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第三部
栄光の約束⒁
しおりを挟む時系列を、正しく整理する必要があった。ルリギクとクオンの熱い過去、ルリギクとリヤンの冷めた関係、ルリギクと対等な立場に成り上がってしまったアセビは今、皇帝の寵愛を独占していると、周囲から誤解されていた。
(ああ、なんだか、頭がズキズキする。……まったく、これだから皇宮で暮らしたくないのだ。知らなくてよい情報に、感情がふりまわされてしまう。否、知っておきながら胸に秘めておくべき事柄が、多すぎる……)
皇帝と医官が義兄弟である事実を知る者は少ない。アセビは、後悔の念に苛まれるルリギクに、かける言葉を探した。
(クオンは、昔話が好きではないと云っていた。つまり、良くも悪くも過去と決別しているわけで、ルリギクに未練があるような感じではないな。単純に、身体の具合を心配しているのだろう。そもそも、医官だしな。……むぅ、クオンのやつめ、あとでまた叱ってやる! しれっとした顔で、わたしを抱きおって、あのむっつりスケベめ!)
兄弟そろって女を泣かせるとは、許しがたい愚行である。ルリギク同様、悲しみや怒りといった複雑な感情がわいてくるアセビは、フンッと、鼻息が荒くなった。
「ルリギクさま、クオンとの関係を話してくださり、ありがとうございました。あの者は今、わたくしの世話係を担当していますが、妙に女の扱いに手練れているもので、もしや、皇宮に愛人でもいるのかと思い、つい、いちばん美しいルリギクさまを疑ってしまいました」
「……リュンヌ、私とクオンムスカについて、そなたが気に留めることはありません。もう、あの者とは終わっています。これからは、私と共に皇帝陛下を支えてほしい。むろん、私も国母として、グレンハイトを大事に思っている。帝国の跡継ぎらしく、立派な成長を望んでいます。私の手が必要なときは、遠慮なく頼ってくださいね」
「お心づかい、感謝いたします」
「ふふ、リュンヌはなかなか男らしい。惚れてしまいそうです」
「ご冗談を」
ルリギクに、ようやく笑みがこぼれてホッとするアセビは、展示品を見てまわった後、紫寝殿へ引き返した。書物を読んで過ごし、クオンが運んできた夜の食事を済ませると、皇后との会話内容を伝えた。
「そんなことだろうと思った」
クオンは呆れ顔になって云うと、軽く肩をすぼめた。
✓つづく
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