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1幕
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芝の感触は本物で、呼吸をするたびにここは室内かもしれないという疑念は薄れてきていた。その疑念はカナミの合図にまで及び始めたころだった。
壁があった。
霧で分かりにくかったが、壁だった。その壁に手を付けると、少し湿っていた。感触的にはコンクリートだろうか。壁づたいに歩く。絶望より先に疑問の方が強かった。なぜこんな場所を作ったのだろうか?
おそらくまだ上があるのだろう。そう思った瞬間だった。
警告のようなブザーが鳴った。
付けてる本人に聞こえる程度の音量だった。その音は無意識に不快感を覚えるような音だった。
それは体に付けたセンサーからだった。中央を細く一周するように赤く走っていた。
センサーが爆発するところを思い出した。
目の前も赤くなったような錯覚に陥った。と、同時に、「早く戻って!」という声が聞こえた気がした。
ゴイチは走った。ブザーの間隔が短くなっていく。間隔がなくなり、もう駄目だと思った。そのまま扉に飛び込んだ。
ブザーの音は止まった。今は荒れた呼吸と全身に感じる内側から殴りつけられるような心臓の鼓動だけだった。
「……助かった、のか?」
扉を開けっぱなしにしてたことに感謝した。閉めていたら助からなかっただろう。
時間はかかったが、だんだんと思考が回復してきた。
それにしても、あの声は誰だったのだろうか? 声の質的に女性っぽい感じだった。だがどこか機械的な、ボイスチェンジャーを使ったような加工した雰囲気があった。だがそもそもあの場には誰もいなかったはずだ。湿った芝に足跡は加々島のものしかなかった。気のせいだとしても都合が良すぎる。
あのブザーはなぜ鳴ったのだろう。壁に手をついたからだろうか、それとも時間制限があったのだろうか。はたまた超えてはいけないラインが設定してあるのか。
とにかく俺は助かったんだ、と疲れ切っていたゴイチは考えるのをやめた。
室内だということはわかった。朝方だと思ったが、本当は何時かわからない。おそらく上に行く方法があるのだとは思うが、センサーが警報を鳴らすから調べることも難しい。
逃げられないんだな、とゴイチは絶望感に包まれた。
エレベーターの昇ってくる音が聞こえてきた。
ゴイチは目を見開いた。スーッと、神経がひとつのところに凝縮するような冷たい不快感が強くなった。
扉が左右に開きかけた。
それはとても長く感じた。きっと走馬灯に似たなにかなのだろう。ここに来る手段を知っている者か、はたまたここの管理人か。
ここの管理人だった場合、俺は殺される。排除される。ここも室内なら巡回に来ない理由がない。
ここで殺されて、放送では突然いなくなるような、もしかしたら初めからいなかったことにされるのか。
あっけない。
そう思うと、不思議と楽になった気がした。それはどうでもよくなったという諦観かもしれない。ゴイチ本人は言葉にできるような学はない。感覚で理解できたような気がした。
こわばった目の力が抜けかけたころ、エレベーターの扉は開き切った。
見えた姿は小柄な女性だった。おとなしく気の弱そうな雰囲気を出していた。整った二重瞼には恐怖の色が強く過呼吸気味だった。
管理人は機械人形のような雰囲気のはずだ。堂々と言うよりは感情を消しているかのような――。
ゴイチと目が合った。
壁があった。
霧で分かりにくかったが、壁だった。その壁に手を付けると、少し湿っていた。感触的にはコンクリートだろうか。壁づたいに歩く。絶望より先に疑問の方が強かった。なぜこんな場所を作ったのだろうか?
おそらくまだ上があるのだろう。そう思った瞬間だった。
警告のようなブザーが鳴った。
付けてる本人に聞こえる程度の音量だった。その音は無意識に不快感を覚えるような音だった。
それは体に付けたセンサーからだった。中央を細く一周するように赤く走っていた。
センサーが爆発するところを思い出した。
目の前も赤くなったような錯覚に陥った。と、同時に、「早く戻って!」という声が聞こえた気がした。
ゴイチは走った。ブザーの間隔が短くなっていく。間隔がなくなり、もう駄目だと思った。そのまま扉に飛び込んだ。
ブザーの音は止まった。今は荒れた呼吸と全身に感じる内側から殴りつけられるような心臓の鼓動だけだった。
「……助かった、のか?」
扉を開けっぱなしにしてたことに感謝した。閉めていたら助からなかっただろう。
時間はかかったが、だんだんと思考が回復してきた。
それにしても、あの声は誰だったのだろうか? 声の質的に女性っぽい感じだった。だがどこか機械的な、ボイスチェンジャーを使ったような加工した雰囲気があった。だがそもそもあの場には誰もいなかったはずだ。湿った芝に足跡は加々島のものしかなかった。気のせいだとしても都合が良すぎる。
あのブザーはなぜ鳴ったのだろう。壁に手をついたからだろうか、それとも時間制限があったのだろうか。はたまた超えてはいけないラインが設定してあるのか。
とにかく俺は助かったんだ、と疲れ切っていたゴイチは考えるのをやめた。
室内だということはわかった。朝方だと思ったが、本当は何時かわからない。おそらく上に行く方法があるのだとは思うが、センサーが警報を鳴らすから調べることも難しい。
逃げられないんだな、とゴイチは絶望感に包まれた。
エレベーターの昇ってくる音が聞こえてきた。
ゴイチは目を見開いた。スーッと、神経がひとつのところに凝縮するような冷たい不快感が強くなった。
扉が左右に開きかけた。
それはとても長く感じた。きっと走馬灯に似たなにかなのだろう。ここに来る手段を知っている者か、はたまたここの管理人か。
ここの管理人だった場合、俺は殺される。排除される。ここも室内なら巡回に来ない理由がない。
ここで殺されて、放送では突然いなくなるような、もしかしたら初めからいなかったことにされるのか。
あっけない。
そう思うと、不思議と楽になった気がした。それはどうでもよくなったという諦観かもしれない。ゴイチ本人は言葉にできるような学はない。感覚で理解できたような気がした。
こわばった目の力が抜けかけたころ、エレベーターの扉は開き切った。
見えた姿は小柄な女性だった。おとなしく気の弱そうな雰囲気を出していた。整った二重瞼には恐怖の色が強く過呼吸気味だった。
管理人は機械人形のような雰囲気のはずだ。堂々と言うよりは感情を消しているかのような――。
ゴイチと目が合った。
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