14 / 70
雑貨商石づきなめこ
しおりを挟む「行っておいで」
朝はやく、エプロン姿で台所にたつ高校生に、亭主はそういって、笑みを浮かべた。前置きがなくても螢介には通じた。「どこに?」「行けばわかるよ」答えになっていないが、螢介はフライパンで焼いたソーセージをかじった。なんとなく、学ラン姿で家をでる。生地がしっかりして戦闘服向きだし、身分証明になると思った。……雑貨商に行くだけで臨戦モードって、笑えるな。
亭主はすでに出かけているため、戸締まりをして玄関の鍵は胸ポケットにさしこんだ。軒下に飯茶碗がある。ネコはどこかに姿を消していて、彼女の朝食は台所の机に用意しておいた。雑木林の方角から、風が吹いてくる。
「さてと、それじゃ行くか!」
雨はやんでいたが、玄関まえに水たまりができあがっていた。避けながら歩き、足の動くほうへ向かった。勝手に動くわけではない。螢介は、目的地を知っていた。雑貨商は、石づきなめこという屋号である。初めて[さくや亭]をたずねたとき、とちゅうに商家っぽい建物があった。半壊というか、朽ちかけているように見えたが、あきない中の看板がでていたので、目にとまった。通りすぎたとき、そこが雑貨商だとは思わなかったが、ネコの情報によると、雑木林の手まえに位置するらしいので、そこでまちがいないだろう。
「まちがいない……よな?」
徒歩数分ほどで到着した雑貨商は、老朽化がひどかった。屋根瓦はひび割れ、石づきなめこと毛筆で書かれた看板は、斜めにかたむいている。長雨のせいで建物全体は湿っぽく、商家の戸板も黴くさい。
……台風や地震がきたら、
倒壊しそうなんだけど。
こんな見た目で、
繁盛してるわけないよな。
入口の扉に、あきない中の札がさがっている。螢介は「おじゃまします」と声をかけてから、なかへはいった。石づきなめこの主人は、思っていたより若い男だった。髪には寝グセがあり、商人らしからぬ洗濯灼けしたシャツにカーゴパンツを着ている。威圧感をあたえない風貌ではあるが、なんというか、不衛生な印象をうけた螢介は、「あなたが、ここの主人ですか?」と、やや失礼な口をきいた。……このにおい、墨?
湿った空気のなかに、墨汁のようなにおいが漂っていた。商品棚を横目で見ると、油絵具や筆記帳、硯や洋墨びんなどがならんでいる。店舗の規模は小さく、奥の間とは暖簾で仕切られていた。主人らしき若い男は、たばこをくわえ、発火石で火を点けようとした手をとめ、螢介を見すえた。
「炎估がなんの用だ」
と、ごく短いことばで牽制する。正体を見破られた螢介は、一瞬、ギクッと背中に寒気がはしった。……いや、べつに正体もなにも、おれ的には、なにも隠したつもりはねぇけど。
「あいかわらず辛気くさい顔をしているな、巽の風估よ」
またしても、いきなりである。螢介の口をあやつり、炎估が勝手に主人と会話におよぶ。しかも、互いに旧知の仲にあって、親しみを感じないやりとりを展開する。
「きさま、死にたいのか」と風估、
「やってみろ。うけてたつ」と炎估。
……おい、こら、本体をさしおいて物騒な火花を散らせるな! ……ってか、石づきなめこの主人は、十翼だったのか。ふうこ? 風? やっぱり、超常的な存在ってことだよな。……こいつもおれのウロコ、ほしかったりするのかな。
〘つづく〙
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる