はごろも伝奇

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08. 改善策

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 佳奈子は4年前の事を思い返し、なつかしく思う。

 そして今の自分の気持ちを、真人まさひとに話し始めた。

「あの大首事件から、もうすぐ4年になります…。あの事件はとても怖い事件だったけど、あの事件があったから、私は自分のやりたい事を…、夢を見つける事が出来たんです…」

 そう、あの事件は、佳奈子にとって、大きな人生の転機てんきだったのだ。

「伊吹さまには、命を助けて頂いただけでなく、夢のきっかけまで与えて頂きました…。だから伊吹さまの事を忘れた事はありません…。これからだって、忘れる事はきっとない…。そして出来る事なら、いつかあの人に、ちゃんと直接、あの時のお礼が言いたい…。あなたのおかげで私は救われて、今こうして、夢を追いかける事が出来ているって…」

「佳奈子ちゃん…」

 佳奈子の話を聞いていた真人まさひとは、感動したような顔をする。

「本当に、伊吹さまと出会えた事は、奇跡だと思います…。あれから私、伊吹さまと出会った時の事、何度も夢に見るんですよ…?あの時の伊吹さま、本当にステキだった…。恐ろしい大首を前にしても、まったく動じない勇敢ゆうかんな姿…。体からあふれ出る、並外なみはずれた覇気はき…。隠し切れない品格…。圧倒的なカリスマ性…。そして人々を守ろうとする、優しく気高い心…!しかも皆を救っておきながら、何も言わず、何も求めず立ち去る、無欲むよくで、清らかな謙虚けんきょさ…!ああっ…!なんて神聖で尊い方なの…!伊吹さま…!」

 佳奈子は熱に浮かされたように、伊吹の事を語る。

 しかし、それを聞いていた真人は…。

「~~~っ」

 なぜか顔を真っ赤にしていた。

 しかも赤くなったまま、苦しそうに頭を抱え、さらには激しく頭を振って、身もだえしているのだ。

 その姿はまるで、何かを激しく、否定しているかのよう…。

 やがて彼は、気持ちを落ち着かせようと思ったのだろう、お茶をゴクゴクとあおり始めた。

「私…、伊吹さまの事を思い出すと、胸のドキドキが止まらないんです…。もしかしたら私…、伊吹さまに、恋を、しているのかもしれません…」

「ブーッ!」

「きゃあ!」

 なんと真人は、飲んでいた紅茶を吹き出してしまったのだ。

「ご、ごめん!ケホッ!すぐに!すぐにくから!ケホッ!」

「だ、大丈夫ですか?!」

「平気!平気だから!」

 そう言って真人は、驚くほど素早い動きで布巾ふきんを取り、周りをきだし始めた。

 佳奈子はそんなあわてる真人を見て、しまった、と思う。

 なぜなら真人は、いつも伊吹の話になると、真っ赤になるのだ。

 そして真人がこんな反応をするものだから、佳奈子は以前、彼が伊吹なのではないかと疑ったことがある。

 そもそも佳奈子は、この町に来て、真人に出会った時、彼を伊吹さまだ!と、思ったのだ。

 けれどそれは、すぐに本人に否定されてしまった。

 しかし、そう否定されても、佳奈子の疑いの気持ちは晴れなかった。

 なので佳奈子は、確証を得るため、色々な人に聞き込みをして、情報を集めたのだ。

 しかしその結果、逆に、彼が伊吹ではないことが分かってしまったのである…。

 なので、真人がこうして赤くなるのは、自分の話をされて、照れているとかではないのだ…。

 きっと真人は、純情じゅんじょうな人なのだろう。

 恋の話や、それをにおわせるようなうわついた話が苦手で、赤くなってしまうだけなのだ…。

 佳奈子はそう思い、申し訳なくなる。

「すみません真人さん…。真人さんは、恋の話とか苦手でしたよね…?なのに私、一人で盛り上がっちゃって…。本当にごめんなさい…。せっかく相談に乗って頂いていたのに…」

「い、いや、別に苦手とかじゃ…。ただ、ずかしいっていうか…」

「えっ?」

「ハッ!そ、そうだ!泥田坊を捕獲する話だったよね!悪質な彼らを野放のばなしにするのは危険だよ!うん!以前にも、急にドロをかけられた車が、事故を起こした事もあるし、田んぼに引きずり込まれた人が、窒息ちっそくして死亡した例もある…。少ない例ではあるけどね…」

「!はい…。おばあちゃんも、そう言っていました…。彼らが、この前の事でりてくれればいいんですけど…、たぶんあのくらいの事じゃあ、数日てばまた、同じ事を繰り返すだろうって…」

「うん。だからやっぱり、捕まえなきゃいけないと思う。ただ、前と同じ方法で捕まえようとしても、きっとまた逃げられてしまうだろう。そうならないように、違う方法をとらないとね」

「違う方法…。どんな方法がいいんでしょうか?」

「う~ん。方法は色々あるんだけど…。佳奈子ちゃんの場合、ワナを張るのがいいんじゃないかな?」

「ワナ、ですか?」

「うん。俺もよくやるんだけどね、例えば…」

 そうして真人は、佳奈子に退魔師のテクニックを教え始めた。



「なるほど!それなら、うまくいくかもしれません!私、次の機会には、その手を使ってみます!そうと決まれば、早く家に帰って練習しないと!あっ!真人さん、今回もアドバイス、ありがとうございました!私、すぐに帰って練習を始めてみます!なので今日はこれで失礼しますね!」

「ハハッ!いつもながら、スゴイやる気だね」

「当然ですよ!だって、やっとなりたかった退魔師になれたんですから!」

「…そっか」

 真人はそれを聞いて、とても優しい笑顔を浮かべる。



「じゃあね、佳奈子ちゃん」

「はい!お茶とお菓子、ごちそうさまでした!」

「うん。気をつけて帰って」

「はい!それじゃあ、また!」

 佳奈子は挨拶あいさつをした後、明るい笑顔で走っていった。

 そしてそんな佳奈子を、真人も笑顔で見送る。

頑張がんばってね。佳奈子ちゃん」

 真人と2匹の猫は、佳奈子が見えなくなるまで、その姿を見送っていたのだった。




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