15 / 70
あたらずといえども
しおりを挟む「どあほう」と炎估、
「鈍くさい」と風估が、
おれに向かって云った。……おれに向かって云った。……おれに、向かって云った? ん? なんで、ふたりからにらまれてるンだ? おれ、なにかしたか? ……あれっ、おれのまえに、ふたりいる!?
初めて、まともに姿をあらわした炎估は、黒紋つきの着物をパリッと着こなし、散髪したばかりのような短い赤髪である。……おれより背は高い。
「お、おまえが、炎估なのか?」
突然、その実体を見せつけられた螢介は、思わず後ずさりした。そうとう男前だ。こんなやつに躰をあやつられていたのかと、おどろいて硬直していると、「まったく、鈍くさいのう」と、風估の語尾が老人の方言っぽく変わった。
「こやつのタマシイは、日照ではないか?」
「耄碌じじい。どこを見ている。こいつは暗闇だ」
……にっしょう? くらやみ?
なんのことだ。……というか、
風估は、じいさんなのか?
二十代前半くらいに見える。
「わしは、人間に寄宿する憑きものではないぞ。そこの若造みたく、もぬけの担保も要らん」
炎估を指さして云う。……えっと、風估のほうが、年長ってことか? 見た目がともなわねぇから、信憑性は低いが、ことばづかいはたしかに年配っぽい。……もぬけ? だれのことだ? おれ……なのか?
学ランのうえからあちこちをさぐる螢介は、じぶんの思いどおりに動く手足にホッとした。……だれが、もぬけの殻だ。おれの心臓は、ちゃんとここにあるぜ。胸を軽く押さえ、心拍数をたしかめる。やや不整脈だが、きちんと鼓動していた。
「暗闇が、おぬしを今生にとどめておるのだ。あやつにタマシイを囚われているうちは、腐ったからだでも役にたつこともある。せいぜい、炎估に使わせてやるがええ。そやつは、火遊びが趣味だからのう」
「……暗闇って、おれの知っている人間ですか」
螢介は、たずねては不可ない気がした。だが、聞かずにはいられなかった。暗闇とは名前だ。それがだれの苗字なのか、わかっていた。……黒傘の男……、暗闇咲夜、それが亭主の名前だった。
「石づきなめこへようこそ、久遠のタマシイを保つものよ。わしは石突滑个と申す。天蔵《あまくら》の小僧よ、おぬしの裏庭にあるウロコじゃが、一枚足りぬようだのう。……さては黒猫のしわざか」
「ネコを知ってるんですか?」
……看板の石づきなめこって、本人の名前だったのか。風変わりな名前だな。それに、あっさりウロコの在処を指摘された。ネコは、朝から姿を隠している。雑貨商にきているのかと辺りを見まわす螢介に、主人がつけ足す。
「われは風の估しものぞ。黒猫の便りをお希みか」
風估は十翼だと名乗り、ふたたびたばこをくわえた。脇から炎估が手をかざし、フッと、火が点く。白い烟が立ちのぼる。ふたりの十翼をまえに、螢介は膝がふるえそうになった。……ウロコはあと二枚しかない。死守するべきなのか、奪われたらどうなるのか、なにもわからねぇ。ネコの居場所は知りたいが、対価を要求されては困る。螢介には、さしだせるものがない。
……くそ、おい、炎估。
おれの心の声が聞こえたら
返事をしてくれ。
「どあほう。気持ち悪い真似をするな。目のまえにいるのだから、口を動かせよ」
風估について、こっそり質問したかった螢介は、空気を読まない炎估の態度のせいで、にわかに頭が痛くなった。
〘つづく〙
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる