あやし聞書さくや亭《十翼と久遠のタマシイ》

み馬下諒

文字の大きさ
16 / 70

あたらずといえども

しおりを挟む

 十翼とは、超常的な存在であり、いわば、思念体のようなものである。肉体は属する自然と融合した姿であり、時代によって変化を遂げたりもする。


 ……だから、そんなチグハグ、、、、なのか。


 雑貨商石づきなめこの主人は、十翼のひとり風估ふうこであり、螢介けいすけのからだをあやつる炎估えんこも、同族うからだった。……そして、たぶんネコも。


咲夜さくやさんは、人間なんですか?」と、おれ。

「あいつは暗闇くらやみに生きるただの陰だ。もし、日照にっしょうと鉢あわせたら、まちがいなく消されるぜ」と、炎估。

「それはほかの連中とて同じことじゃわい。このなりわい、、、、は、気まぐれで成り立っているからのう。ほれ、天蔵あまくらよ。護身用に持っていくがええぞ」

 風估は、商品棚の文鎮をさしだして云う。習字や書類の束が風で飛ばないように重しとしてのせる文房具である。素材はさまざまで、螢介がうけとった文鎮は、ごく一般的な細長い形状をした金属製だった。


 ……護身用って、
 こんなのふりまわしたら
 おれのほうが加害者だぜ。


「どあほう。そいつは呪具じゅぐだ。人間には無効だ」と炎估。

「そうなのか? なら、もらっときます。……これって、十翼相手にも効くのか?」

 ヒュッと、文鎮のさきを炎估に向けると、あからさまに深い溜息ためいきかれた。「やってみるがいい」と、たばこを喫みながら風估がひやかす。……オーケー。おれが悪かった。こんなもの、十翼にとってはおもちゃなんだろうな。くそ、ばかにしやがって。まあ、うそをつかれるよりはマシか……。


「えっと、風估さん? おれ、いくつか聞きたいことがあって……」

「わしのことは滑个なめこと呼べ」

「……え?」

「もしくは、主人と呼ぶがええ」

 なめこの主人は十翼という立場を気にいっておらず、螢介にはからだ、、、の名前で呼ばせた。風估の実体は、炎估すら見たことがないという。なめこの主人とその息子は他界しており、雑貨商もいちど朽ちていたが、風估がもぬけ、、、となった息子のほうのからだに寄宿して、さくや亭の領域に身をおくようになった。

「この雑木林に迷いこんだものは、二度と出られぬよ。なぜなら、最初ハナから人間ひとではないからのう。現世ここにとどまることができるのは、タマシイをつかまれているやつだけなのじゃ。……天蔵の小僧よ、肝に銘じておくがええ」

 なんとなく考えないようにしていた螢介だが、風估に死人という扱いをされた。……おれは、亭主のおかげで助かったンじゃない。……ただ、タマシイが消滅しないよう、咲夜さんがつかまえているだけなんだ。……炎估は、おれがもぬけ、、、になるのを待っているのか? なめこの主人のように、宿るからだが狙いなのだろうか。

 
 その日、螢介の気分はいつまでも晴れなかった。


〘つづく〙
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...