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第四章
第四章第一節 黒猫
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夕暮れが迫る中、ネコ美は突然焦りを見せた。「大変、わたくし、もう城に戻らないと。」その言葉に、リザ男も顔を曇らせた。しかし、その緊張した空気を切り裂くように、予期せぬ声が静かな部屋に響いた。「安心しな。手は打ってある。」
信じがたい光景が、窓の外に展開していた。毛並みの整わない、どうにもみすぼらしく見える黒猫がいた。その猫はあまり毛繕いをしていないようで、艶もなく、埃っぽい。リザ男は疑問を投げかけた。「むう? 喋る猫とは。どなたか魔導師の方の使いかな?それとも...」
黒猫はニタリと意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。「‥鋭いねぇ。さすがは盾の王の弟子、と言ったところか。」
黒猫は自信満々に言ったが、その正体については明かさず、「安心しな。アンタたちの味方さ。」とだけ言い残した。ネコ美はこの黒猫に対し、見知った者に向けるような安堵の笑顔を見せた。その様子からリザ男は、二人の間に何らかの深い繋がりがあることを察した。
「盟約があるからね。あたしのいる以上、迂闊にはアレンの奴も手が出せない。それに、自分の手札をこんなところで使い切る度量は、元から奴にはないさ。」黒猫の言葉は謎めいていたが、リザ男とネコ美にとっては、何かしらの安心材料となった。
ネコ美は黒猫に向けて何かを言おうとしたが、黒猫はすでに彼女のそばに寄り添い、静かに彼女を見守っていた。リザ男の鋭い視線はネコ美の手に移った。彼女は首飾りを握りしめ、その顔にはわずかに影が落ちている。リザ男はそれを見逃さなかった。
「其奴は「悪」か? 黒猫殿」とリザ男が問いかけると、通常ならば滑らかな答えを返す黒猫も、この上ない直球の問いには言葉に詰まる。
「あんたねぇ、まがいなりにもアレンはこの国の宮廷賢者を務めてる。民衆にとって、良いこともしていれば、悪いこともしているさ」と黒猫はようやく答えた。
「為政者ならば当然だ。その行為には、民衆にとって良い面もあれば悪い面もある。だが俺が聞いているのは、其奴は「外道」かどうかということだ。「外道」とは、民衆を自分の手駒のように扱い、利用することだけを考える者のことだ。もし‥」リザ男は言葉を切り、ネコ美を見た。二人の目が合った瞬間、その眼差しには明らかに助けを求めるメッセージがあった。リザ男は直感した。
「もし、其奴がネコ美殿をそのように扱っているのなら、俺は其奴を成敗する!」リザ男の声には決意が込められていた。彼の言葉はただの脅しではなく、守るべきもののために行動することを誓う騎士の誓いのようだった。
黒猫は、リザ男の言葉に衝撃を受けた。彼女は自分の全身から血の気が引いていくのを感じた。この男、真正の「馬鹿」だ。それにより巻き起こるであろう大きな影響を、彼は何も考えてはいないのだ。
しかし、黒猫は内心の動揺を悟られないようにし、笑みを浮かべながら言った。「それじゃアタシも、そしてこちらの聖女も困るんだよ。あの男の手駒として扱われるのは確かに癪だが、あの男はその力で病になったり、怪我をしたりした者たちを見つけ、この街に連れてくることができる。そうして集められた民衆を癒すことが聖女の願いというのなら、アタシは聖女の手助けをしなきゃいけない。」
言葉を終えると、黒猫は自分の脇から薬の小瓶を取り出し、ネコ美に差し出した。「待たせたね。痛み止めだ。飲みな。」
ネコ美は黒猫から差し出された薬の小瓶を受け取り、感謝の言葉を口にした。彼女にとって、この黒猫の存在はただの救世主ではなく、彼女の願いを理解し、共にその道を歩んでくれる貴重な仲間だった。
リザ男はこの一連のやり取りを黙って見守っていた。彼は自分の行動が引き起こしうる影響については考えていなかったわけではない。しかし、彼の中には正義という信念があり、それが彼を突き動かしていた。黒猫の言葉は、彼にとって新たな視点をもたらした。この街、そしてこの国の未来について、彼はもっと多くのことを考え、学ぶ必要があるのかもしれない。
「「悪」を成敗せずとも良いのか?」リザ男の問いに、黒猫は少し苦笑いを浮かべる。「アンタ、本当にやりかねないからね。ここはアタシの言う事を聞きな。」黒猫の言葉には、深い意味が込められていた。
黒猫は二人に身だしなみを整えさせると、ネコ美を城まで送るよう伝えた。そして、黒猫は差し出された紙になにやら魔法陣のような図形を書き殴った。「アレンに渡しな。アンタの痛み止め薬の錬成陣だ。アレンが欲しがっていたものだが、じきにこいつも効かなくなる。」
その言葉を聞いて、ネコ美の顔色は一層蒼白になる。黒猫の視線がネコ美の首飾りに移り、中央の黒い宝玉に浮かぶ光点を睨みつける。――その数は五つ。
黒猫は更に続けた。「正直、もう猶予はないんだけどねぇ。いいかい?死者蘇生はもう絶対に行っちゃあいけないよ。アンタはアンタの持っている力で、人を救うんだ。人の命を犠牲に‥」そこまで言って、黒猫の言葉は止まる。
頭上では、リザ男の鋭い眼差しが黒猫を睨みつけていた。黒猫は、再び、ニタアリと底意地の悪い笑みを浮かべる。「いずれにしても、体の不調があれば、アタシに連絡を寄越しな。何かしらできることはあるだろうさ。」そう言い残し、黒猫は街の暗闇に消えていった。
リザ男とネコ美は、黒猫の言葉を胸に、しばらく黙って立っていた。街の暗闇は深まり、二人の間には重い沈黙が流れていた。しかし、その静けさを破るかのように、リザ男は突如として大きな声を上げた。彼は自らを奮い立たせるかのように、両頬を両の手のひらで平手打ちした。その行動は、リザ男の心中で何かが変わった瞬間だった。
心機一転、リザ男はネコ美に向かって言った。「俺たちは、できることをする。それだけだ。」その言葉は、不安の影が覆っていたネコ美に力を与えた。彼女はその言葉に心を打たれ、力を得たように頷いた。
リザ男は続けて言った。「リス蔵。これより聖女殿を王宮まで送り届ける。我と供をせよ。頼むぞ。」真剣な眼差しでリザ男を見つめるリス蔵は、一層気持ちを引き締め、「はい!」と力強く応じた。
その瞬間、リザ男はニヤリと笑みを浮かべた。「さて、「悪」との対峙か。おもしろい。我が正義、いかような障害の前にも揺るぐこと無し!」その言葉には、どんな困難も乗り越える決意が込められていた。
リザ男の言葉は、ネコ美とリス蔵にも勇気を与えた。三人は、これから向かうであろう困難に対する不安を胸に秘めながらも、それを乗り越える力を互いに感じ取っていた。そして、王宮への道のりを共に歩み始めたのだった。
信じがたい光景が、窓の外に展開していた。毛並みの整わない、どうにもみすぼらしく見える黒猫がいた。その猫はあまり毛繕いをしていないようで、艶もなく、埃っぽい。リザ男は疑問を投げかけた。「むう? 喋る猫とは。どなたか魔導師の方の使いかな?それとも...」
黒猫はニタリと意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。「‥鋭いねぇ。さすがは盾の王の弟子、と言ったところか。」
黒猫は自信満々に言ったが、その正体については明かさず、「安心しな。アンタたちの味方さ。」とだけ言い残した。ネコ美はこの黒猫に対し、見知った者に向けるような安堵の笑顔を見せた。その様子からリザ男は、二人の間に何らかの深い繋がりがあることを察した。
「盟約があるからね。あたしのいる以上、迂闊にはアレンの奴も手が出せない。それに、自分の手札をこんなところで使い切る度量は、元から奴にはないさ。」黒猫の言葉は謎めいていたが、リザ男とネコ美にとっては、何かしらの安心材料となった。
ネコ美は黒猫に向けて何かを言おうとしたが、黒猫はすでに彼女のそばに寄り添い、静かに彼女を見守っていた。リザ男の鋭い視線はネコ美の手に移った。彼女は首飾りを握りしめ、その顔にはわずかに影が落ちている。リザ男はそれを見逃さなかった。
「其奴は「悪」か? 黒猫殿」とリザ男が問いかけると、通常ならば滑らかな答えを返す黒猫も、この上ない直球の問いには言葉に詰まる。
「あんたねぇ、まがいなりにもアレンはこの国の宮廷賢者を務めてる。民衆にとって、良いこともしていれば、悪いこともしているさ」と黒猫はようやく答えた。
「為政者ならば当然だ。その行為には、民衆にとって良い面もあれば悪い面もある。だが俺が聞いているのは、其奴は「外道」かどうかということだ。「外道」とは、民衆を自分の手駒のように扱い、利用することだけを考える者のことだ。もし‥」リザ男は言葉を切り、ネコ美を見た。二人の目が合った瞬間、その眼差しには明らかに助けを求めるメッセージがあった。リザ男は直感した。
「もし、其奴がネコ美殿をそのように扱っているのなら、俺は其奴を成敗する!」リザ男の声には決意が込められていた。彼の言葉はただの脅しではなく、守るべきもののために行動することを誓う騎士の誓いのようだった。
黒猫は、リザ男の言葉に衝撃を受けた。彼女は自分の全身から血の気が引いていくのを感じた。この男、真正の「馬鹿」だ。それにより巻き起こるであろう大きな影響を、彼は何も考えてはいないのだ。
しかし、黒猫は内心の動揺を悟られないようにし、笑みを浮かべながら言った。「それじゃアタシも、そしてこちらの聖女も困るんだよ。あの男の手駒として扱われるのは確かに癪だが、あの男はその力で病になったり、怪我をしたりした者たちを見つけ、この街に連れてくることができる。そうして集められた民衆を癒すことが聖女の願いというのなら、アタシは聖女の手助けをしなきゃいけない。」
言葉を終えると、黒猫は自分の脇から薬の小瓶を取り出し、ネコ美に差し出した。「待たせたね。痛み止めだ。飲みな。」
ネコ美は黒猫から差し出された薬の小瓶を受け取り、感謝の言葉を口にした。彼女にとって、この黒猫の存在はただの救世主ではなく、彼女の願いを理解し、共にその道を歩んでくれる貴重な仲間だった。
リザ男はこの一連のやり取りを黙って見守っていた。彼は自分の行動が引き起こしうる影響については考えていなかったわけではない。しかし、彼の中には正義という信念があり、それが彼を突き動かしていた。黒猫の言葉は、彼にとって新たな視点をもたらした。この街、そしてこの国の未来について、彼はもっと多くのことを考え、学ぶ必要があるのかもしれない。
「「悪」を成敗せずとも良いのか?」リザ男の問いに、黒猫は少し苦笑いを浮かべる。「アンタ、本当にやりかねないからね。ここはアタシの言う事を聞きな。」黒猫の言葉には、深い意味が込められていた。
黒猫は二人に身だしなみを整えさせると、ネコ美を城まで送るよう伝えた。そして、黒猫は差し出された紙になにやら魔法陣のような図形を書き殴った。「アレンに渡しな。アンタの痛み止め薬の錬成陣だ。アレンが欲しがっていたものだが、じきにこいつも効かなくなる。」
その言葉を聞いて、ネコ美の顔色は一層蒼白になる。黒猫の視線がネコ美の首飾りに移り、中央の黒い宝玉に浮かぶ光点を睨みつける。――その数は五つ。
黒猫は更に続けた。「正直、もう猶予はないんだけどねぇ。いいかい?死者蘇生はもう絶対に行っちゃあいけないよ。アンタはアンタの持っている力で、人を救うんだ。人の命を犠牲に‥」そこまで言って、黒猫の言葉は止まる。
頭上では、リザ男の鋭い眼差しが黒猫を睨みつけていた。黒猫は、再び、ニタアリと底意地の悪い笑みを浮かべる。「いずれにしても、体の不調があれば、アタシに連絡を寄越しな。何かしらできることはあるだろうさ。」そう言い残し、黒猫は街の暗闇に消えていった。
リザ男とネコ美は、黒猫の言葉を胸に、しばらく黙って立っていた。街の暗闇は深まり、二人の間には重い沈黙が流れていた。しかし、その静けさを破るかのように、リザ男は突如として大きな声を上げた。彼は自らを奮い立たせるかのように、両頬を両の手のひらで平手打ちした。その行動は、リザ男の心中で何かが変わった瞬間だった。
心機一転、リザ男はネコ美に向かって言った。「俺たちは、できることをする。それだけだ。」その言葉は、不安の影が覆っていたネコ美に力を与えた。彼女はその言葉に心を打たれ、力を得たように頷いた。
リザ男は続けて言った。「リス蔵。これより聖女殿を王宮まで送り届ける。我と供をせよ。頼むぞ。」真剣な眼差しでリザ男を見つめるリス蔵は、一層気持ちを引き締め、「はい!」と力強く応じた。
その瞬間、リザ男はニヤリと笑みを浮かべた。「さて、「悪」との対峙か。おもしろい。我が正義、いかような障害の前にも揺るぐこと無し!」その言葉には、どんな困難も乗り越える決意が込められていた。
リザ男の言葉は、ネコ美とリス蔵にも勇気を与えた。三人は、これから向かうであろう困難に対する不安を胸に秘めながらも、それを乗り越える力を互いに感じ取っていた。そして、王宮への道のりを共に歩み始めたのだった。
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