9 / 14
1幕
1-9
芝の感触は本物で、呼吸をするたびにここは室内かもしれないという疑念は薄れてきていた。その疑念はカナミの合図にまで及び始めたころだった。
壁があった。
霧で分かりにくかったが、壁だった。その壁に手を付けると、少し湿っていた。感触的にはコンクリートだろうか。壁づたいに歩く。絶望より先に疑問の方が強かった。なぜこんな場所を作ったのだろうか?
おそらくまだ上があるのだろう。そう思った瞬間だった。
警告のようなブザーが鳴った。
付けてる本人に聞こえる程度の音量だった。その音は無意識に不快感を覚えるような音だった。
それは体に付けたセンサーからだった。中央を細く一周するように赤く走っていた。
センサーが爆発するところを思い出した。
目の前も赤くなったような錯覚に陥った。と、同時に、「早く戻って!」という声が聞こえた気がした。
ゴイチは走った。ブザーの間隔が短くなっていく。間隔がなくなり、もう駄目だと思った。そのまま扉に飛び込んだ。
ブザーの音は止まった。今は荒れた呼吸と全身に感じる内側から殴りつけられるような心臓の鼓動だけだった。
「……助かった、のか?」
扉を開けっぱなしにしてたことに感謝した。閉めていたら助からなかっただろう。
時間はかかったが、だんだんと思考が回復してきた。
それにしても、あの声は誰だったのだろうか? 声の質的に女性っぽい感じだった。だがどこか機械的な、ボイスチェンジャーを使ったような加工した雰囲気があった。だがそもそもあの場には誰もいなかったはずだ。湿った芝に足跡は加々島のものしかなかった。気のせいだとしても都合が良すぎる。
あのブザーはなぜ鳴ったのだろう。壁に手をついたからだろうか、それとも時間制限があったのだろうか。はたまた超えてはいけないラインが設定してあるのか。
とにかく俺は助かったんだ、と疲れ切っていたゴイチは考えるのをやめた。
室内だということはわかった。朝方だと思ったが、本当は何時かわからない。おそらく上に行く方法があるのだとは思うが、センサーが警報を鳴らすから調べることも難しい。
逃げられないんだな、とゴイチは絶望感に包まれた。
エレベーターの昇ってくる音が聞こえてきた。
ゴイチは目を見開いた。スーッと、神経がひとつのところに凝縮するような冷たい不快感が強くなった。
扉が左右に開きかけた。
それはとても長く感じた。きっと走馬灯に似たなにかなのだろう。ここに来る手段を知っている者か、はたまたここの管理人か。
ここの管理人だった場合、俺は殺される。排除される。ここも室内なら巡回に来ない理由がない。
ここで殺されて、放送では突然いなくなるような、もしかしたら初めからいなかったことにされるのか。
あっけない。
そう思うと、不思議と楽になった気がした。それはどうでもよくなったという諦観かもしれない。ゴイチ本人は言葉にできるような学はない。感覚で理解できたような気がした。
こわばった目の力が抜けかけたころ、エレベーターの扉は開き切った。
見えた姿は小柄な女性だった。おとなしく気の弱そうな雰囲気を出していた。整った二重瞼には恐怖の色が強く過呼吸気味だった。
管理人は機械人形のような雰囲気のはずだ。堂々と言うよりは感情を消しているかのような――。
ゴイチと目が合った。
壁があった。
霧で分かりにくかったが、壁だった。その壁に手を付けると、少し湿っていた。感触的にはコンクリートだろうか。壁づたいに歩く。絶望より先に疑問の方が強かった。なぜこんな場所を作ったのだろうか?
おそらくまだ上があるのだろう。そう思った瞬間だった。
警告のようなブザーが鳴った。
付けてる本人に聞こえる程度の音量だった。その音は無意識に不快感を覚えるような音だった。
それは体に付けたセンサーからだった。中央を細く一周するように赤く走っていた。
センサーが爆発するところを思い出した。
目の前も赤くなったような錯覚に陥った。と、同時に、「早く戻って!」という声が聞こえた気がした。
ゴイチは走った。ブザーの間隔が短くなっていく。間隔がなくなり、もう駄目だと思った。そのまま扉に飛び込んだ。
ブザーの音は止まった。今は荒れた呼吸と全身に感じる内側から殴りつけられるような心臓の鼓動だけだった。
「……助かった、のか?」
扉を開けっぱなしにしてたことに感謝した。閉めていたら助からなかっただろう。
時間はかかったが、だんだんと思考が回復してきた。
それにしても、あの声は誰だったのだろうか? 声の質的に女性っぽい感じだった。だがどこか機械的な、ボイスチェンジャーを使ったような加工した雰囲気があった。だがそもそもあの場には誰もいなかったはずだ。湿った芝に足跡は加々島のものしかなかった。気のせいだとしても都合が良すぎる。
あのブザーはなぜ鳴ったのだろう。壁に手をついたからだろうか、それとも時間制限があったのだろうか。はたまた超えてはいけないラインが設定してあるのか。
とにかく俺は助かったんだ、と疲れ切っていたゴイチは考えるのをやめた。
室内だということはわかった。朝方だと思ったが、本当は何時かわからない。おそらく上に行く方法があるのだとは思うが、センサーが警報を鳴らすから調べることも難しい。
逃げられないんだな、とゴイチは絶望感に包まれた。
エレベーターの昇ってくる音が聞こえてきた。
ゴイチは目を見開いた。スーッと、神経がひとつのところに凝縮するような冷たい不快感が強くなった。
扉が左右に開きかけた。
それはとても長く感じた。きっと走馬灯に似たなにかなのだろう。ここに来る手段を知っている者か、はたまたここの管理人か。
ここの管理人だった場合、俺は殺される。排除される。ここも室内なら巡回に来ない理由がない。
ここで殺されて、放送では突然いなくなるような、もしかしたら初めからいなかったことにされるのか。
あっけない。
そう思うと、不思議と楽になった気がした。それはどうでもよくなったという諦観かもしれない。ゴイチ本人は言葉にできるような学はない。感覚で理解できたような気がした。
こわばった目の力が抜けかけたころ、エレベーターの扉は開き切った。
見えた姿は小柄な女性だった。おとなしく気の弱そうな雰囲気を出していた。整った二重瞼には恐怖の色が強く過呼吸気味だった。
管理人は機械人形のような雰囲気のはずだ。堂々と言うよりは感情を消しているかのような――。
ゴイチと目が合った。
あなたにおすすめの小説
私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?※これはあくまでフィクションです。
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃から夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
表紙はぱくたそのフリー写真です
【「ぐだぐだ」継続中!】『お母ちゃん(霊)といっしょ EP1st.~福井・小浜編 悩める「座敷童」の心の壁をぶち壊せ!~』
M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第2話」です。
読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。
広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください!
お時間のある方は「エピソード0」(実質的な「第1話」もアップしますのでお母ちゃんが今、家族と一緒に居る「前振り」の話がありますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです!
この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください!
では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストの「座敷童」さんの応援をよろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
しずめ
山程ある
ホラー
六つの森に守られていた村が、森を失ったとき――怪異が始まった。
フォトグラファー・那須隼人は、中学時代を過ごしたN県の六森谷町を、タウン誌の撮影依頼で再訪する。
だがそこは、かつての面影を失った“別の町”だった。
森は削られ、住宅街へと変わり、同時に不可解な失踪事件が続いている。
「谷には六つのモリサマがある。
モリサマに入ってはならない。枝の一本も切ってはならない」
古くからの戒め。
シズメの森の神に捧げられる供物〝しずめめ〟の因習。
そして写真に写り込んだ――存在しないはずの森。
三年前、この町で隼人の恋人・藤原美月は姿を消した。
森の禁忌が解かれたとき、過去と現在が交錯し、隼人は“連れ去られた理由”と向き合うことになる。
因習と人の闇が絡み合う、民俗ホラーミステリー。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜
まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。
ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。
疲れてるだけだ。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。
カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。