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第1章:剣と風、二人の旅路
08.雨宿りの夜
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「エル危ない!」
俺はとっさに叫び、彼女に向けて走る触手を切り落とした。三本のうち一本が俺の斬撃から逃れ、腹を掠めた。
「ぐうっ!」
エルフィーナは両手を突き出し、擬態型の生物に炎と風の魔法をぶつけた。左手からは少量の炎、右手からはその火を更に延焼させるための風が放たれ、まるで火炎放射器のように機能した。
「燃え尽きろおおお!」
あっという間にその生物は炎の竜巻に包まれ、どこか遠くに向けて悲鳴を上げながら灰に変わっていった。焼け落ちる中俺はエルフィーナに駆け寄り、腹に残された傷跡を見た。
酷い。
致命傷を避けたとはいえ触手が貫通し、真っ赤な血が止まらない。
俺はカバンの中から布を取り出して止血した。
「タクミ……私このまま死ぬの?」
全く弱っていない、普段通りのトーンで俺に聞いた。意外と元気そうなのだが、痛みを隠しているのかもしれない。
「……死なせるわけないだろ!お前は俺の大事な仲間だ!」
「ふっ……別にアンタのことなんてどうでも……いいんだけどね」
エルフィーナの呼吸が遅くなった。
ダメだ、まだ死んじゃだめだ。目を閉じるな!目を閉じたらそのまま死ぬぞ!
エルフィーナの頬を軽く叩く。ここで眠ったら永眠だ。
「すぅ……」
「呼吸は正常、脈も……問題無し」
しばらくすると俺の膝の上でエルフィーナはいびきをかき始めた。
心配は杞憂に終わったので本当に良かったのだが、こうやって見ているとなんだか腹が立つ。
*
俺とエルフィーナの二人、簡単に言うならヘンテコなパーティーが旅を始めて既に数日が経過した。
火起こししようとしたら夕飯が無くなったり、変な草を買って火属性の魔法を習得したり、本当に色々なことがあった。
今日の昼頃、俺達は森の入口付近で一人の木こりを見かけた。彼は腰の曲がった老人で、これから入る森は危険だから引き返せ、と助言してくれた。
しかしここを通らないと俺達は次の目的地である〈工業都市ベルマイン〉にたどり着けない。その旨を伝えて老人の前から立ち去った……
背中を見せた時、骨の鳴る音と不吉な気配が背中から感じた。先に気づいたのはエルフィーナで、二秒もしないうちに魔法陣を展開して風の魔法を放った。
「ドッペルパラサイト……こんな山奥にまでいるとはね」
ドッペルパラサイト、子供や老人のように弱そうな人に擬態して近づいてきた人を捕食するという恐ろしい魔物だそうだ。
そして……こいつの触手には毒がある。
「エル、少しはマシになったか?」
「うう……全然、毒が抜けないわ……でもこんなの、全く痛くも痒くもないから」
毒に侵されたエルフィーナを背負いながら到着した山小屋、そこで俺は休むことにした。雨風を凌げて、魔物からも身を隠せる。日が暮れる前にここを見つけれたのは幸運だろう。
「それにしても……さっきの魔法は凄かったぞ。炎と風を組み合わせて灼熱の竜巻を作り出すとは」
病気になった時、一番辛いのは周りに人が近寄らなくなることだ。孤独という感情が身体と心を貪り、やがて衰弱する。
俺はそれをよく理解していたし、別に伝染るものでもないから付きっきりで看病することにした。
「べ……別に褒められても嬉しくなんてないんだから……ね」
いつもより声に勢いがないエルフィーナ、顔は真っ赤に染まっているがそれが毒による影響なのかそれとも照れているのか、どちらか俺にはわからない。
「この毒は、大量に流し込まれたらすぐに死ぬわ。少量でも動きが止まる……下手したら永眠するかもね」
「これ、俺の上着だ。体が温まったら毒の分解も早くなるかもしれない」
そう言って俺は自分の上着をエルフィーナに渡した。まともな布団が無かったため、このままだと体温がどんどん下がって命すらも落としかねないだろう。
「あったかい……」
そう呟くとエルフィーナは静かに目を閉じた。外ではビュウと風が吹いていて寒そうだ。俺は静かに腰を上げ、さっきから気になっていた隙間風の入る場所を探した。
「ふむ……」
空気の通り道を探し、そこにカバンを置く。俺はそのカバンを背中で挟むように座った。これでもう寒くないはずだ。
それにしても……今日の戦いは壮絶だった。不意打ちだったとはいえ、反撃が遅れたのは俺のミスだ。もしあそこで剣をすぐに抜けていたら二人で一緒にぐっすりと寝ていただろう。
「くそっ」
小さく呟き、俺も目を閉じようとした。明日は森を彷徨うのだから少しでも体力を温存しなければならない。
「……ないで」
「?どこにも行か──」
エルフィーナは泣いていた。頬から涙が伝い、木の床にすうと吸い込まれた。なんの涙だ?痛みか、それとも寂しさか、それとも──
「リリス……ダメよ……」
リリス──聞いたことない名前だがエルフィーナの知りたいだろうか。どことなく優しそうな名前だ。出来ることなら寝言でリリスについてもっと呟いて欲しいところだ。
しばらく待つとエルフィーナはまた寝言を呟いた。
「ちゃんと……教えるって約束したのに……ダメよ」
いつもは勝気で自信に満ち溢れていたエルフィーナだったが、今は弱々しく嘆き、静かに泣いていた。俺は何も出来ず、ただ壁際から見守ることしか出来なかった。
「まだ私……貴方と少ししか……」
きっと、昔の仲間だったのかもしれない。目が覚めても聞くのはよそう。もし失った仲間だったなら野暮な質問だ。
俺は今出来ることをやるだけだ、隣に座って見守る。俺がすぐ隣にいるってことを実感させる。
この手を伸ばして頭や、金色の髪の毛を撫でることも出来ただろう。しかし今の彼女に必要なのはそれではない。俺はあくまで傍観者として、傍にいることに徹する。
なんだか論理的に考えたが、本当の俺の気持ちは違うのかもしれない。寄り添うことは出来る。ただそれ以上のことは、今はまだ……なんだか違う気がした。
俺はエルフィーナにかかった上着の位置を元に戻すと、眠りに入った。この夜、俺がエルフィーナの過去について聞くにはまだ早すぎる。
俺はとっさに叫び、彼女に向けて走る触手を切り落とした。三本のうち一本が俺の斬撃から逃れ、腹を掠めた。
「ぐうっ!」
エルフィーナは両手を突き出し、擬態型の生物に炎と風の魔法をぶつけた。左手からは少量の炎、右手からはその火を更に延焼させるための風が放たれ、まるで火炎放射器のように機能した。
「燃え尽きろおおお!」
あっという間にその生物は炎の竜巻に包まれ、どこか遠くに向けて悲鳴を上げながら灰に変わっていった。焼け落ちる中俺はエルフィーナに駆け寄り、腹に残された傷跡を見た。
酷い。
致命傷を避けたとはいえ触手が貫通し、真っ赤な血が止まらない。
俺はカバンの中から布を取り出して止血した。
「タクミ……私このまま死ぬの?」
全く弱っていない、普段通りのトーンで俺に聞いた。意外と元気そうなのだが、痛みを隠しているのかもしれない。
「……死なせるわけないだろ!お前は俺の大事な仲間だ!」
「ふっ……別にアンタのことなんてどうでも……いいんだけどね」
エルフィーナの呼吸が遅くなった。
ダメだ、まだ死んじゃだめだ。目を閉じるな!目を閉じたらそのまま死ぬぞ!
エルフィーナの頬を軽く叩く。ここで眠ったら永眠だ。
「すぅ……」
「呼吸は正常、脈も……問題無し」
しばらくすると俺の膝の上でエルフィーナはいびきをかき始めた。
心配は杞憂に終わったので本当に良かったのだが、こうやって見ているとなんだか腹が立つ。
*
俺とエルフィーナの二人、簡単に言うならヘンテコなパーティーが旅を始めて既に数日が経過した。
火起こししようとしたら夕飯が無くなったり、変な草を買って火属性の魔法を習得したり、本当に色々なことがあった。
今日の昼頃、俺達は森の入口付近で一人の木こりを見かけた。彼は腰の曲がった老人で、これから入る森は危険だから引き返せ、と助言してくれた。
しかしここを通らないと俺達は次の目的地である〈工業都市ベルマイン〉にたどり着けない。その旨を伝えて老人の前から立ち去った……
背中を見せた時、骨の鳴る音と不吉な気配が背中から感じた。先に気づいたのはエルフィーナで、二秒もしないうちに魔法陣を展開して風の魔法を放った。
「ドッペルパラサイト……こんな山奥にまでいるとはね」
ドッペルパラサイト、子供や老人のように弱そうな人に擬態して近づいてきた人を捕食するという恐ろしい魔物だそうだ。
そして……こいつの触手には毒がある。
「エル、少しはマシになったか?」
「うう……全然、毒が抜けないわ……でもこんなの、全く痛くも痒くもないから」
毒に侵されたエルフィーナを背負いながら到着した山小屋、そこで俺は休むことにした。雨風を凌げて、魔物からも身を隠せる。日が暮れる前にここを見つけれたのは幸運だろう。
「それにしても……さっきの魔法は凄かったぞ。炎と風を組み合わせて灼熱の竜巻を作り出すとは」
病気になった時、一番辛いのは周りに人が近寄らなくなることだ。孤独という感情が身体と心を貪り、やがて衰弱する。
俺はそれをよく理解していたし、別に伝染るものでもないから付きっきりで看病することにした。
「べ……別に褒められても嬉しくなんてないんだから……ね」
いつもより声に勢いがないエルフィーナ、顔は真っ赤に染まっているがそれが毒による影響なのかそれとも照れているのか、どちらか俺にはわからない。
「この毒は、大量に流し込まれたらすぐに死ぬわ。少量でも動きが止まる……下手したら永眠するかもね」
「これ、俺の上着だ。体が温まったら毒の分解も早くなるかもしれない」
そう言って俺は自分の上着をエルフィーナに渡した。まともな布団が無かったため、このままだと体温がどんどん下がって命すらも落としかねないだろう。
「あったかい……」
そう呟くとエルフィーナは静かに目を閉じた。外ではビュウと風が吹いていて寒そうだ。俺は静かに腰を上げ、さっきから気になっていた隙間風の入る場所を探した。
「ふむ……」
空気の通り道を探し、そこにカバンを置く。俺はそのカバンを背中で挟むように座った。これでもう寒くないはずだ。
それにしても……今日の戦いは壮絶だった。不意打ちだったとはいえ、反撃が遅れたのは俺のミスだ。もしあそこで剣をすぐに抜けていたら二人で一緒にぐっすりと寝ていただろう。
「くそっ」
小さく呟き、俺も目を閉じようとした。明日は森を彷徨うのだから少しでも体力を温存しなければならない。
「……ないで」
「?どこにも行か──」
エルフィーナは泣いていた。頬から涙が伝い、木の床にすうと吸い込まれた。なんの涙だ?痛みか、それとも寂しさか、それとも──
「リリス……ダメよ……」
リリス──聞いたことない名前だがエルフィーナの知りたいだろうか。どことなく優しそうな名前だ。出来ることなら寝言でリリスについてもっと呟いて欲しいところだ。
しばらく待つとエルフィーナはまた寝言を呟いた。
「ちゃんと……教えるって約束したのに……ダメよ」
いつもは勝気で自信に満ち溢れていたエルフィーナだったが、今は弱々しく嘆き、静かに泣いていた。俺は何も出来ず、ただ壁際から見守ることしか出来なかった。
「まだ私……貴方と少ししか……」
きっと、昔の仲間だったのかもしれない。目が覚めても聞くのはよそう。もし失った仲間だったなら野暮な質問だ。
俺は今出来ることをやるだけだ、隣に座って見守る。俺がすぐ隣にいるってことを実感させる。
この手を伸ばして頭や、金色の髪の毛を撫でることも出来ただろう。しかし今の彼女に必要なのはそれではない。俺はあくまで傍観者として、傍にいることに徹する。
なんだか論理的に考えたが、本当の俺の気持ちは違うのかもしれない。寄り添うことは出来る。ただそれ以上のことは、今はまだ……なんだか違う気がした。
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