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003 アイコンは砂時計

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『誰だよあんた。てか、今なんつった?』

 ……初対面で上から目線のタメぐちとは、日本語の響きが美しくないな。ちなみに俺は、流行語は苦手だ。ゲーム内での俺は、リージョンマスターとして登場するわけではない。最初はナビゲーションシステムの発動っぽく話しかけ、それとなくプレイヤーと交流する。会話時に画面表示されるアイコンは、俺の部屋にある砂時計だ。海へ行ったとき、なんとなく気に入って買った。ちなみに、砂時計を発明した国はさだかではないらしい。砂時計の詳細しょうさいは、謎めいているようだ。

『この先はきりの迷宮だ。どくを引き起こす敵に不意打ちをらうと危険だぞ』

 ヒントに近い情報を提供し、プレイヤーにイベントが発生したことを気づかせる。リージョンごとに用意されているイベント数は異なるが、俺の担当は[伝説の剣]をさずけること。プレイヤーが受け取れば、勇者イベント開始スタートである。現実の俺が操作しなければ、ボーナスリージョンへ移動することはできない。


  →ゲームをつづける
  →セーブして終了する
  →ヒントを開示する


 さて、お決まりの選択肢コマンドだ。俺の質問に答えなくても、時間経過で勝手に表示されるからな。ここでの正しいチョイスは、まず、ヒントを開示し、念のためセーブをしておいてから、ゲームをつづける、だ。さあ、どうする。俺の準備はできているぞ。……期待は、していないがな。

 当初の注意喚起など忘れ去ったプレイヤーは意外と多い。ヒントを頼らず、先へ進んでしまう。

  →ゲームをつづける(ピッ)

『そうか。迷宮へ行くのか。その前に、人助ひとだすけをしてみないか? 近くの村がピンチらしい。レアな武器が手に入るチャンスかも』

 ……こいつもヒントを見ずにフラグを立ててちまった。次の選択肢はどっちを選んでも不正解インコレクトだ。バッドエンドにつながる。せっかくそこまでレベルをあげたのに、結局、失敗ルートだぞ。もしや、これが勇者イベントだと理解してなかったのか?

  →村に行く
  →行かない
  →いくらもらえる?

 お、第三のフリーコマンドを持っているのか。行くか行かないかの二択にたくしか表示されないところだが、シークレットルームが出現したようだな。……しっかし、まさかの金銭要求かよ。いくらフリーワードが入力可能とはいえ、なんというか、人間性が問われるな。ゲームの世界とはいえ、少しは思いやりを大事にしてくれ。

報酬ほうしゅうを希望かい? 残念ながら、これは○○○(プレイヤーが設定した名前)の善意によるものだ。このイベントでゴールドコインを稼ぐことはできないぞ』

 だから、ほのめかしているだろう。伝説の剣がタダ同然でもらえると。こりゃ、イベントに関心がなさそうだな。しかたない。さっさと制限時間を表示させて、プレイヤーには退場してもらおう。バッドエンドをむかえたら、またやりなおしてくれ。せいぜい、がんばれよ。

 
「……これで何人目だ? いっそ、俺がリージョンマスターだと名乗ったほうがよくないか」


 イベント開始のスイッチさえ押してしまえば、あとはプレイヤーが好き勝手に攻略を始める。俺から伝説の剣を受け取らなかった時点でバッドエンド確定だが、それと気づくまでゲームは楽しめるから放っておく。ただし、最終的にはゲームオーバー。

「総プレイ時間は三桁さんけたか。よくもこんなに時間をついやせるものだな」

 かくいう俺も、若い頃はゲームがしたくて徹夜てつやした経験ありだ。


✓つづく

※ゲーム内の会話は『二重かぎ括弧』で表記しています。
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