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028 リージョン移動

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 コントローラーや人差し指で、てきぱきと操作キャラクターを動かすのとは、わけがちがう。戦士の俺は、戦死覚悟でモンスター(エネミー)との接近戦をいられる。

 マジか、こぇっ!!

 ファイヤーマンは強敵クラスではないものの、向かってくると逃げたくなるほど殺気を放っている。戦うしかない場面につき、俺は安全な距離を保ちながら、攻撃のチャンスをうかがう。ノーダメージを意識して、ヒットアンドアウェイ戦術をくり返していると、だいぶ時間を要したが、ファイヤーマンは消滅し、目の前に貴重品の入った宝箱が出現した。

「仲間のきずなって、指輪のことだったのか……」

 ごくシンプルなシルバーリングと説明書を手に取ると、周囲の火柱が俺を中心に円をえがいて消えた。[マグマの遺跡]の大門に戻れば、リージョン移動するしかない。限定イベントをクリアしたプレイヤーは、同じリージョンにとどまることはできない。

 意図して、イベントを起こさずリージョンを散策することは可能で、なにも条件を満たしていなければ、消滅せずに残っている他のリージョンへ飛ぶこともできる。ヒントを見ずにゲームを進めるプレイヤーの多くは、フラグを立てる方法がわからず、いくつかのリージョンを行ったり来たりして、道に迷うのがセオリーである。

 自由度が高すぎると
 逆に行き詰まるんだよな

 無事に[仲間のきずな]を入手した俺は、いつまでもダンジョンに長居しても時間のムダにつき、さっさと次のリージョンへ移動し、宿屋を探すべきだろう。はっきりとした疲労も感じる。

 ……ゲームでは、なんかこう
 電車と船が合体したような
 乗り物で移動していたが、
 俺の場合、どうなるんだ? 

 色々と考えたところで、なにが起きてもふしぎではない現状につき、大門へ引き返すと、巨大なトンネルが出現していた。シュウシュウと音を立て、モクモクと白いけむりあたりに漂っている。まっすぐ進むと、べつのリージョンにつながっていそうな雰囲気だ。奥から、かすかに光が見えるため、行き止まりではなさそうだ。

「いつ、この夢は終わるンだ? 誰でもいいから教えてくれ」

 安達め、リアルで顔を合わせたら抗議してやる。まさか、俺の頭がおかしくなっているだけ……なんてオチは、勘弁かんべんしてくれよな。

 トンネルを抜けると、雰囲気の異なる村に出た。まずは石板の前に立ち、ステータスを確認しておく。[マグマの遺跡]をクリアしたことで、だいぶレベルが上がっていた。次に向かったのは宿屋である。夢のなかで寝るのもどうかと思うが、体力の回復と気力の温存おんぞんは大事だろう。

「腹が減ったな……」

 空腹感さえある。どこかに食堂がないか周囲に視線を泳がせる俺は、ひとりの少年と目が合った。紺色こんいろのローブを身につけていたが、たけが短いため、半ズボンと膝下ひざした生足なまあしやスニーカーが見えている。どこにでもいそうな男の子で、NPCかと思い視線をらしたが、違和感に気づいて顔を横向けた。

「スニーカー?」

 装備できる防具の中に、紐靴ひもぐつはない。初期設定は革製のブーツが基本だ。木靴や具足、ハイヒールや鉄下駄てつげたといった装備品もあるが、見た目が変化するだけである。スニーカーといったゴム底の運動靴が貴重品アイテムとして存在するのか、俺は知らない。

「話しかけてみるか」

 少年は[ホワイトロッド]を両手でにぎりしめ、道具屋の前に佇んでいる。回復魔法が使える武器につき、戦士の俺としては[仲間のきずな]を有効利用し、同行者に誘いたい候補だ。


✓つづく
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