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「失礼いたします……」
と入ってきたのは祭司だった。
いくつかの書類を机に置き、椅子に座る。
「ご予定通り今後のお話をさせて頂くため参りました。」
どうぞこちらへ。と机の前のソファに冬を促す。
「あぁ。大事な今後のお話な。」
ニヤリと笑い冬は机の前に移動した。
「まず、神子様は国王陛下により正式にハルカ様にと決定致しました。フユ様のことはこちらへ一任する、というお言葉も頂いております。」
「そりゃよかった。じゃああんたとの取り引きになる訳だな。」
「っ、えぇ。最初にご提示された内容は、全てご用意させて頂きます。」
「あ、それなんだけど、この世界の知識ってのは粗方分かったからいいや。金と身分が貰えりゃいい。この世界に身分証みたいなものはあんのか?」
「左様でございますか。えぇ。こちらをお持ちして頂ければ身分が証明されます。」
そう言って祭司が見せたのはドッグタグのようなものだった。
「国民として生を受けたものに配られ、その行動により年毎に書き換えられます。今回はこちらで指定された内容を記し、お渡しします。目に見えるのは名前と生年月日のみですが、魔力を通すことで詳しい情報が開示されます。」
「この国で1番目立たない身分は?」
「平民となります。一般的な国民は皆、そう記されるのが基本です。」
「じゃ、それで。名前は……遠野 冬だと響きがこっちの世界とは合わねぇな。なんかテキトーな苗字に変えてくれ。あとは生年月日は……こっちの年数は分からねぇけど生まれた日は12月1日。あとの情報はそっちでいい感じにしてくれりゃいいや。」
「承知致しました。次はお渡しする金額の事なのですが、」
「3ヶ月生きられるってのは具体性がねぇか。そうだな……食費と宿代、あとは雑費として+α欲しい。こっちの物価が分かんねぇからなんとも言えねぇな。」
「ではこちらで計算してご用意いたします。あとはこちらを発たれるお日にちですが……」
「アンタらも早い方がいいんだろ?最短でいつだ?」
「準備は明日の昼には終わります。お渡しも準備が整い次第直ぐに行えますが、」
「じゃ、明日それ貰ったら出てくわ。」
冬は伸びをしながら答えた。
「承知しました。ではこちらにサインを……」
出された書類をみて、違和感に気付く。
……正確には違和感が無いことに。
ここに書かれた文字は明らかに日本語ではない。
書類に目を通しスラスラとサインした文字ですら、こちらの世界の文字だった。
そういえば召喚された時に聞こえていた言語にすっかり馴染んでいる。それだけでなく、自分の発する言葉すら、この世界の言葉になっている。
……意識していなかったが、恐らく魔力が身体に通った時からの変化。
魔力を手にした時より、もはや自分はこの世界の一部となったわけだ。
向こうに未練など1ミリもないが、呆気なく失われていく生まれた世界での事を思い、冬は少しだけ笑った。
「ん。これでいいか。名前は元のものだけど。」
「えぇ。殆ど形だけの書類です。ご心配なく。」
では、明日の昼またお伺い致します。
と足早に去っていく祭司の後ろ姿に、冬はあ。と声をかける。
「あとこの服もらっていいか?元の服装だと目立ちそうだから。」
「もちろんでございます。お着替えも何着かお渡しさせて頂きます。」
と、祭司は去っていった。
……随分親切なもんだ。余程後腐れなく出てってほしいようだな。
しっかり脅した甲斐があったわ。
冬はふふん、と鼻で笑って、また窓際のソファに腰を下ろした。
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