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腕を掴まれたまま石畳を歩く。
冬は未だ黙ったままのネテロスをチラと盗み見る。
その形の良い眉にシワを寄せ、怒ったように歩いていく。
冬は心底混乱していた。
別に依頼に失敗した訳でもなければ依頼者に粗相をした訳でもない。
確かに薬の買い方すら知らないが、別にこちらが買ってきてと頼んだ訳でもないので面倒なら捨ておけばいいだろう。
そうこうしてる間に宿屋へ着き、半ば強引に部屋に押し込まれた。
「……依頼者から苦情でもあったか?」
「あ?なんだその質問。」
ネテロスは意味がわからないと言ったように眉を寄せるが、
その表情が先程より和らいだのを見て、冬は何故かほっとした。
「いや、怒ってる?ように見えたから。なんかしくったかと思って。」
「はぁ……あのなぁ。」
深い溜息をつかれ、冬はいよいよ分からないと言った顔でネテロスを見つめた。
「まぁ、いい。今の所身体に異変はないんだな?」
「あぁ。何ともねぇ。浄化魔法が効いてんのかな。」
「そうか。今のうちに風呂入れ。その間に薬買ってきてやるから。」
「バジリスクの毒は即効性だろ?ここまで何も無いなら薬なんていらないんじゃないか?」
冬はとりあえずシャワーを浴びる準備のために着替えを引っ張り出しながら問いかける。
「正直バジリスクがどうこうってよりその浄化魔法によって毒の性質がどう変わんのかが分かんねぇのが問題だ。完全に無効化出来んのか弱めるだけか、それとも毒の効き目が遅くなるのか。」
それが分からないから試したんだけど……と、冬は思ったが何となく言わないでおいた。
「分かった。とりあえずシャワー浴びる。」
それを聞けば、なんも分かってねぇな。と呆れたように言いながらネテロスは出て行った。
それを見送り冬はバスルームへ向かう。
血の巡りって毒に関係あるよな……
念の為ぬるめの温度に調節し、ゆっくりと足から順に湯を掛けていく。
いつもの倍程の時間をかけてシャワーを浴び、寝巻きと迷って普段着に着替える。
ネテロスを待つ間、水を飲みながらベッドに腰かける。
「……?」
3口目を飲んだ頃だろうか、舌に違和感を感じ冬は動きをとめた。
……この水こんなに冷たかったか?
もう一度口に含めば、それは口内で痛いほど冷えたように感じる。
「やっばいかも。これ。」
深く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
先のネテロスの言葉が頭をよぎった。
「……毒の性質が変わったって事か?」
ドクドクと動悸が早くなり次第に手足が痺れてゆく。
冬は横になり、浄化魔法を身体全体に巡らせるイメージに集中する。
自分の心音に耳をすませ、血液の流れを追う。
更に深く集中すれば、自分の腕から黒いモヤが流れ出ているビジョンが浮かんだ。
……やっぱ無効化は出来ねぇか。
冷静にそう考えながら、毒の発生源を集中的に浄化していく。
浅い呼吸をしながら浄化に務めていれば、ドアの開く音がした。
「……大丈夫ではなさそうだな。」
冬の様子を見て、部屋に戻ってきたネテロスは不機嫌そうに言った。
「浄化の仕方は分かった……からこのままいけば治りそう。」
「……んな事よりこれ飲め。」
差し出されたのは少し大きめの錠剤と水。
「解毒剤だ。そのまま飲み込めばいい。」
「ん。わかった。」
意識は浄化に集中させたまま、冬はゆっくり起き上がりそれを受け取る。
やっとの事でそれを飲み込み、再びベッドへ横たわった。
「はー。毒って初めて食らったけどさ、すげぇな。」
冬は己の震える手を眺めながら呑気に呟いた。
「本当にお前……普通の人間があの傷負ってたら最低でも2週間は動けねぇんだぞ。自殺行為だ。」
「まじか。本で読んだ感じバジリスクって難易度的には中間あたりだろ?もっと上級の魔物が出てきたら太刀打ち出来なくね?」
「ギルドで言ったの忘れたのか馬鹿。誰も手ぇ出したがらねぇって。」
十分上位クラスだ。と呆れたような声を聞き、冬はそうなのか。と天井を見上げる。
浄化と薬のおかげか、徐々に痺れは無くなってきている。
多少熱っぽくはあるが動けないことは無い。
ということは上位クラスの魔物の毒にも、やり方さえ間違わなければ通用するという事だ。
これが分かっただけでも今日は大儲けだな。と冬は口元に薄く笑みを浮かべた。
そんな様子を見て、ネテロスは再度呆れた声を出す。
「やっぱお前なんも分かってねぇだろ。」
「なにが?バジリスクの危険性と浄化魔法による毒性の変化だろ?今痛感してるとこだよ。」
「はぁ……まあ今日の所はいいわ。時間かけてゆっくり教え込んでやるから。こっち来て3日で死にましたーなんてフレッドに言ってみろ。俺が殺されるわ。」
深くため息を吐いたネテロスに、冬はそれで怒ってたのか。とスッキリした表情で頷いた。
「言っておくがフレッドのためにやってる訳じゃねぇからな。謎が解けたみてぇな顔しやがって。……はぁ。とりあえず今日はもう寝ろ。明日様子見に来るわ。」
ネテロスは疲れた様にそう言うと、冬の頭を乱暴に撫でて出ていった。
大きな手に撫でられる初めての感覚と疑問を残し、冬はそのまま眠りについた。
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