はごろも伝奇

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21. 謹慎

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 体育館での大騒動だいそうどう・ミノムシ事件…。

 それもなんとか解決かいけつし、人々のほとんどは、元気げんきに家へと帰っていった。

 しかしそのあと、佳奈子と、山崎と山田は、退魔師の黒田から注意を受ける。

「あのですね~、いいですか君たち。今日はさいわい、ケガ人が出ずにみましたけど、ちょっと間違えれば、人の命に関わった、大変な事態じたいだったんですからね~?これは大問題ですよ~。今回のような事が二度と無いよう、くれぐれも気を付けて下さいね~?」

「はい…。本当にすみませんでした…」

 佳奈子は深々ふかぶかと頭を下げる。

 しかし山崎と山田は、むっつりとだまんだままだ。

「それと君たちはまだ未成年みせいねんですから、今回の事は、君たちの親御おやごさんにも連絡れんらくをさせていただきます。あとで退魔師連盟から連絡が行くと思いますので、そう伝えておいてくださいね」

「なっ…!」

 それまで黙っていた山崎と山田は、なぜか青ざめる。

「特に八乙女やおとめさん。あなたのしでかした事は大変な問題だ…。今後、このような事態をふせぐためにも、対策たいさくふくめて、退魔師連盟でしっかりと協議きょうぎしなくてはならない…。その結果、あなたには、なんらかの処罰しょばつが下される可能性もあります…。そう覚悟かくごしておいて下さい…」

「!…処罰…」

 佳奈子はさらに青ざめる。

「…まぁ、そう悪い事にはならないよう、私も善処ぜんしょするつもりです…。ですが、その可能性もあるという事をきもめいじておいてください」

「…はい…。わかりました…」

 佳奈子はそう言って、再び深く頭を下げ、体育館をあとにした…。




 そして家へ帰った佳奈子は、今日の事件を、祖母の絹代きぬよ報告ほうこくした…。

 話を聞いた絹代は、当然とうぜん、驚いた顔をする。

 しかし激怒げきどするかと思いきや、

「…それで佳奈子、お前、今の体調たいちょうは、何でもないんだね…?」

 そう静かに聞いて、心配をしてくる。

「え…?うん…。体調は何ともないよ…。っていうか、私は意識がなかったから、トランスしていたなんて、今でも信じられないくらい…。でも、皆をミノムシにしちゃったのは私しか考えられないし…、知らない間にあんな事をしちゃうだなんて…、私、怖くて…。…それに、皆をあんな姿にしちゃって、本当にもうわけなくて…」

 佳奈子はふるえて涙をこぼす。

「…はぁ…。つみ十分じゅうぶん自覚じかくしているようだね…。これ以上、説教せっきょうする必要はないようだ…。それよりも、お前は少し、休んだ方がいい…。ひどい顔色をしているよ…。精神的ダメージが大きいんだろう…。それに、今はうかつに動くべきじゃない…。これは、八乙女家の今後こんご左右さゆうする一大事いちだいじだ…」

「え…」

「しばらく、お前は、家で謹慎きんしんしてな…。あたしがいいと言うまでね。学校も休むこと。家での修行しゅぎょうだけに専念せんねんするんだ…。アタシはしばらく見てやれないが、一人でも修行をおこたるんじゃないよ」

「えっ?一人でもって、おばあちゃんは…?」

「ああ…。あたしは、方々ほうぼうへ話をつけに行かなきゃならない…。今回の事件で、ウチは深刻しんこく風評被害ふうひょうひがいを受けるかもしれない…。なにより、お前が、もしも、退魔師を続けられなくなったりでもしたら、この八乙女家の存続そんぞくかかわる…。そうなる事だけは、絶対にけなければ…。絶対に…」

「!…ご、ごめんなさい…!おばあちゃん…!私…」

 佳奈子は、あらためてことの重大さに気付き、震えが止まらなくなる。

「…そんなにおびえなくても大丈夫だよ、佳奈子…。今回の事態は想定そうていしてなかったが、こういう時のために、いろんな所に、た~んとおんを売ってあるんだ。それに、ばらまくかねも、たんまりある。だからお前は、あまり心配せずに、ゆっくりしてな」

「えっ?!ばらまくかね?!」

「それじゃ、行ってくるよ」

 そう言って絹代は部屋を出ていく。

「えっ…。あの…、ばらまく金って…」

 佳奈子は、別の意味でさらに不安になりながら、出ていく絹代を見送った…。




 それから数日、佳奈子は言われた通り、家で、おとなしく謹慎きんしんしていた…。

 絹代は、あの日以来、あちこちへ出かけているらしく、食事の席にもあらわれない…。

 ただ、タマたちの話によると、毎日、家に、帰って来てはいるようだ。

 そして、その絹代と話し合うために、多くの来客らいきゃくもあった。

 初めのうちの来客は、佳奈子の親戚しんせきのほか、絹代の、たくさんの弟子でしたちだった…。

 しかし、そのの来客たちは、佳奈子が、まったく知らない人たちがほとんど…。

 しかも、その来客たちの訪問ほうもんは、深夜しんやにまでおよぶ事もあったのだ…。

 彼らはむずかしい話をしているらしく、佳奈子は「邪魔じゃまをしないように」とタマたちにきつく言われ、部屋へ近づくことを禁止される…。

 そしてそう言われた佳奈子は、

(…わ、私のせいで、この家で賄賂わいろの受けわたしとか、不正ふせい取引とりひきとかが行われているのかもしれない…。こ、怖いよ~!しかも、それが私のせいって…!もう、いたたまれないよ~!)

 そう思い、罪悪感ざいあくかんに押しつぶされそうになっていたのであった…。




 …そのうえ、佳奈子が謹慎きんしん中、八乙女家の敷地しきちでは…、

「ネズミ一匹見逃みのがすな…!」

「はい…!」

 そう言って、絹代の弟子でしたちが、つねに庭に立っており、タマたちの息がかかった猫たちが、家のいたるところに配置され、厳戒げんかい態勢たいせいがしかれていた…。

 そうして、八乙女家が、物々ものものしい空気につつまれて数日…。

 ふたたび絹代が佳奈子の前に姿をあらわしたのは、そのしゅうが終わる、最後の日だった…。

「…たせたね、佳奈子…。でも喜びな。今回の事件…お前への処罰しょばつは、厳重げんじゅう注意って事で話が決まった。退魔師の仕事も、これまで通り続けられるよ。安心しただろう…?」

 絹代はそう言って、おだやかに笑う。

「…これまで通り…?…私、退魔師を続けてもいいの…?」

「ああ。退魔師連盟れんめいから連絡があってね、なんと、お前への苦情くじょうは、一つもなかったそうだ…。人を使って、被害者ひがいしゃたちにも話を聞いたが、お前をうったえたいってやつは、誰もいなかったらしい…。事件でケガをした者もいないし、後遺症こういしょうが出た者もいない…。だからそのおかげもあって、処罰しょばつが軽くてんだんだよ…」

 絹代は、安堵あんどした顔で話を続ける。

「あと、体育館の修繕費しゅうぜんひも、ウチから出すと言ったら「それならもう何も問題はありません」って、連盟の奴ら喜んでいたよ。ただそれは、山崎家と山田家の当主とうしゅも、どうしても負担ふたんさせてくれっていうから、三家さんけで出し合うことになったがね…。まぁ、何はともあれ、まるおさまってよかったよ…」

「…そう、だったんだ…」

 佳奈子はそう言ったきり、だまむ。

「?どうしたんだい?佳奈子…。…お前、まさか、うれしくないのかい…?」

「…ううん…。そういうわけじゃないの…。…でも、ただ素直すなおに喜んでいいのかなって思って…」

「?どういう意味だい?」

「…私…、本当にこのまま退魔師を続けてもいいのかな…?」

「なんだって?!」

「…だって私、人を守れる…、助けられる人になりたくて退魔師になったのに、あんなふうに人をきずつけちゃうなんて…。この羽衣の力は、人を助けるためにあったんだってうれしく思ってたのに、違うのかもしれないって思って…。こんな私には、退魔師を続ける資格しかくは、ないんじゃないかって…」

 そう、佳奈子はずっと謹慎中きんしんちゅう、そうなやんでいたのだ。

 しかし、その言葉を聞いた絹代は、

「なっ!お前、本気でそんな事を言ってるのかい?!それはアタシや、ご先祖せんぞさまたち、みんなをバカにする発言はつげんだよ!」

「えっ…?」

 思ってもみなかった絹代の言葉に、佳奈子は驚く。

「アタシも、そしてご先祖さまたちも、この羽衣の力を、人のやくに立てようとくしてきた…!世間せけんじゃ、いまだにアタシたち異能いのうもちの事を、人間じゃないだの、け物だのと言ってくるやつらも少なくない…。だが、アタシもご先祖さまたちも、この力を人のために使って、人を守る人間なんだと、世間せけんに自分たちを認めさせてきたんだ…!お前はそれを否定ひていするつもりかい…?!」

「そ、そんなつもりは…!」

 佳奈子は青くなって首をる。

「だったら、退魔師を続けてもいいのか、なんて悩むんじゃない!羽衣の力が、人を傷つける為にあるだなんて、他人にだけじゃなく、自分にも言わせるな!」

「で、でも…」

「…お前は、その羽衣の力を、のろって生きてくつもりかい…?そう思いたいのかい…?」

「!そんなわけない…!」

「なら、覚悟かくごを決めな。自分をほこれるよう…。この力は、人を守る力になる。いや、そうなるように使うんだ!どんな力も使い方次第しだいで、ぜんにも悪にもなる…。自分の気持ち次第しだいなんだよ…」

「自分の気持ち次第…」

「…佳奈子…。お前は力を、どう使いたい…?どういう人間になりたいんだい…?」

「…私は…、私は、人を守れる、助けられる人になりたい…。この力を、その為に使いたい…。この先もずっと…!…やっぱり私、退魔師の道をあきらめきれない…!」

 そう、いくら悩んでも、落ちんでも、佳奈子には結局けっきょく、退魔師をあきらめる事など、できはしないのだ。

 佳奈子は今、やっとその事に、ハッキリと気付きづいたのだった。

 そしてその言葉を聞いた絹代は、

「…よく言った…!それでこそ、アタシのまごだ…!」

 そう言って、満面まんめんの笑顔で笑った。




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