たちから逃げるように立ち去った真紀はというと――
「おい、おまえなんてことしてくれたんだ! 風宮先生に無礼を働き、その上萌さんにも暴言を吐いたそうじゃないか。何考えてんだ? おまえは何のために編集者になったんだ!!」
家に帰るなり、真紀は桜道社の人事部長である父親に怒鳴られた。
いつも甘々な父親が怒る姿に呆然となる。
「わ、わたしは悪くない! あいつが雅也さんに色目使うから。雅也さんと付き合うのは私なのに……。ねえパパ、雅也さんに私と付き合うように言ってよ。モエとかいう作家潰してよ」
往生際悪く父親に頼み込む。
こんな状況になった今でさえ、真紀は現実を理解できないのかもしれない。
自分に都合が悪いことは認められないのかもしれない。
「ふざけんなよ! おまえのせいだろ。全部おまえのせいだ!」
反省もせず人のせいにして、厚顔無恥な願いをしてくる娘に、真紀の父親は怒りを爆発させた。
「おまえのせいで俺は仕事首だぞ……」
力なく放たれたその言葉に、真紀は今度こそ自分の置かれた状況を理解した。
いつも父親に頼めばなんでも思い通りになった真紀は、あの場で雅也に叱られた時でさえ、父がなんとかしてくれるという甘い考えがあった。
「そんな……」
こんな時でさえ、真紀の心を占めているのは反省ではない。
これから自分の生活はどうなってしまうのかという何とも自分本位な考えだ。
この娘にしてこの父親ありと言ったところだろうか。
いや、この父親にしてこの娘ありだ。
桜道社では、よほど優秀でない限り、原則縁故採用は禁止されている。
だが真紀の父親は娘可愛さのあまり、学歴や資格などのを経歴詐称して、娘を採用した。
土曜日、真紀の父は社内で仕事をしていた時、社長から呼び出しを食らった。
人事部長という地位にいてさえ、社長とは滅多に会えるものではない。
昇進の話だろうかとトンチンカンなことを考えながら社長室に赴いた。
社長に怒られるなど、青天の霹靂だった。
社長室に入るなり、社長と風宮に迎えられた真紀の父は、そこで娘のしでかしたことを知らされた。
そこで思ったのは、なんて馬鹿なことをしたんだということだ。
社長に睨まれてしまえば真紀の出世の道は厳しくなってしまう、と。
真紀がしでかしたことを悪いとはこれっぽちっも思ってないし、被害者である萌や風宮に対して申し訳ないと思うこともない。
どこまでも自分本位だ。
「いやー、申し訳ありません。あの子にはよく言って聞かせますので」
へこへこと愛想笑いをしながら頭を下げる。
「いや、その必要はないよ。米澤さんには辞めてもらうから」
社長の冷淡な声に、流石に真紀の父も焦る。
「なっ、なぜですか? 真紀にはきちんと言って聞かせますんで。こんなことで首にするのは……」
「まだ事態を呑み込めていないようだね。風宮先生は米澤さんが我が社にいる限り原稿は書かないとおっしゃっている。もう二度と原稿を貰えなくても我々は文句を言えないのに、諸悪の根源を絶つだけでいいとおっしゃてくれているんだ。どうするべきかなんて子供でも分かるだろう? 自分でやったことの責任は自分で取ってもらわないとね」
社長の言葉にがっくりとなった真紀の父親。
だがこれだけでは終わらない。
「ああ、それから、米澤君。君にも辞めてもらうから。まさか娘の経歴を詐称して採用するなんてねぇ。立派な犯罪だよ」
「そ、そんな……」
弁明しようとしたが、社長の冷徹な視線の前では叶わない。
呆然として、気が付けば家にいた。
真紀も、真紀の父親も、職を失った。
自業自得という言葉がぴったりだ。
この先真紀は、美容にかける時間もお金も失い惨めに生きるしかない。
心を入れ替えれば、結末は違ってくるだろう。
だが、真紀のエベレスト並みのプライドは、他人への不満を吐き出すだけで自分の間違いを最後まで認められない。
そんな女のたどる末路は……
ただ一つ言えることは、努力を怠った者には決して幸せが訪れないということだ。
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