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16.このままで
6話
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それから数日して、ローズマリーさんの噂が耳に入った。
彼女は謹慎を言い渡されてから、実家の部屋にほぼ軟禁状態で置かれていたという。洋服店カペラの娘が事件を起こしたという話は学園だけでなく王都中に広まり、賑わっていたカペラは寂しい状況になっているらしい。
謹慎期間は終わり、ミアがあっけらかんと学園に戻って来た後も、ローズマリーさんが学園に来ることはなかった。
「エミリアさん、あの、ちょっといいかな。ロージーが君に僕のせいで迷惑をかけたって聞いたんだけど……」
ある日の休み時間、レスター様は私の教室までやって来ると、遠慮がちに尋ねてきた。
レスター様とはファロンの街で告白めいたことを言われて以来、選択授業で会えば多少話をするものの、距離が開いていた。こんな風に改まって話しかけられるのは久しぶりだ。
「いえ、レスター様のせいではありませんわ」
「けど、ロージーは僕が原因で君を山小屋に閉じ込めたって聞いて、どうしても謝りたくて……。ひどい目に遭わせてごめん」
レスター様は沈痛な面持ちで頭を下げる。本当にレスター様は何も悪くないので、謝られてむしろ戸惑ってしまった。
「いいえ、レスター様が謝ることではありませんから」
「でも」
「それよりも、ローズマリーさんのことロージーと呼んでいるのですね」
少し意外だったので尋ねると、レスター様は困ったような顔になる。
「うん、中等部時代にカペラに行ったとき、そう呼んでって言われて」
「ああ、カペラで会った話はローズマリーさんからも聞きました。レスター様は平民出身であることを全く気にしないで接してくれたと、とても感謝している様子でしたよ。当時は周りの生徒たちから平民出身であることや商売に関わっていることを悪く言われていたみたいで」
「……ロージーが? そっか、そんなこと思ってたんだ……。お店では堂々としていたから気づかなかった。あの子のこと何もわかってなかったな……」
レスター様は悲しげな顔で言う。それからぽつりと呟いた。
「大丈夫かな、ロージー……」
悔やむような、憤るような、悲しそうな声だった。レスター様は目を伏せ、何かを考え込んでいる。
しかしレスター様ははっと我に返ったように顔を上げると、慌てた様子で口に手を当てた。
彼女は謹慎を言い渡されてから、実家の部屋にほぼ軟禁状態で置かれていたという。洋服店カペラの娘が事件を起こしたという話は学園だけでなく王都中に広まり、賑わっていたカペラは寂しい状況になっているらしい。
謹慎期間は終わり、ミアがあっけらかんと学園に戻って来た後も、ローズマリーさんが学園に来ることはなかった。
「エミリアさん、あの、ちょっといいかな。ロージーが君に僕のせいで迷惑をかけたって聞いたんだけど……」
ある日の休み時間、レスター様は私の教室までやって来ると、遠慮がちに尋ねてきた。
レスター様とはファロンの街で告白めいたことを言われて以来、選択授業で会えば多少話をするものの、距離が開いていた。こんな風に改まって話しかけられるのは久しぶりだ。
「いえ、レスター様のせいではありませんわ」
「けど、ロージーは僕が原因で君を山小屋に閉じ込めたって聞いて、どうしても謝りたくて……。ひどい目に遭わせてごめん」
レスター様は沈痛な面持ちで頭を下げる。本当にレスター様は何も悪くないので、謝られてむしろ戸惑ってしまった。
「いいえ、レスター様が謝ることではありませんから」
「でも」
「それよりも、ローズマリーさんのことロージーと呼んでいるのですね」
少し意外だったので尋ねると、レスター様は困ったような顔になる。
「うん、中等部時代にカペラに行ったとき、そう呼んでって言われて」
「ああ、カペラで会った話はローズマリーさんからも聞きました。レスター様は平民出身であることを全く気にしないで接してくれたと、とても感謝している様子でしたよ。当時は周りの生徒たちから平民出身であることや商売に関わっていることを悪く言われていたみたいで」
「……ロージーが? そっか、そんなこと思ってたんだ……。お店では堂々としていたから気づかなかった。あの子のこと何もわかってなかったな……」
レスター様は悲しげな顔で言う。それからぽつりと呟いた。
「大丈夫かな、ロージー……」
悔やむような、憤るような、悲しそうな声だった。レスター様は目を伏せ、何かを考え込んでいる。
しかしレスター様ははっと我に返ったように顔を上げると、慌てた様子で口に手を当てた。
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