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第十五話
しおりを挟む十二月になり、期末テストも終わり、冬休みを心待ちにする学生たち。
萌も例外ではない。
ちなみに萌は、中間テストは色々あったこともあり総合七位という結果になってしまったが、期末テストは念入りに準備して挑んだかいがあり、一位になることができた。
気は抜けないが、なんとか中間の挽回ができ、三学期も五位以内に入れば学費免除になれそうだ。
「ねえねえ、みんなはクリスマスどうやって過ごすの?」
昼休み、四人でしゃべっていた時、星華がふと尋ねた。
「俺は普通に家族で過ごすかな。彼女もいないし」
「俺も家族で過ごすよ」
春希と潤が言う。
「私は……雅也さんと会うんだ! あっ、でも、普通に打ち合わせだからねっ」
萌が恥ずかしそうに言った。
萌は、潤だけでなく春希と星華にも、雅也を好きなことを打ち明けていた。
そして潤も、春樹と星華には、萌を諦めることを告げた。
二人は、本当にそれでいいのか心配したが、潤の決意は変わらない。
潤はただ、萌が幸せになってくれればそれでいいのだ。
「そっか! でもクリスマスに好きな人と会えるのは嬉しいね! 私も家族でケーキ食べるだけだからなー。ああー彼氏欲しい!!」
星華が結構真剣に嘆いた。
恋をして、そして自分の恋を友人たちが応援してくれる。
それだけでこんなに毎日が楽しいとは思わなかった。
自分の気持ちを自覚して以来、萌は雅也に会うたびに気恥ずかしさを感じるようになった。
でもそれ以上に会える喜びは大きい。
夜の電話も欠かさず続けていて、萌の日常はかつてないほど幸せに満ちている。
告白して、恋人になりたいという気持ちは勿論ある。
だが、こんな子供を相手にしてくれるだろうかと思うと、告白する勇気は持てない。
今はまだ、このあいまいな関係で十分満足だ。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
最近の萌の明るい様子にマスターが気づかぬはずがない。
「萌ちゃんなんだか最近前よりウキウキしてるように見えるけど、何かいいことでもあった?」
「えっ!」
バイト終わり、マスターに聞かれて萌は頬を赤らめる。
「えっと、好きな人が出来て……」
恥ずかしがりながらも幸せそうに答える萌は、なんとも初々しい。
「へえー。学校の子? もしかして、潤君か春希君のどっちか?」
興味津々に聞いてくるマスターに、萌はたじたじだ。
「ひ、秘密です。お疲れさまでした!」
それ以上の追及から逃れるように、萌はそそくさと帰路につく。
何故だか、マスターには好きな相手を言っちゃいけないような気がしたのだ。
――潤たちには打ち明けられたのに、なぜだろう。
付き合いが長い分、恥ずかしさが強いのかもしれない、そう思った。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
――夜、十一時。
「萌、もう眠い? ――おやすみ」
雅也と話すうちだんだんと眠くなった萌は、その声を最後に眠りに落ちた。
いつものように寝る前に雅也と電話し、いつものようにうとうとしてきた事に雅也が気づいておやすみと言ってくれる。
萌は幸せな気持ちで眠りにつく。
ハッとして目が覚めた時、時刻はまだ二時三十分を少し過ぎたところだった。
少し前から萌は奇妙な夢を見る。
最初は、潤たちと遊んだり雅也とデートしたりする幸せな夢なのだが、だんだんあたりが薄暗くなっていき、誰かに頭をなでられるという奇妙な夢。
その人が誰かは分からない。
ただひたすら頭をなでられるのだ。
何度も夢を見るうちに、顔も見えないその人に既視感を覚えた。
夢の中で萌は、その人を良く知っていると直感した。
なんだか大事なことを忘れている……というところでいつも目が覚める。
ただの夢と言ったらそこまでなのだが、萌はこの夢が無性に気になり、悶々とする毎日なのだ。
だが、そんな夢に今日は変化があった。
いつものように楽しい夢を見て、だんだん辺りが暗くなる。
またか……と夢の中で覚悟を決めた萌だが、今日は勝手が違った。
マスターが登場したのだ。
マスターが萌の頭をなでる。
そこで初めて、あの手の感触がマスターのものであったと分かった。
道理で既視感があったはずだ。
だが。
なぜこんな不気味な雰囲気でマスターが登場するのだろう。
なぜ初めはマスターの顔が分からなかったのだろう。
それに、まだ何かを忘れている気がするのだ。
何か大事なことを。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「――ということがあったんです。私、どうしてもただの夢だと思えなくて気になっちゃって」
土曜日、冬休み初日のクリスマスの日、萌は雅也に夢の話をした。
もちろん、雅也とデートする夢云々はごまかしたが。
マスターに聞かれるのは気まずいため、必然的に萌と雅也は身を寄せ合っていて、傍から見れば恋人同士のようだ。
「うーん……。確かに意味ありげだけど……でも何の意味があるんだろう……」
雅也も興味をひかれたようだが、夢が示すことまでは分からないようだ。
「いっそ、そのネタで小説書いてみたら? 萌はまだミステリーに手を出したことないじゃん。いい機会だと思うよ」
なんでも物語へと持っていくのは雅也らしい。
流石は敏腕編集者だ。
「確かに、面白そうですね。人の死なないミステリーなら私も書いてみたいです!」
そしてそれに乗る萌も、やっぱり小説家だ。
「あの、雅也さんは今日この後仕事ですか?」
打ち合わせがひと段落した後、萌は思い切って雅也に問いかけた。
「いや、今日は休みだよ。特に用事もないし、寂しいクリスマスになりそうだよ」
「あのっ、もしよかったらなんですけど、一緒に夜ご飯食べませんか? 毎年施設で一人で過ごしてたんですけど、いつも寂しくて。誰かと一緒に過ごせたら楽しいと思うんです」
ありったけの勇気をかき集めて誘った。
「!! 誘ってくれるなんて嬉しいな。俺は全然かまわないっていうか寧ろ嬉しいけど、萌はいいの? 友達と過ごした方が楽しいんじゃない?」
「そんなことないです! 私が雅也さんと過ごしたくて誘ったんです!」
勢いに任せてちょっと恥ずかしいことまで口走ってしまう萌。
だが、雅也はその言葉が嬉しい。
それに、萌から誘ってくれるは初めてだ。
それだけで、叫びだしたいほどの喜びを感じる。
お互いがお互いを好きなのに、そのことにお互いに気づかないというもどかしさ。
まさに両片思いだ。
「じゃあ、せっかくだし、夜まで時間あるし、どっか出かけようか! 映画見てもいいし、ショッピングしてもいいし」
雅也の提案に萌は嬉しくなる。
クリスマスに、好きな人と二人で過ごせる――なんて幸せなんだろう。
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