乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

文字の大きさ
12 / 27

12.掴みはOK!

しおりを挟む
「いたた……あー、焦ってても走るんじゃなかった。めちゃくちゃ痛いわコレ……」



 淑女たるもの走るなんて言語道断!な世界だけど、人を待たせて遅刻するぐらいなら走ろうと頑張った。



 結果、盛大にスッ転んだ。



 誰も見ていないところで転ぶのってちょっと虚しいけど、淑女的には見られなくてよかった。



 幸いパッと見てわかるところに外傷はないけど、足首を捻ってしまってジワジワ痛む。

 しかし、ここまで頑張って走ったおかげで、あとは歩いても時間に間に合いそうだ。お茶会の間は座ってくつろいでいればいいので、足の怪我は誤魔化せるだろう。



(お茶会対策一人会議に根を詰めすぎて、肝心のお茶会に遅刻したらアホ過ぎるぞ私!)



 1つの事に集中すると時間の感覚がなくなって、いつの間にか大幅に時間が過ぎているのは、前世でもしょっちゅうだった。



 とはいえ根を詰めた甲斐もあり、なんとか方針も決まった。

 安心してお茶会に出向くとしよう。



◇◇◇



「ヴィオレッタ様!」



 そこにいたのはマリアだけで、クリストファー殿下と休み時間に会った殿下の関係者っぽい男子生徒はまだ来ていなかった。



 王子より遅くなることは免れた。セーフ。



「マリアさん、ごきげんよう」

「はい。今日は午前の授業中、半日頑張ったらヴィオレッタ様と会えると思えば、いつもより勉強を頑張れました」



 可愛いことを言ってくれるじゃないか。



 ここで「お茶会が楽しみ過ぎて授業が身に入らなかった」ではなく、楽しみがあるお陰で頑張れたと言うところが真面目で好感が持てる。これがヒロイン力ってやつなのか。



「私も凄く楽しみにしていたの。殿方もいらっしゃるので、お菓子だけじゃなくて軽食も用意したわ」

「わぁ……!」



 準備のため先に来ていたリラと、殿下の侍女らしき人達がテーブルセッティングをしている様子を見て、マリアは感嘆の声を漏らした。



「貴族の方々のお茶会って、華やかで美味しそうで、本当に素敵です……!」

「喜んでもらえて嬉しいわ。お口に合うとよいのだけど」



 優雅に見えるよう控えめに微笑みながら、今の発言からマリアが貴族社会に馴染みがないことを察した。



(やっぱり、元平民なのかな?流石ヒロイン……あれ、なんかあの侍女がこっちを見てるような)



 リラと準備しながらこちらをチラ見してくる侍女が居る。なんだか顔色が悪い、ように見える。マリアに何か目で訴えているようだけど、当のマリアは侍女の視線に気付いていない。



「この学園ではまだお友達がいないので、こういう華やかなお茶会は初めてなんです。至らないこともあると思いますが……」

「いいのよ、楽にして頂戴。たった四人のお茶会だもの、マナーは気にせず楽しく過ごしてほしいわ」

「ありがとうございます。でも、まだ未熟だからこそ、場数を踏んでちゃんとした作法を身に着けたいんです」



 マリアのこの発言で、侍女の顔色が更に悪くなったように見える。



(うーん、今の発言も、マリアが元平民だって裏付けるような内容だなぁ)



 この国の貴族令嬢は、学園入学前からお茶会を重ねて横の繋がりを持つのが一般的だ。



 現にヴィオレッタも幼い頃はあちこちに顔を出していたようだし、その頃には数名は友人と呼べるような相手がいた。ただ、ヴィオレッタがお茶会に出なくなり段々と疎遠になってしまった。学園入学後に再会しただろうけど、生徒会に入り浸っていたため旧交が温まる機会もなさそうだ。



 人間関係が広がったらそれまでの輪から離れてしまうのはよくあることだ。

 前世でオタ活をしていた時、ジャンル移動をしても付き合いが続く友人は一生モノだから、大事にしようとよく思ったものだ。



 すなわち、お茶会の経験も横の繋がりも無いマリアは、まず間違いなく生粋の貴族じゃない。

 そして侍女の様子から察すると、そのことが周囲にバレたらまずいのだろう。



(安心してね!私は何も気付いてないフリをするから……!)



 侍女に目配せし、マリアに気付かれない程度に軽く頷いてグーのサインを出す。

 こちらの意図を察したようで、深く頭を下げられた。



「では、わからないことは何でも聞いて頂戴。マリアさんが今日を楽しく過ごせたら、次のお茶会の約束をしましょうか」

「えっ!?」

「だって私、あなたと仲良くなりたいんだもの。いいかしら?」

「……はい……!」



 私たちは別学年で、普通に学園生活を過ごしていたら接点を持つのが難しいので、なんとしても今日仲良くなっておきたい。お茶会開始前に自らハードルを上げてしまったけど、マリアは最初からヴィオレッタに好意的なので、ヘマをしなければなんとかなるだろう。



◇◇◇



 ここまでの一部始終を少し離れた物陰から見ていたカイルには、驚きの連続だった。



「マリアちゃんにはもっと慎重になってもらわないと、ボロが出まくりだな……はぁ、今までクラスで親しい友人が出来てなくて、逆に良かった!」



 元平民の出自を隠すようクラウト伯爵から言われているはずだし、学園での言動には気を付けるよう殿下からもそれとなく伝えていたけど、あまりにも気が緩みすぎている。



 というよりも、何がセーフで何がアウトなのか、よくわかっていないのかもしれない。



(ミラン嬢、めちゃくちゃ察してるよなぁアレ。侍女にもフォローを入れるってことは、マリアちゃんの事情は見て見ぬフリをしてくれるのか……?)



 一般的な貴族の令嬢なら、マリアの言動が貴族らしくない時点で苦言を呈すか遠ざけるかするだろう。

ましてや、生粋の貴族令嬢じゃないとわかる発言を聞いたら、騒ぎ立ててもおかしくない。



 しかしヴィオレッタは、どの行動も取らないどころか、マリアに寄り添う姿勢を見せている。



「よほどマリアちゃんを気に入ったのか?それとも、ミラン公爵からマリアちゃんの存在を知らされていて、取り入ろうとしてる……?どっちの線もあり得るからなんとも言えないなー……」

「何があり得るって?」

「あ、やっと来た殿下。まだ始まってないのに、既に二人の会話がやばいですよ」

「……何かあったのかい?」



 所用で到着が遅れていたクリストファー殿下が到着したので、今見聞きした事を簡潔に伝えると、殿下も言葉を失っていた。



「マリア……あれほど言動には気を付けろと言ったのに……いや、それより彼女はどこまで知ってるんだ!?」

「それは俺にもわかりませんよ!彼女に何か裏があるのか、ただ単純にマリアちゃんの事情を察して配慮してくれたのか……気を取り直して、探りに行きましょう」

「そ、そうだな。待たせしまっているし、早く向かおう」



 そうして二人は内心の動揺を抑えて、お茶会に合流した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ

みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。 それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。 それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない

潮海璃月
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。 そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。 そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

処理中です...