19 / 70
詰め腹を切らされる
しおりを挟む亡人を追いはらって居間へもどると、第二の危機に直面した。
『せきにんをとるのだー!!』
いきなり飛びついてきたネコを、正面からうけとめた螢介は、ゴンッと、廊下に頭を打ちつけた。かなりの激痛が走り、一瞬、タマシイはあの世へ旅にでた。が、すぐにもどってきた。むにゅっとした感触がある。……なんだ? この、やわらかさは。
少しだけ頭を浮かせてみると、胴体にまたがっているネコが、おとなの女性に成長していた。しかも、胸が大きい。子ども服のまえが破けそうなほど、しっかりもりあがっていた。長い黒髪の女性は、褐色の肌をしている。手も足も細くて長い。異国のモデルのような風貌である。
「お、おまえ、ほんとうにネコか!?」
『あたしは、あたしだー!! こんなすがたにしおって、けいすけのばかものがぁ!! からだがおおきくては、うごきにくいではないかぁ!!』
なんのことだかさっぱりにつき、螢介は炎估に助けを求めた。土壁に背中を預けて腕組みをしている。
「ネコの云うとおり、責任をとってやればいい」
「責任って、なんのだよ」
「嫁にするとか、子守歌を唄うとか」
「よ、嫁? 子守歌? なに云ってんだ。頭おかしいぞ!」
炎估の発言がまともではないため、螢介はネコの肩をつかんでからだの距離を保つと、学ランを脱いで羽織らせて、目のやり場に困る胸もとを隠した。……すげぇ巨乳。Gカップってやつか? こんなにでかいと、いやらしいというより、迫力がやばいぜ。
気持ちをおちつかせてネコを見すえると、黄金の猫眼が、至近距離へ迫ってきた。
『よいか、けいすけ。あたしを、こんなすがたにしたせきにんはおもいぞ。いますぐ、もとにもどせとはいわない。だが、かならずせきにんはとってもらうからな!』
シャーッと、牙を見せて云いはなつと、四つん這いの前傾姿勢で、タタッと廊下を駆けていく。
「ネコ! どこへ行くんだ」
「雑貨商だろう。あの体形になっちまったのだから、あたらしい服が必要だ」
炎估いわく、ネコは石づきなめこに向かったらしい。外は雨がふっている。ネコは、傘をさしていくべきだ。あわてて追いかけたが、廊下のとちゅうには学ランが落ちており、玄関の硝子戸は数センチほどあいていた。
「……ネコ」
ふりしきる雨を見つめ、螢介は後頭部にできた瘤を指でなでた。ズキンと痛む。なぜ、ネコが成長を遂げたのか。思いつく理由は、ひとつしかない。螢介のウロコをもっているからだ。使い方がわらかないのか、からだが成長するとは予想外だったのか、手にいれたネコ自身が、いちばんおどろいているようすだった。
「責任をとれって云われてもな」
まさか、人外を嫁になどできない。いくら人間の女性に見えても、ネコの本体は動物の猫である。あほうの螢介でも、そこまで血迷ったりはしない。だが、豊満な肉体をもったネコは、独特な色気があった。……よせ。なにを考えてんだ、おれは。あの子はネコだ。さくや亭の飼い猫だぞ。
いろいろありすぎて疲れたが、螢介は昼ごはんを軽くすませると、亭主の室を掃除した。なにか発見がないか期待したが、めずらしいものは見あたらない。……そういえば、学ランのズボンは、どこにいった?
炎估もネコも姿を消しているため、屋敷を歩きまわって探した。ズボンは、居間の押入れで発見した。その場所は、ネコが寝床として占拠している。……おれのズボンを脱がせたのは、ネコなのか?
枕にでも使いたかったのか、どうにも複雑な心境になった螢介は、結局、ズボンは押入れのなかにもどしておいた。
「遅いな……」
夕刻になっても、亭主はおろか、だれも帰ってこない。縁側に佇む螢介は、雨のふる中庭を見つめた。
〘つづく〙
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる