どん底だった少女は努力で幸せを手に入れる

レモン🍋

文字の大きさ
24 / 26

第十七話

しおりを挟む



 クリスマスの翌日、萌がバイトに行くと、早速マスターにからかわれた。


「昨日の萌ちゃんと大橋君、恋人同士みたいだったよ~。二人で身を寄せ合ってさ!」

 いつもなら恥ずかしがったり否定するところだが、今日の萌は違う。

「実は、昨日付き合うことになったんです。ほんとに恋人同士です」

 幸せオーラ全快で報告する萌はほんとに可愛らしい。


「……へえー、おめでとう。萌ちゃん大橋君の事好きだったんだ……」

 なんだか若干声のトーンが低くなったマスターだが、萌は気づかない。


「はい! 雅也さんのことが大好きです」


「そっか、いやーよかったよかった!」

 すぐにいつもの調子に戻ったマスターは、いつものように萌の頭をくしゃくしゃに撫でた。




 この時、萌はわずかな引っ掛かりを感じた。
夢の謎と関係あるような……。
何かを忘れているような、そんな引っ掛かりを……。



*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



 朝起きて、バイトに行き、終われば帰って三学期の予習をする。
もちろん雅也との電話は欠かさず、大好きだということを伝え合う。


 例え冬休みであろうと努力を怠らない萌。
だが、雅也と付き合うようになってから、萌の毎日は幸福に包まれている。

 過剰なほどの愛情を注がれ、萌は幸せを感じる。



 雅也は雅也で、萌が無意識下でひたむきに愛情を求めていることに気づいている。
だからこそ沢山の愛を伝え、今までの分まで愛してあげたいと考える。


 誰よりも大切で愛しい萌。
そんな萌には、誰よりも幸せになってほしい。
自分の手で幸せにしたい。





 雅也に大切にされればされるほど、萌の心は満たされる。
幸せを感じることで、萌は強くなれる。




 だからだろうか。
愛し愛されることを知ったことで強くなれたのだろうか。
過去と対峙する強さを手に入れたのだろうか。





――あの日以来、消え去ったはずの記憶が今再び蘇る。
真っ赤で、真黒な、忌まわしき記憶が――





*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



 いつものように眠りについた萌は、いつもと違う夢を見た。

家族で仲良く食事する最後の日の光景。

 前と違うのは、最後まで見届けなければならないという強い思いだろうか。

――何かが分かる、真実が紐解かれる、そんな気がした。





 再現されるあの日の出来事。
萌は夢の中で、目をそらさずに向き合った。



 三人でテーブルを囲む夕食。
 父が玄関へ向かうところから始まる非日常。

 叫び声。
 目に飛び込んでくる赤。

 ナイフを持つ男。

 無造作に振るわれる刃。
 息絶える母。

 赤、あか、アカ――




 目の前に立つ男。
 こちら側に手を伸ばす男。
 頭をなでる男。

――目が、あった。

 顔が見えた。
いや、思い出した――。




 まさか、あの人だったなんて。





 目が覚めて、萌はあの日の記憶を全て思い出していた。


 彼は、あの男は、萌がよく知る人物だった。





 怒りと悲しみと、やるせなさ。
言葉に出来ない想いを抱えながらも、萌は動き出す。

 もう、萌は一人じゃない。
おびえるだけの萌はどこにもいない。




*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



「五十嵐さん、ご無沙汰しています、工藤萌です」

 萌が電話をかけたのは、虐待から救ってくれたあの刑事だ。
萌の両親の殺人事件の担当者でもある。


「萌ちゃんから電話なんて初めてだね、何かあった?」

 初めて会った時から七年がたつ今、電話越しの五十嵐の声は最後に聞いた時よりも渋みを増している。


「私、思い出したんです。犯人の顔を。はっきり思い出しました」
 単刀直入に事情を話す萌。


「!! 本当かい!? すぐに似顔絵班を向かわせるよ」
 焦ったような声を出す五十嵐。

 当然だ。
七年の間解決できなかった事件がようやく解決するかもしれないのだ。


「いえ、その必要はありません。私、彼のことをよく知ってるんです。彼の顔も名前も……。ずっとずっと私の側にいたんです。それなのに私は気づかず信頼してた……」


「犯人の名は……?」



「犯人は……父と母を殺した犯人は――――――野本聡」





*~*~*~*~*~*~*~*~*~*




 萌が電話してからの五十嵐の動きは速かった。
顔と名前、住所、その他個人情報が分かってしまえば、過去を調べることはできる――徹底的に。


 七年という月日の中で、証拠は欠片も残っていないのではないかと心配したが、警察は優秀だった。



 当時、萌の家族と野本との間に接点は見られなかったため、犯人の候補にすら挙がっていなかった。


 だが今回萌が記憶を思い出したことで、当時野本が住んでいた自宅を初めて家宅捜査したところ、動かぬ証拠が見つかった。





 自分の記憶に確信を持ちつつも、どこかで違ってほしいと願っていた萌は、証拠が見つかったという知らせにショックを隠せなかった。





――まさか、野本さんだったなんて。
何年も一緒にいたのに気づけなかった。
欠片も疑うことはなかった。




 信頼していたのに……。







 七年という歳月がたった今、ようやく事件は終息した。


――関係者全員の胸にしこりを残して。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

処理中です...