ある面倒くさがりな勇者が珍しく頑張るしかなくなった話

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旅の間に―ある薬師の少女のお話―

■二話

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ある日、お薬の調合の息抜きに広場に向かった。
温かい太陽の光りの中で、村の子供たちが追いかけっこをして遊んでいるのが目に入った。
パン屋のお子さんは、今日はパン屋のお父さんと一緒みたいで、歩く練習をしていた。
そんな光景を見ながら、ベンチに座ってほっと一息つく。
今日も太陽の光りは暖かくて、風は優しくて心地が良い。

「メイ~!」

遠くから呼ばれて振り返ると、ハイシアが、村長さんのお家がある方の道で手を振っていた。
私も手を振り返すと、ハイシアが駆けてきて隣に座る。

「はぁ~…もう、すんごい疲れた」
「どうしたの?」

座ったと思ったら、次には大きなため息をついてがっくりと項垂れるハイシアに、私は首を傾げる。

「歴史だけは無理!どうしても!頭に入ってこない!あ~!」

ハイシアは項垂れたと思ったら、今度は両手でわしゃわしゃと頭を乱暴にかいて、それからまた、がくんと両手を降ろす。
今日は、歴史の座学だったみたい。

「ハイシア、座学苦手だもんね」
「え~?これでも頑張ってるんだけど?特に魔法基礎とかさぁ~」

あの、お勉強が大嫌いだったハイシアが。
改めて言われると、ハッとしちゃう。
だけどハイシアは、次には両手を組んで、ふん、とそっぽを向いてしまった。

「だいたいさ、書いてある事が本当かなんて証明出来っこないっての」
「ハイシア、もしかして歴史のお勉強に使う教科書が嫌いなの?」

私の言葉に、そっぽを向いたばかりのハイシアの顔がこっちに向く。
口がへの字に曲がってる…
私が言った通りみたい。

「なんかムカつくんだもん、書いてある事がいちいち。腹が立つ」
「えっと…?」

文字を読めるようになるためにお勉強を頑張る様になったハイシアが、そこまで言うなんて。
読めないからとかじゃなくて、歴史の教科書に書いてある内容に怒っているみたいで、ハイシアは唇を尖がらせてそれ以上は言わなかった。
歴史の教科書に書いてある事ってどんな事だろうかと、少し考えて、納得した。

「魔族との、歴史?」

私の言葉に、ハイシアは「そ~」と気の抜けた返事をして、噴水の近くで遊んでいる村の子供たちに視線を向けた。
まだ追いかけっこをしているみたいだったけど、さっきとは、追いかけている子が違った。

自分で言った『魔族』の言葉に、森に一人で入った夜の事を思いだす。
何度か昼間に足を運んだことがある『スライムのいる湖』に行こうとして、迷子になった私は、魔王と名乗る、私とハイシアよりも少し年上の男の子に会った。
その『魔王』は指をさして、ここが境界線だということと、道を示そうとしてくれた様だった。
けど、その時の私は、魔王というものを初めてみた恐怖で動けなくなってしまっていた。
ハイシアから聞かされていた『ランくん』とは、ちょっとだけ違って、怖い目をしていたから。
だけどハイシアと話している『魔王』は、ハイシアが教えてくれた『ランくん』そのままだった。
怖かったけど、ハイシアに対しては優しくて、泣きそうで、ハイシアはこの人のために勇者になるんだなって思ったら、すごく納得してしまった。



   ***



ハイシアが剣術のお稽古に行ったあと、私も、広場の時計を見てお家に戻った。
お父さんが店番をしていて、お客さんが数人、お店にいた。
ポーションをいくつ買うか考えているみたいで、ポーションの棚の前で唸ってる。
他にも、お父さんと雑談してる人もいて、お母さんの作ったお薬だけじゃなくてお父さん自身も人気みたい。

「そういや、冒険には戻らないのか?子供もだいぶでかくなったろ?」
「いやぁ、俺はもう良いんだよ」

お父さんは照れた様に、だけど豪快に笑っていた。
せっかく楽しくお話しているみたいだったから、そっと家の中に入っていく。

「おう、お帰りメイ」
「あ、ただいま…えっと、こんにちは」

お父さんが私に気が付いて、豪快な笑い声から柔らかい笑顔になる。
お父さんに挨拶して、お父さんと話しているお客さんに頭を軽く下げてから、住居区へと向かう。

「やっぱあれだよな、メイちゃん、本当いい子だな。将来うちの息子の嫁にきてほしいよ」
「は?!やらんぞ?!メイはやらないからな!」

そんな話声が後ろから聞こえてきた。

『いい子』の言葉の意味って、なんなんだろうって、ちょっとだけ考えちゃった。
お姉ちゃんが言う『いい子』と、お客さんが言う『いい子』に違いはあるのかな。
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