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第二部
花咲く果実⑵
しおりを挟む正殿とは、奥行きのある間取りに玉座や卓台があり、壁沿いには高価な装飾品が並び、貴重な天然石で造られた燭台がいくつも配置された皇帝の執務室兼、普段から身をおく居住空間である。金色の屏風の裏には寝台もあった。
「これは、寵主さま。拝謁いたします」
かつて、アセビの髪を切り落とした剣士は〈オルラン・フォギ〉といって、まだ20代半ばの青年である。リュンヌの身分が昇格したので、きちんと頭をさげて挨拶を述べた。焦げ茶色の髪が、黒衣とよく似合っている。リヤンとクオンは、赤みがかった黒髪をしていた。
「グレンを見なかったか?」
執務室に皇帝の姿はなく、なぜかオルランだけが控えていた。リュンヌの問いに、剣士は外へ視線を泳がせた。
「……また北舍か」
それだけで状況を理解した寵主は、小さく溜め息を吐いた。正殿をあとにして向かった先は、北舍である。食材を保管する米庫や、あまり重要ではない書庫があり、普段から人気は少ない。北舍の見張り兵は退屈そうに佇んでいたが、リュンヌが姿を見せるとキリッとした表情をつくり、深々と頭をさげた。
「グレンはいるか」
「は、はい! 少し前、皇帝陛下と書庫へ入室なさいました」
「そうか、わかった」
アセビは、銀色の髪をなびかせて歩き、書庫の扉へ腕をのばした。室内は静まり返っていたが、リヤンとグレンはすぐに見つかった。
「リュンヌか」
書棚のあいだで読みものをしていたリヤンの脇に、すぅすぅと寝息を立てるグレンが横たわっている。現在、帝位の第一継承者として大事に扱われているグレンは、父親によく懐いていた。紫寝殿を抜けだして皇帝を探しまわる姿は、大王殿の日常となりつつあった。
ひとまず、グレンを発見して安堵したリュンヌは、あとから追いついてきた女官にグレンを寝所へ運ぶよう命じると、リヤンとふたりきりの状況となった。
「太子には、付人が必要のようだな」
「護衛を兼ねて、信用できる者をひとり、付けてくれると助かる。ほんの少し目を離した隙に、どこかへ消えてしまうのだ。毎度のことながら骨が折れ……、んっ!?」
科白の途中で腰を引き寄せられたアセビは、リヤンに唇を塞がれ、熱い接吻を受けた。
「な、なんと無礼な! わたしは寵主だぞ。このような不埒な真似は、側女や恩女にしか赦されぬ」
「笑わせるな。おまえは余の第二夫人である自覚を持て。否、男児を出産したおまえこそ、国母なのだ」
現在の皇后は、〈ルリギク・ジュア〉といって、26歳の麗しい貴人である。リヤンと枕を共にしても懐妊の兆しはなく、体調を崩すことが多くなり、健やかな出産は絶望的と判断された。必然的に皇帝の感情は冷めてゆき、上辺だけの夫婦となっている。いつ離縁を切りだされてもおかしくはないため、ルリギクは部屋に閉じこもって過ごしている。
(……まるで、かつてのわたしのようだ。皇帝の関心を引けるのは、男児を産める女人だけなのか? ……心底、厚かましい男だ)
✓つづく
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