どちらの世界にしろ変わらないが、こっちの方が性に合ってる気もする

隠ノ茸

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薄暗い湿原をしばらく進む。
 巨大な羽虫やヒルのような魔物を横目に、辺りを見回す。

 すると遠くからギィー、という何かの悲鳴のようなものが聴こえた。

 警戒しながら悲鳴の方向へ進んでいく。
 大きな木の影に隠れ様子を窺えば、他の生き物よりはるかに大きな影。

 湿原の中でも一際大きな木に囲まれたその場所には、辺り一面血の匂いが漂っていた。
 その中心、兎のような魔物の亡骸に頭を突っ込む大きな体。

 蛇のようなそのしっぽは、湿原に鈍く煌めいた。
 冬の気配を感じてか、頭を上げたその姿はバジリスクで間違いない。

 キョロキョロと辺りを見回して警戒し始めるバジリスク。
 冬は口元に己の影を這わせ、マスクをつくる。

 ……これがどの程度あの毒を防げるかは分かんねぇな。

 先手必勝と言わんばかりにその首目掛けて刃を振るう。

 バジリスクはその太い足で地面を蹴りあげ飛び上がった。

 昨日のウェアウルフに比べればはるかに小さい。
 が、その分俊敏性は上だ。

 兎のような魔物の死体を見れば、その半分程の肉が熔けている。その周りの植物も枯れ、煙を上げていた。

 これは唾液に触れるだけでも厄介そうだ。

 シャー、と威嚇の声をあげ、バジリスクがこちらへ走り出す。
 嘴から牙が生えるその様は異様だ。

 冬は距離を取りながら氷の矢を投げる。
 そのうちの1本がバジリスクの喉元をかすり、血が飛び散った。

 パタタ、とはねた血が冬に掛かる。
 瞬間火傷のような痛み。

 なるほど、血液に触れるのもアウトか……。

 じわじわと溶ける皮膚を見て、冬はそれでもニヤリと笑う。

 もう一度氷の矢を飛ばせば、先程よりも容易く避けられた。

 ……鳥のくせに知能高ぇな。

 更に追加で大きな刃を飛ばす。
 見切ったとばかりに避けられる寸前、目の前でそれを爆発させる。

 飛び散った鋭い氷の欠片は、バジリスクの目を貫いた。
 衝撃に暴れるその首に、日本刀のように長い漆黒の刃を振り落とす。

 ガリ、と刃が骨にあたる感覚とともに、バジリスクはその場に倒れ込んだ。

 ピクピクと痙攣し、虫の息のそれにもう一度刃を落とそうとした瞬間、最後の力を振り絞ってバジリスクが飛び掛る。

「っやべ。」

 すんでのところで躱してその首を撥ねる。
 今度こそ動かなくなったそれを見て、冬ははぁ、と息をついた。

 腕を見れば深くはないが10センチ程の傷。
 毒のせいか熱をもったそれは、じわじわと周りの皮膚を溶かした。

「はは、毒ってすげぇ。」

 光魔法を手のひらに纏わせ、傷を抑える。
 ジクジクと皮膚の溶ける痛みは和らいだ。

 ……唾液による表面の毒は浄化できてんな。あとは内部に入り込んだ物にどれだけの効果があるか……

 ともかく討伐は終わった。と冬は依頼者に連絡をする。

 依頼者は待たせておいた馬車まで来るようだ。
 影に亡骸を呑み込ませ、その場を後にする。

 馬車まで戻り、そこで待っていた依頼者に亡骸を引き渡す。

 報酬金を受け取って帰路に着く。

「……今の所何ともねぇな。」

 冬は胸に手を当て呟いた。
 動悸や呼吸に異変は見られない。
 ……傷が浅かった事が幸いしたか?それとも浄化魔法の威力か。

 今日は距離をとった戦法だったので殆ど汚れなかった。多少血の飛んだ服が焦げ付いていたが、光魔法により一瞬で元に戻った。

 ギルドへ戻り終了の手続きをする。

 酒場に掛かった時計を見れば16時前を指している。
 昼に比べて人の増えた1階を抜けて3階へ上がる。

 ドアをあければ昨夜ぶりの男の姿があった。

「もう終わったのか?」

「あぁ。目当てのバジリスク討伐ができた。」

「バジリスクなんて厄介な相手、そうそう好む奴はいねぇ。……まさか噛まれてねぇよな?」

「ちょっと掠った。浄化魔法かけてっから問題ねぇとは思う。実際それを試しに行ったとこもあるから。」

「お前な……もしそれが効かなかったら死んでんだぞ。」

「まぁ、そうな。」

「そうな。じゃねえよ。」

 傷見せろ。と少し怒ったように立ち上がるネテロス。
 グイ、と腕を引っ張られ、冬は少し眉を寄せた。

「……まあ確かに傷は塞がってる。唾液による腐敗も見えねぇな。だが今日は大人しくしてろ。」

「ん。じゃあ買い出しは今度頼むわ。」

 冬は部屋を出ようとしたが、掴まれたままの腕に阻まれる。

「?離してくんね?帰って寝る。」

「付いてく。なんかあったらお前、薬の名前も使い方も知らねぇだろ。」

「まあそうだけど……」

「いいから行くぞ。」

 未だに怒ったような顔のネテロス。
 冬は訳が分からないと言ったように、半ば引きずられるようにしてギルドを後にした。
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