俺は配管工だけど勇者として世界を救うことになった

チャハーン

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第2章・爆裂旅団結成!

12.囮作戦!!

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「それで……ついてくるってわけね」

 事の経緯を説明すると、意外にもエルフィーナは冷静に答えた。新メンバーの加入にエルフィーナはもっと驚いたり喜んだりすると思ったが、よくある日常のように対応するのは予想出来なかった。

「まぁいいんじゃない?優秀な仲間が増えるならこちらとしても歓迎だし」

(あいつ……今度は塩対応にハマったのか?)

 さて、メルルが仲間に加わったことだし冒険に出発したいところなのだが……残念ながらお金が無い。この街に入るまで色々と小さなクエストを受注してきたが、それで稼いだお金も今やすっからかん。宿で寝泊まりなんて以ての外だし、ろくな飯にもありつけていない。

 そういえば最後に風呂に入ったのはいつだ?多分三日前とかだろうか、それはいいとして一刻も早くセラを集めて美味い飯を食べたい。出来れば肉、安くてもいいから美味い肉とか。
 ここに来て野菜ばっかり食べてたからタンパク質が不足している。

「よし!今日は危険なクエストだろうと受注してとにかく金を稼ごう!」

「おー!」

 メルルは元気よく腕を振り上げ、ガラクタの中から武器を探し始めた。エルフィーナはというと、眠そうに返事をした。多分大したやる気は無さそうだ。

「というわけで、さっきギルドに行って良さそうなクエストを受注してきた。どれも高額報酬だぞ」

 俺は三枚の紙を研究所の床に置いた。報酬はどれもが数百セラを軽く超えて、成功すればとんでもない大金が手に入る。俺は二人に向けて、紙に書かれたクエスト内容を読み上げた。

『〈魔獣ヌルヌルム〉の討伐、地下水路に住み着いた肉食性スライムを掃討せよ……報酬は三百セラ』

『セイルクォーター区における冒険者失踪の調査、報酬は四百五十セラ』

『自立ゴーレムの荷馬車護衛任務、盗賊団ザイルスから荷物を守りきったら報酬を支払う……四百セラ』

 以上だ。聞いた感じだと最初のが一番楽かもしれないな、スライムっていうと……あの丸っこい液体のモンスターだ。聞いた話だと魔法に打たれ弱いらしいが、本当ならエルフィーナで一撃だろう。

「じゃあこの最初のクエストにしようか」

「肉食スライムのヌルヌルムね~これってどういう奴?」

 エルフィーナはメルルの顔を見ると尋ねた。メルルは机の上から魔物大全と書かれた本を持ってくると、索引からヌルヌルムを探し始める。というか今気づいたんだがここにも印刷技術はあるんだな。

「魔獣ヌルヌルム、属性は特に無く捕食した獲物によって変化する。そして──」

 どうやら俺達は、いや俺は結構ダルいクエストを選んでしまったようだ。魔獣ヌルヌルム、名前は大人向けのゲームか漫画に登場しそうだが、それはある意味大人向け──滅茶苦茶にグロいという意味では──な性質をしていた。

 普段は通常のスライムと変わらないゼリー状で、背丈はポニーかそれより少し大きい程度。しかしこいつは獲物を取り込むと、その属性をコピー、体色や粘度が変化する。火属性の生き物を食べれば火属性のスライムに、水属性なら同様に変化する。

「しかし……あいつはなんだ、紫っぽいぞ」

 ギルドの報告書によると、既に何人もの職員がこの地下水路で行方不明になっているらしい。そして移動速度は遅いが、瞬発力があるとかないとか……ともかく捕まったらおしまいだ。

 紫色は闇属性か毒属性のどちらかだ、両方ともろくでもない能力だから触れるのはマジでやばい。いや、仮に他の属性だったとしても触れるのはやばい。

「作戦を立てよう、俺とメルルで爆薬を仕掛けるから……エルがポイントまでおびき寄せてくれ」

「いやいや、ここはカッコイイタクミ様がやるべきだと思うわよ!」

「いや……俺は足を痛めてるから走れないな」

「その割には聖剣片手に飛び回ってたような──」

 俺はエルフィーナの口元を抑え、ヌルヌルムに音が聞こえないようにした。というのは建前で、このまま何か喋られると俺があれをおびき寄せなきゃいけなくなる。

「なら公平にクジで決めよう」

 丁度紙が落ちていたからそれを拾うとちぎってクジの形にした。一本に水を染み込ませて跡を残した。これを引いた者は……あのスライムから逃げ回る囮になることを意味する。


「もう!なんで私が囮になるのよおおお!」

 エルフィーナは邪魔になりそうな服を全て脱ぎ捨てると、全速力で囮を遂行した。命と俺達の資金を懸けて走るその姿は、今まで見たエルフィーナの中でも最も勇敢な姿に違いない。

 いつ足を滑らすかわからない危険なヌルヌルの粘液に怯えながら、俺達は湿った地下水路を走り抜けた。メルルと一緒に爆弾を運び、エルフィーナに知らせておいたポイントに設置する。それが俺達の任務だ。

「ヌルヌルムはエルが引きつける。俺達はさっさと爆弾を仕掛けて撤退しよう」

 実物を見たことは無いが対戦車地雷くらいの大きさはある。これを食わせれば例え巨大化したスライムだろうと簡単に消し炭に出来るはずだ。メルルが自信満々で言ってくれたんだからそうに違いない。

「……!遠くから足音が、こっちに近づいてくる!」

「ちぃっ……エルが来る前に早く仕掛けるぞ!」

 仕掛けると言っても導火線をつけて離れた場所から起爆するだけだ。一分もかからないだろう。

「エル!仕掛け終わったぞ!」

「ぅぉぉぉ!」

 遠くからエルフィーナの声が聞こえる。水を踏む音、魔法陣が展開されるあの神秘的な音、あらゆる音が反響して俺の鼓膜に入った。なんというか新鮮な音、って感じだな。

「タク!メルル!」

「こっちだエルフィーナ!早く!」

 メルルがエルフィーナの名前を叫び、木箱の後ろに素早く隠れた。
 エルフィーナは狭い水路を走っていたかと思うと、迫るスライムの触手から素早く身を躱し、壁を垂直に走っていた。

(すごい……あんなに軽い身のこなしをするだなんて)

「ばーか!私を食べたいならもっと頑張りなさい!」

 重力を無視した動きで壁や天井を駆け回り滑るように進んだ。エルフィーナは細い通路を転がると、トラップを飛び越えた。

「起爆し──」

 刹那、一本の触手がエルフィーナの足を絡め取った。バランスを崩し、後ろに引き戻される。そして……エルフィーナの足から蒸発するような音が聞こえ始めた。

「ぐっ……!タク、ちょっと助けて!」

 俺は迷わず走り出した。抜刀、構え、この行動を取るには一秒もかからなかった。足を掴んだ触手を、ドロドロとした禍々しい紫の触手を狙う。
 水に足を取られそうになったが、構わずに走る。

「エル!」

 差し出された手を引っ張ると触手がピンと張り、俺の腰の高さまで上がった。この一瞬のチャンスを逃す訳には行かない。剣を振り下ろすと触手が両断され、聖剣の聖なる力に恐れを生したのか、狂ったように引っ込めた。

「二人とも!伏せて!」

 鼓膜を通してメルルの声が伝わった。
 爆弾が起爆する。どれくらいの威力かはわからないが、あれを吹き飛ばせるくらいなら相当な力がある。

「うおおお!」

「タク!あんた何してんの!」

 俺はエルフィーナを背負って走り出した。ヌルヌルムが迫り、あと数メートルで食われるというところで起爆スイッチを押す音が聞こえた。
 凄まじい爆風が俺達を吹き飛ばし、煙と熱風に焼かれる寸前、メルルがバリケードの後ろまで引っ張った。

「ぐわあああ!耳が!」

「そんくらい我慢しなさい!私も鼓膜が破れそうよ!」

 ヌルヌルムの体がブクブクと沸騰したかと思うと、音を立てて弾きとんだ。肉片……いやスライム片?は壁に張り付き蒸発した。そして脳の奥底に、ガラス玉が割れるような音が響いた。

 生命の糸が切れる音、だと俺は本能的に察した。ヌルヌルムはあの爆発で核ごと破壊され、息絶えたのだ。

「やった……の?」

 ヘナヘナと座り込んだエルフィーナが聞いた。俺とメルルは頷くと、エルフィーナの顔はぱあっと明るくなり、その場で飛び跳ねながら喜びを体現した。

「ったく……タクがあの時私を助けてなかったらそのままスライムの中で溶けてたわね」

「おっ、そろそろ褒めてくれるか?」

「ち……違うわよ!少しだけ、ほんのすこーしだけタクの力を認めただけなんだからね!」

「ほんの少しだけかよ」

 メルルは俺の裾を引っ張ると、エルフィーナに聞かれないように静かな声で耳打ちした。

「なぁ、アンタ達っていつもこうなのか?」

「そうかもな、お前も仲間になるなら慣れておくべきだぞ」

 俺はエルフィーナを抱えあげると、足の傷を見た。服と靴下が溶け、皮膚が顕になっている。もしも服が無かったら結構な重症になっていたはずだが、幸いにも擦り傷程度で済んでいる。

「いや~もう二度と囮なんてやりたくないわね、走り回ったのは楽しかったけど」

「次も囮は任せたぞエル!」

「どうせなら魔法を使わせなさい!」

 俺はエルフィーナを降ろし、ヌルヌルムの壊れた核を探し始めた。それを探さないと報酬は貰えないからな。

「核……見つからないね」

「んー……エル、そっちにはあるか?」

「無い!ヌルヌルばっかり!」

 うん、やっぱり爆弾じゃなくてエルのハリケーンで燃やした方が良かったかもしれないな。
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