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幕開け
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試験の採点が終わり、その結果が講堂前に張り出されていた。僕の成績はいたって普通で、しいて言うなら魔術論の成績がそこそこよかったくらいだ。ソーンくんは相変わらず優秀で、ほとんどの教科でトップをとっていた。やっぱり生徒会に入るだけあるよなぁ…。
今日は先生の都合で午後の授業がなくなり、時間ができたのであのガゼボがある庭園に来ている。あの日以来この庭園には何回か来ている。別に、リュークさんいないかな~とか思ってるわけじゃなく、大おばあ様に似た女神像があるおかげか落ち着くし、人もほとんど来ないから散歩をしたり読書をしに来たりしている。今日も今日とて、おすすめされた本を持ってきて読もうと思っている。
見慣れた道を通り、見慣れたガゼボにたどり着く。いつものように外から中を覗いてみるけれど、今日も誰もいない…。ま、まぁ忙しいのかもしれないし、そもそも授業を受けているのかもしれない…。授業!そうだよ!シンもリーンもソーンくんもほかの授業があるって言ってたし、その授業を受けているのかも…!魔術系の授業を多くとっているということは、僕と授業がほとんどかぶってないってことだし。たまたま僕の授業が休みになったからって、むこうに授業が入ってたら会えるわけないもん!まぁ、今日はこの本を読むって決めたから読もう!
そう思って本を開こうとした瞬間、あのぞわぞわした感覚が背筋に走った。まさか、この感覚は…!!
「おい、」
やっぱり!この低い声は!!
「リュークさん!」
勢いよく振り向いてしまって、リュークさんと目が合ってしまう。やばい、これじゃ目が合って気絶……
…しない?
おかしい、目を見たら気絶するって思ってたんだけど違うのかな…。でも、気絶しないってことはリュークさんと目を合わせて会話することができるってことだ!
あらためて見てみるとリュークさん、本当にかっこいいなぁ…。髪の毛とか瞳の色とか真っ黒なんだけど、その中にもつやがある感じ?いいなぁ…。ぼくのくすんだ髪色とは大違いだ。
「どうした?」
「い、いえなにも。」見とれてしまってた…。失礼だったかな…。
「そうか…。」
「はい。」
「…。」
「…。」
「体調は?」
「へ…?」
「体調はどうだ?この前倒れたと聞いた。」リュークさん…。やっぱり僕のお兄ちゃんと話を合わせてるんだな…。
「あぁ、それはもう大丈夫です!でも、今度の満月は家にいないといけないんですよね。」
「そうか…。でも今日は新月だから気にせずにいられるな。」
「そう、ですね。あ、そういえば新入生歓迎会の時…。」そこまで言ってメルロス殿下に言われたことを思い出した。
「新入生歓迎会がどうした?」
「あ、えっと新入生歓迎会、リュークさんは参加してたのかなって。」
「参加はしてない。その日はずっと部屋の中にいた。」
「あ、そうなんですね。」
メルロス殿下が僕を運んだのはリュークさんだと言ってからすぐ、慌ててこのことは内緒にしてほしいといわれた。なんでも、そのことを僕が知っているとお兄ちゃんにばれたらまずいことが起きるらしく、詳しくは殿下の顔色が悪すぎて聞けなかった。リュークさんも新入生歓迎会の時は部屋にいたって言ってるし、これは知らないふりをするのが正解なのかもしれない。
「ところでその本は?」
「本?あ、これですか?ここで読もうと思って持ってきたものです。主人公のモデルが大おばあ様らしくて。」
「それ、たしか共鳴を題材にしたものじゃなかったか?」
「そうです!ソーンくんに共鳴について興味あるって言ったらこれをおすすめされて。」
「おすすめ…。あいつが…。そうか。」
「リュークさんも、もしかして共鳴について興味があって読んだんですか?」
「いや、その本の作者に興味があって読んだ。」
「作者に?」
「あぁ、お前が言った通りその本の主人公のモデルはお前のひいおばあさんだが、性格や境遇が詳しく正確に描写されていて、しかもほかの登場人物も実在した人物になぞらえてあるから正直モデルの域を超えていると思う。だから作者はルーナ=シューベルトの家族なんじゃないかと言われている。ただ、この作者ひとつしか作品を出していないということもあって不明な点ばかりなんだ。何か手掛かりがあるかと思って読んだが何も見当たらなかった。」
「なんだか、不思議な話ですね。」
「まぁな。」そう言ってリュークさんはちらと懐中時計を見た。
「まずい。俺はそろそろ戻らないといけない。お前も寮の部屋に戻ったほうがいい。」そう言って僕の頭に手を重ね瞬間移動を使って去ってしまった。シンが見たのはこれだったのか。
寮の部屋に戻ってからほどなくして雨が降ってきた。確かに戻って良かったな…。頭に手を置く。触られたところがほんのり温かい気がした。
今日は先生の都合で午後の授業がなくなり、時間ができたのであのガゼボがある庭園に来ている。あの日以来この庭園には何回か来ている。別に、リュークさんいないかな~とか思ってるわけじゃなく、大おばあ様に似た女神像があるおかげか落ち着くし、人もほとんど来ないから散歩をしたり読書をしに来たりしている。今日も今日とて、おすすめされた本を持ってきて読もうと思っている。
見慣れた道を通り、見慣れたガゼボにたどり着く。いつものように外から中を覗いてみるけれど、今日も誰もいない…。ま、まぁ忙しいのかもしれないし、そもそも授業を受けているのかもしれない…。授業!そうだよ!シンもリーンもソーンくんもほかの授業があるって言ってたし、その授業を受けているのかも…!魔術系の授業を多くとっているということは、僕と授業がほとんどかぶってないってことだし。たまたま僕の授業が休みになったからって、むこうに授業が入ってたら会えるわけないもん!まぁ、今日はこの本を読むって決めたから読もう!
そう思って本を開こうとした瞬間、あのぞわぞわした感覚が背筋に走った。まさか、この感覚は…!!
「おい、」
やっぱり!この低い声は!!
「リュークさん!」
勢いよく振り向いてしまって、リュークさんと目が合ってしまう。やばい、これじゃ目が合って気絶……
…しない?
おかしい、目を見たら気絶するって思ってたんだけど違うのかな…。でも、気絶しないってことはリュークさんと目を合わせて会話することができるってことだ!
あらためて見てみるとリュークさん、本当にかっこいいなぁ…。髪の毛とか瞳の色とか真っ黒なんだけど、その中にもつやがある感じ?いいなぁ…。ぼくのくすんだ髪色とは大違いだ。
「どうした?」
「い、いえなにも。」見とれてしまってた…。失礼だったかな…。
「そうか…。」
「はい。」
「…。」
「…。」
「体調は?」
「へ…?」
「体調はどうだ?この前倒れたと聞いた。」リュークさん…。やっぱり僕のお兄ちゃんと話を合わせてるんだな…。
「あぁ、それはもう大丈夫です!でも、今度の満月は家にいないといけないんですよね。」
「そうか…。でも今日は新月だから気にせずにいられるな。」
「そう、ですね。あ、そういえば新入生歓迎会の時…。」そこまで言ってメルロス殿下に言われたことを思い出した。
「新入生歓迎会がどうした?」
「あ、えっと新入生歓迎会、リュークさんは参加してたのかなって。」
「参加はしてない。その日はずっと部屋の中にいた。」
「あ、そうなんですね。」
メルロス殿下が僕を運んだのはリュークさんだと言ってからすぐ、慌ててこのことは内緒にしてほしいといわれた。なんでも、そのことを僕が知っているとお兄ちゃんにばれたらまずいことが起きるらしく、詳しくは殿下の顔色が悪すぎて聞けなかった。リュークさんも新入生歓迎会の時は部屋にいたって言ってるし、これは知らないふりをするのが正解なのかもしれない。
「ところでその本は?」
「本?あ、これですか?ここで読もうと思って持ってきたものです。主人公のモデルが大おばあ様らしくて。」
「それ、たしか共鳴を題材にしたものじゃなかったか?」
「そうです!ソーンくんに共鳴について興味あるって言ったらこれをおすすめされて。」
「おすすめ…。あいつが…。そうか。」
「リュークさんも、もしかして共鳴について興味があって読んだんですか?」
「いや、その本の作者に興味があって読んだ。」
「作者に?」
「あぁ、お前が言った通りその本の主人公のモデルはお前のひいおばあさんだが、性格や境遇が詳しく正確に描写されていて、しかもほかの登場人物も実在した人物になぞらえてあるから正直モデルの域を超えていると思う。だから作者はルーナ=シューベルトの家族なんじゃないかと言われている。ただ、この作者ひとつしか作品を出していないということもあって不明な点ばかりなんだ。何か手掛かりがあるかと思って読んだが何も見当たらなかった。」
「なんだか、不思議な話ですね。」
「まぁな。」そう言ってリュークさんはちらと懐中時計を見た。
「まずい。俺はそろそろ戻らないといけない。お前も寮の部屋に戻ったほうがいい。」そう言って僕の頭に手を重ね瞬間移動を使って去ってしまった。シンが見たのはこれだったのか。
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