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婚約破棄から新しい婚約者ができるまで、その間約30分
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「アイディリア、今日で君との婚約を解消しようと思う」
学園の卒業記念パーティーの夜に婚約者から告げられた言葉は、残酷なものだった。
彼が隣国からの留学生である美しい男爵令嬢と親しくしていることは既に知っていたし、その令嬢が男爵家とはいえ特産品の商いで財を成した家の、溺愛されている一人娘だということももちろん知っている。だけど、よりによって今日なのかと思ってしまうのだ。
「…イグナーツ様は、ツベルト男爵令嬢と新たに婚約されるのでしょうか。お父上のオル子爵もご了承済みで?」
「なんだ、知っていたのか。ならわかってくれるな?」
なにが「知っていたのか」だ。知らない方がおかしいというレベルで人目をはばからずかの令嬢とベタベタしているのは自分ではないか。その上なにが「わかってくれるな?」だ。卒業後に新しい婚約者を見付けることがどれだけ困難か、そっちはわかっていないしわかろうともしないのだろう。それなのに私には物わかりのいい態度を求めてくるなんて、どれだけ傲慢なんだ。
「…承知いたしました。家同士のことですので、正式な婚約解消は父のレルネ子爵へオル子爵から申し入れてください。父へは事前に話を通しておきます」
「ゴネないでくれてよかったよ。君は別に俺のことを好きじゃないし、ちょうどいいだろう?俺より成績がいいんだから、どこかに就職だって出来るさ」
最後にそう言い残して、彼女を待たせているからと足早に去っていた。卒業パーティーにエスコートもしてくれない婚約者への未練は全くないが、せめてもう少し早く申し入れてくれたら在学中に次の婚約者を探す機会もあったかもしれないのに…
◇◇◇
アイディリア・レルネ子爵令嬢は、貴族界のギリギリ端っこに引っ掛かっているような地味な子爵家の長女として生まれた。人はいいけど貴族らしい駆け引きの才にはいまいち恵まれなかった父と、前衛的過ぎて滅多に買い手がつかない独特の絵を描く男爵家出身の画家の母、年の離れた弟に優しい祖父母の六人家族で、最低限の使用人と領地でひっそりと暮らしていた。
婚約者だった男は同じ子爵家の三男で、領地も近く父親同士が学園の同級生だった縁から、入学前に婚約関係になった。この国の貴族は15歳になると魔術学園への入学と寮生活が義務付けられており、我が家と似たり寄ったりでこれといった特徴もない子爵家の三男という条件の悪さでは婚約者探しが難航するだろうと憂慮した彼の父親が申し入れてきたのだ。
「いくら向こうからの申し入れでも、他にもっといい人がいればそっちにいくのは、当然の判断だよね…別に好きじゃなかったし…いいんだけどさぁ…」
これはもう、婚約解消ではなく一方的な婚約破棄といっても過言ではないだろうと憤る気持ちと、他の人を想っている男と結婚せずに済んでよかったなという気持ちで半々くらいだ。今夜のパーティーでは親しい女友達はみな婚約者と共に過ごしているし、食事を楽しむ気分にもなれそうにない。少し早いけど寮に戻ることに決め、玄関ホールに足を向けた。
(卒業したらどうしよう。今から先生にお願いして仕事を紹介してもらう?それともおじい様のツテでどこか紹介してもらえないか…心配かけちゃうな)
卒業後は結婚して家庭に入る予定だったので、突然進路未定になってしまった。成績が良ければどこかで働けるだろうと無責任なことを言われたが、いくら何でも急すぎる。私だって本当は祖父が定年まで勤めていた王立研究所の言語学教室に行きたかったのに、家庭を疎かにして卒業後も学問にかまけるのかと苦言を呈したのは元婚約者なのだ。自分は騎士団に入って王都で見習い生活をするというのに。どうせ私に子爵家のことを丸投げする気だったのだろう。とはいえ過ぎたことをいつまでも怒っていてもしょうがないので、明日にでも先生に相談してみよう。
つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、そこには見知った顔の同級生がぼんやりと佇んでいた。
「あれ、レルネさん。もう帰るのかい?」
「えぇ。ハーヴェイさんは今来たところ?」
「うん…なんなら来たくなかったんだけど、さすがにそういうわけにもね…」
レオカディオ・ハーヴェイは伯爵家の長男で、領地を持たない代わりに王立図書館と王立研究所を運営する一族の跡継ぎだ。在学中の総合成績は常にトップで、卒業後は王立図書館に次期館長として勤務すると聞いている。今の私からしたら物凄く羨ましい職場だ。
「ハーヴェイさんはいつも本を読んでいるから、こういう催しはあまり好きじゃないんだろうなって思ってたよ」
「まさにその通り。卒業パーティーじゃなかったら来なかったよ…レルネさんもこっち寄りの人じゃない?」
「そうだね。だから気持ちはものすごーくよくわかる…」
「はは…この時間も全部読書に充てたいよね…」
彼は常に本を携帯し、隙あらば読書をしている。私が教室で祖父から贈られたお気に入りの異国の絵本を読んでいたら話し掛けてきてくれて、そこから仲良くなった。共通点が多く、お互い華やかな場を好まず自分の好きなことに没頭していたいタイプなので、何かと話が合うのだ。
「レルネさんはイグナーツと一緒に来たんじゃないのかい?」
「一緒に来ていない上に、今しがた婚約を解消したところなの。だからもう帰ろうかなと思って」
「……今しがた?」
「えぇ、今しがた」
「新鮮なんだね…?」
「それはもう、ピチピチだよ。でも、元々こうなるだろうなと思ってたから、ハーヴェイさんは気にしないでね。突然こんな話しちゃってごめんなさい」
今後の事を考えると憂鬱なことに変わりはないけど、他者に話したことで少し心が軽くなったような気がした。有難いことだ。
「えっとじゃあ、今レルネさんは婚約者がいなくて、今夜のパーティーでエスコートしてくれる相手も不在ってことでいいのかな」
「その通りです。付け加えると、卒業間近にこんなことになっちゃって進路はどうしようかと途方に暮れています」
「じゃあ、もしよかったらなんだけど、僕と婚約してくれないかな。卒業後はうちの図書館か研究所に勤めればいいし、レルネさんの言語学の知識は重宝されると思うんだ」
「え、仕事を斡旋してくれるの!?しかも王立図書館か王立研究所!!??」
「どっちも万年人手不足だし、レルネさんみたいな人が来てくれたら助かるな」
「わー、わー、ありがとう!!!!」
まさかこんなトントン拍子に仕事が見つかるとは。その上今なら婚約まで付いてくる!
っていや、ちょっと待って。
「あの、私の聞き間違えだったら恥ずかしいから確認したいのだけど、ハーヴェイさんいま婚約って言わなかった?」
「ん?うん、言ったよ。ハーヴェイの関係者は大抵図書館か研究所に勤めてるし、僕はいずれハーヴェイ伯爵になって王立図書館長になるから、レルネさんが補佐してくれたら助かるなって思って」
婚約解消話がまだまだ新鮮なうちに、突如として新しい婚約話が舞い込んできたのだから、驚くしかなかった。
学園の卒業記念パーティーの夜に婚約者から告げられた言葉は、残酷なものだった。
彼が隣国からの留学生である美しい男爵令嬢と親しくしていることは既に知っていたし、その令嬢が男爵家とはいえ特産品の商いで財を成した家の、溺愛されている一人娘だということももちろん知っている。だけど、よりによって今日なのかと思ってしまうのだ。
「…イグナーツ様は、ツベルト男爵令嬢と新たに婚約されるのでしょうか。お父上のオル子爵もご了承済みで?」
「なんだ、知っていたのか。ならわかってくれるな?」
なにが「知っていたのか」だ。知らない方がおかしいというレベルで人目をはばからずかの令嬢とベタベタしているのは自分ではないか。その上なにが「わかってくれるな?」だ。卒業後に新しい婚約者を見付けることがどれだけ困難か、そっちはわかっていないしわかろうともしないのだろう。それなのに私には物わかりのいい態度を求めてくるなんて、どれだけ傲慢なんだ。
「…承知いたしました。家同士のことですので、正式な婚約解消は父のレルネ子爵へオル子爵から申し入れてください。父へは事前に話を通しておきます」
「ゴネないでくれてよかったよ。君は別に俺のことを好きじゃないし、ちょうどいいだろう?俺より成績がいいんだから、どこかに就職だって出来るさ」
最後にそう言い残して、彼女を待たせているからと足早に去っていた。卒業パーティーにエスコートもしてくれない婚約者への未練は全くないが、せめてもう少し早く申し入れてくれたら在学中に次の婚約者を探す機会もあったかもしれないのに…
◇◇◇
アイディリア・レルネ子爵令嬢は、貴族界のギリギリ端っこに引っ掛かっているような地味な子爵家の長女として生まれた。人はいいけど貴族らしい駆け引きの才にはいまいち恵まれなかった父と、前衛的過ぎて滅多に買い手がつかない独特の絵を描く男爵家出身の画家の母、年の離れた弟に優しい祖父母の六人家族で、最低限の使用人と領地でひっそりと暮らしていた。
婚約者だった男は同じ子爵家の三男で、領地も近く父親同士が学園の同級生だった縁から、入学前に婚約関係になった。この国の貴族は15歳になると魔術学園への入学と寮生活が義務付けられており、我が家と似たり寄ったりでこれといった特徴もない子爵家の三男という条件の悪さでは婚約者探しが難航するだろうと憂慮した彼の父親が申し入れてきたのだ。
「いくら向こうからの申し入れでも、他にもっといい人がいればそっちにいくのは、当然の判断だよね…別に好きじゃなかったし…いいんだけどさぁ…」
これはもう、婚約解消ではなく一方的な婚約破棄といっても過言ではないだろうと憤る気持ちと、他の人を想っている男と結婚せずに済んでよかったなという気持ちで半々くらいだ。今夜のパーティーでは親しい女友達はみな婚約者と共に過ごしているし、食事を楽しむ気分にもなれそうにない。少し早いけど寮に戻ることに決め、玄関ホールに足を向けた。
(卒業したらどうしよう。今から先生にお願いして仕事を紹介してもらう?それともおじい様のツテでどこか紹介してもらえないか…心配かけちゃうな)
卒業後は結婚して家庭に入る予定だったので、突然進路未定になってしまった。成績が良ければどこかで働けるだろうと無責任なことを言われたが、いくら何でも急すぎる。私だって本当は祖父が定年まで勤めていた王立研究所の言語学教室に行きたかったのに、家庭を疎かにして卒業後も学問にかまけるのかと苦言を呈したのは元婚約者なのだ。自分は騎士団に入って王都で見習い生活をするというのに。どうせ私に子爵家のことを丸投げする気だったのだろう。とはいえ過ぎたことをいつまでも怒っていてもしょうがないので、明日にでも先生に相談してみよう。
つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、そこには見知った顔の同級生がぼんやりと佇んでいた。
「あれ、レルネさん。もう帰るのかい?」
「えぇ。ハーヴェイさんは今来たところ?」
「うん…なんなら来たくなかったんだけど、さすがにそういうわけにもね…」
レオカディオ・ハーヴェイは伯爵家の長男で、領地を持たない代わりに王立図書館と王立研究所を運営する一族の跡継ぎだ。在学中の総合成績は常にトップで、卒業後は王立図書館に次期館長として勤務すると聞いている。今の私からしたら物凄く羨ましい職場だ。
「ハーヴェイさんはいつも本を読んでいるから、こういう催しはあまり好きじゃないんだろうなって思ってたよ」
「まさにその通り。卒業パーティーじゃなかったら来なかったよ…レルネさんもこっち寄りの人じゃない?」
「そうだね。だから気持ちはものすごーくよくわかる…」
「はは…この時間も全部読書に充てたいよね…」
彼は常に本を携帯し、隙あらば読書をしている。私が教室で祖父から贈られたお気に入りの異国の絵本を読んでいたら話し掛けてきてくれて、そこから仲良くなった。共通点が多く、お互い華やかな場を好まず自分の好きなことに没頭していたいタイプなので、何かと話が合うのだ。
「レルネさんはイグナーツと一緒に来たんじゃないのかい?」
「一緒に来ていない上に、今しがた婚約を解消したところなの。だからもう帰ろうかなと思って」
「……今しがた?」
「えぇ、今しがた」
「新鮮なんだね…?」
「それはもう、ピチピチだよ。でも、元々こうなるだろうなと思ってたから、ハーヴェイさんは気にしないでね。突然こんな話しちゃってごめんなさい」
今後の事を考えると憂鬱なことに変わりはないけど、他者に話したことで少し心が軽くなったような気がした。有難いことだ。
「えっとじゃあ、今レルネさんは婚約者がいなくて、今夜のパーティーでエスコートしてくれる相手も不在ってことでいいのかな」
「その通りです。付け加えると、卒業間近にこんなことになっちゃって進路はどうしようかと途方に暮れています」
「じゃあ、もしよかったらなんだけど、僕と婚約してくれないかな。卒業後はうちの図書館か研究所に勤めればいいし、レルネさんの言語学の知識は重宝されると思うんだ」
「え、仕事を斡旋してくれるの!?しかも王立図書館か王立研究所!!??」
「どっちも万年人手不足だし、レルネさんみたいな人が来てくれたら助かるな」
「わー、わー、ありがとう!!!!」
まさかこんなトントン拍子に仕事が見つかるとは。その上今なら婚約まで付いてくる!
っていや、ちょっと待って。
「あの、私の聞き間違えだったら恥ずかしいから確認したいのだけど、ハーヴェイさんいま婚約って言わなかった?」
「ん?うん、言ったよ。ハーヴェイの関係者は大抵図書館か研究所に勤めてるし、僕はいずれハーヴェイ伯爵になって王立図書館長になるから、レルネさんが補佐してくれたら助かるなって思って」
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