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あたらずといえども
しおりを挟む十翼とは、超常的な存在であり、いわば、思念体のようなものである。肉体は属する自然と融合した姿であり、時代によって変化を遂げたりもする。
……だから、そんなチグハグなのか。
雑貨商石づきなめこの主人は、十翼のひとり風估であり、螢介のからだをあやつる炎估も、同族だった。……そして、たぶんネコも。
「咲夜さんは、人間なんですか?」と、おれ。
「あいつは暗闇に生きるただの陰だ。もし、日照と鉢あわせたら、まちがいなく消されるぜ」と、炎估。
「それはほかの連中とて同じことじゃわい。このなりわいは、気まぐれで成り立っているからのう。ほれ、天蔵よ。護身用に持っていくがええぞ」
風估は、商品棚の文鎮をさしだして云う。習字や書類の束が風で飛ばないように重しとしてのせる文房具である。素材はさまざまで、螢介がうけとった文鎮は、ごく一般的な細長い形状をした金属製だった。
……護身用って、
こんなのふりまわしたら
おれのほうが加害者だぜ。
「どあほう。そいつは呪具だ。人間には無効だ」と炎估。
「そうなのか? なら、もらっときます。……これって、十翼相手にも効くのか?」
ヒュッと、文鎮のさきを炎估に向けると、あからさまに深い溜息を吐かれた。「やってみるがいい」と、たばこを喫みながら風估がひやかす。……オーケー。おれが悪かった。こんなもの、十翼にとってはおもちゃなんだろうな。くそ、ばかにしやがって。まあ、うそをつかれるよりはマシか……。
「えっと、風估さん? おれ、いくつか聞きたいことがあって……」
「わしのことは滑个と呼べ」
「……え?」
「もしくは、主人と呼ぶがええ」
なめこの主人は十翼という立場を気にいっておらず、螢介にはからだの名前で呼ばせた。風估の実体は、炎估すら見たことがないという。なめこの主人とその息子は他界しており、雑貨商もいちど朽ちていたが、風估がもぬけとなった息子のほうのからだに寄宿して、さくや亭の領域に身をおくようになった。
「この雑木林に迷いこんだものは、二度と出られぬよ。なぜなら、最初から人間ではないからのう。現世にとどまることができるのは、タマシイをつかまれているやつだけなのじゃ。……天蔵の小僧よ、肝に銘じておくがええ」
なんとなく考えないようにしていた螢介だが、風估に死人という扱いをされた。……おれは、亭主のおかげで助かったンじゃない。……ただ、タマシイが消滅しないよう、咲夜さんがつかまえているだけなんだ。……炎估は、おれがもぬけになるのを待っているのか? なめこの主人のように、宿るからだが狙いなのだろうか。
その日、螢介の気分はいつまでも晴れなかった。
〘つづく〙
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