31 / 40
31
薄暗い湿原をしばらく進む。
巨大な羽虫やヒルのような魔物を横目に、辺りを見回す。
すると遠くからギィー、という何かの悲鳴のようなものが聴こえた。
警戒しながら悲鳴の方向へ進んでいく。
大きな木の影に隠れ様子を窺えば、他の生き物よりはるかに大きな影。
湿原の中でも一際大きな木に囲まれたその場所には、辺り一面血の匂いが漂っていた。
その中心、兎のような魔物の亡骸に頭を突っ込む大きな体。
蛇のようなそのしっぽは、湿原に鈍く煌めいた。
冬の気配を感じてか、頭を上げたその姿はバジリスクで間違いない。
キョロキョロと辺りを見回して警戒し始めるバジリスク。
冬は口元に己の影を這わせ、マスクをつくる。
……これがどの程度あの毒を防げるかは分かんねぇな。
先手必勝と言わんばかりにその首目掛けて刃を振るう。
バジリスクはその太い足で地面を蹴りあげ飛び上がった。
昨日のウェアウルフに比べればはるかに小さい。
が、その分俊敏性は上だ。
兎のような魔物の死体を見れば、その半分程の肉が熔けている。その周りの植物も枯れ、煙を上げていた。
これは唾液に触れるだけでも厄介そうだ。
シャー、と威嚇の声をあげ、バジリスクがこちらへ走り出す。
嘴から牙が生えるその様は異様だ。
冬は距離を取りながら氷の矢を投げる。
そのうちの1本がバジリスクの喉元をかすり、血が飛び散った。
パタタ、とはねた血が冬に掛かる。
瞬間火傷のような痛み。
なるほど、血液に触れるのもアウトか……。
じわじわと溶ける皮膚を見て、冬はそれでもニヤリと笑う。
もう一度氷の矢を飛ばせば、先程よりも容易く避けられた。
……鳥のくせに知能高ぇな。
更に追加で大きな刃を飛ばす。
見切ったとばかりに避けられる寸前、目の前でそれを爆発させる。
飛び散った鋭い氷の欠片は、バジリスクの目を貫いた。
衝撃に暴れるその首に、日本刀のように長い漆黒の刃を振り落とす。
ガリ、と刃が骨にあたる感覚とともに、バジリスクはその場に倒れ込んだ。
ピクピクと痙攣し、虫の息のそれにもう一度刃を落とそうとした瞬間、最後の力を振り絞ってバジリスクが飛び掛る。
「っやべ。」
すんでのところで躱してその首を撥ねる。
今度こそ動かなくなったそれを見て、冬ははぁ、と息をついた。
腕を見れば深くはないが10センチ程の傷。
毒のせいか熱をもったそれは、じわじわと周りの皮膚を溶かした。
「はは、毒ってすげぇ。」
光魔法を手のひらに纏わせ、傷を抑える。
ジクジクと皮膚の溶ける痛みは和らいだ。
……唾液による表面の毒は浄化できてんな。あとは内部に入り込んだ物にどれだけの効果があるか……
ともかく討伐は終わった。と冬は依頼者に連絡をする。
依頼者は待たせておいた馬車まで来るようだ。
影に亡骸を呑み込ませ、その場を後にする。
馬車まで戻り、そこで待っていた依頼者に亡骸を引き渡す。
報酬金を受け取って帰路に着く。
「……今の所何ともねぇな。」
冬は胸に手を当て呟いた。
動悸や呼吸に異変は見られない。
……傷が浅かった事が幸いしたか?それとも浄化魔法の威力か。
今日は距離をとった戦法だったので殆ど汚れなかった。多少血の飛んだ服が焦げ付いていたが、光魔法により一瞬で元に戻った。
ギルドへ戻り終了の手続きをする。
酒場に掛かった時計を見れば16時前を指している。
昼に比べて人の増えた1階を抜けて3階へ上がる。
ドアをあければ昨夜ぶりの男の姿があった。
「もう終わったのか?」
「あぁ。目当てのバジリスク討伐ができた。」
「バジリスクなんて厄介な相手、そうそう好む奴はいねぇ。……まさか噛まれてねぇよな?」
「ちょっと掠った。浄化魔法かけてっから問題ねぇとは思う。実際それを試しに行ったとこもあるから。」
「お前な……もしそれが効かなかったら死んでんだぞ。」
「まぁ、そうな。」
「そうな。じゃねえよ。」
傷見せろ。と少し怒ったように立ち上がるネテロス。
グイ、と腕を引っ張られ、冬は少し眉を寄せた。
「……まあ確かに傷は塞がってる。唾液による腐敗も見えねぇな。だが今日は大人しくしてろ。」
「ん。じゃあ買い出しは今度頼むわ。」
冬は部屋を出ようとしたが、掴まれたままの腕に阻まれる。
「?離してくんね?帰って寝る。」
「付いてく。なんかあったらお前、薬の名前も使い方も知らねぇだろ。」
「まあそうだけど……」
「いいから行くぞ。」
未だに怒ったような顔のネテロス。
冬は訳が分からないと言ったように、半ば引きずられるようにしてギルドを後にした。
あなたにおすすめの小説
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
事なかれ主義の回廊
由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。