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愛 玩 人 体〔69〕
しおりを挟む昼が近づき、医局の食堂に職員や関係者が集まり出す。昼休憩をするためである。バージルと要人Bは席を立ち、人目につきにくい階段下へ移動して会話を続けた。
「キミに報告しておくべき重要な事柄がある」
要人Bは、バージルをしばらく焦らした後、小賢しい笑みを浮かべた。
「愛玩人体計画は第二段階へ移行した。キミの中間報告書どおり、AZとは別に比較対照を採用することになった。第二研究室と気密容器は製造中だが、新たな試作品の管理者は決定している」
「どなたですか」
「キミも存じている男を推薦しておいた。同等な立場を近くに置くことで、管理能力も向上することだろう。計画を成功へ導くため、互いに切磋琢磨してもらいたい」
「新しい管理者に選ばれたのは、ミフネですね。エイジを抱くよう仕向けたのも、あなたでしょう」
「ああ、その通りだ。ミフネくんは素直で優秀だからね。私の部下にしたいくらいだ。残念ながら、直属の件はフラれてしまったが、管理者を引き受けてもらった。来週末までに、新しい愛玩人体を紹介できるだろう。それにあたり、AZの客を何人かまわしてもらいたい。できれば、異なる嗜好の客をピックアップしておいてくれ。愛玩人体となり得る人材か、早めに判断を下さねばなるまい」
「かしこまりました」
バージルは会釈をして背を向けたが、去り際に要人Bから重大な科白を耳にする。
「ああ、そうだ、博士。AZの運用期間だが、比較対照との過程を調査するため、プラス1年延長となる。実用化するギリギリまで、“2体”には働いてもらうことになるだろう。キミへの報酬も、当初の予定であった1年半以降からは、割り増しが決定している。今後も真面目に取り組みたまえ」
バージルは返事を見送り、研究室へ向かった。時刻的には、愛玩人体の務めが終了しているはずだ。管理者として、事後処理が必要である。
フラストレーション〈frustration〉… 何らかの目標に向かう行動の動機を妨げ、心の状態に悪いストレスを引き起こす。物理的あるいは社会的な障害。(例;甘いものを食べたいが太りたくない。進学したいが学力が不足している…等。)原因が除去されなければ、憂さ晴らしなどの逃避行動や、無活動な状態に陥る。目的に向かう行動がとれない場合、破壊的な思考におよび、無茶なやりかたで達成しようとする危険も含まれる。フラストレーションを除去するためには、ある程度は満足できる目標をたて、間接的な達成を試みるしかない。人間は様々な欠乏に悩まされ、葛藤するように造られている。
研究室の施錠を解除した時、三船はシャワーを浴びていた。エイジは気密容器の底で、気の抜けた表情をして横たわっていたが、医師が近づくとあわてて上体を起こした。
「大丈夫か」
「大丈夫なモンか。躰じゅうが痛い」
「キミにしては上出来だ」
エイジの言動から察するに、三船をきちんと受け入れたようで、内心安堵した。最悪の場合、取り乱して負傷している可能性も考えたが、医師の懸念は無用に終わった。
「診せてみろ」
バージルは靴を脱ぎ、気密容器の中へはいってくる。少年の下半身は性行為の直後につき濡れていた。
「やだよ。近づくな」
「出血していないか、直腸を確認するだけだ」
医師は股をひらけと云う。感情の整理が追いつかない少年は、涙目になってしまうが、バージルの指示に逆らってまで、自尊心を優先するつもりはない。膝を左右へひろげると、医師に太腿の内側を指で撫でられた。
「皮膚が炎症しているが、出血はしなかったみたいだな」
「……手加減しろって、たのんだから」
「エイジ」
「わかってるよ。ショウゴだからって、そんなこと云っちゃダメなんだろ。……でも、あんな巨根見たことねぇし、遠慮なく突かれたら、耐えられなかったと思う。報告書にも、そのとおり書けばいい。愛玩人体だからって、無理なものは無理なんだ……」
エイジは自信なさげに顔を背けたが、バージルは、残酷な現実から逃げずにいる少年を、頭の中で高く評価した。
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