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幕開け
第9話
しおりを挟むこうして、亮介の新たな協力者(見張り役)となったイタチ科のキールは、期待以上の働きをみせた。
庭の囲いは、大熊がひとりで仕上げに取りかかっている。黙々と集中して作業をつづける姿は、あらゆる意味で模範的だ。ミュオンは少し休むといって、木陰にしゃがみこんでいる。亮介はというと、ニッシュの樹皮をバサッと地面にひろげ、あれこれ悩んでいた。
「えっと、これをこう切って……、このあたりを折り返せば、ぎりぎり長さは足りるかなぁ……」
「やいやい、リョースケ。こんなもの、最初はスパッと縦に切っちまえばいいのさ。見てな!」
そばにいて、ぶつぶつ言いながら考えこむ亮介が焦れったく感じたキール(短気)は、「こうしてやらァ!」といって、鋭い爪をふりあげると、ビリリッと、一気に樹皮を切り裂いた。
「オラッ、どうだ!」
と、ムダに気合が入っている。
「す、すごい。ちゃんとまっすぐ切れてる……!」
(一瞬、失敗したらどうするの~ってあせったけど、結果オーライだった……)
キールは「フフンッ」と鼻息をもらし、「で、次はどうするよ」と訊く。
「そ、それじゃあ、こことここを切って、正方形の布を4枚と、長方形の布を2枚、つくってもらえる?」
「それくらい、お安い御用だぜ!」
(おやすいごよう……。キールって、そのうち「てやんでぇ、馬鹿野郎」とか言いだしそうだなぁ。そういうの、なんていったっけ……。いぶし銀……?)
木陰で休むミュオンの位置から、亮介とキールは仲良く、じゃれあっているように見えた。
『……ふふふ、リョウスケくんったら、はしゃぐ姿も天使そのものですねぇ。ニッシュの樹皮は貴重ですが、もっと多めに持ってくればよかったですかねぇ。……ふうっ』
ミュオンは深いため息を吐き、まぶたを閉じた。さわさわと吹く春風が、心地よい季節である。いつのまにか、接近を許した大熊の気配にハッと目を醒ます。
「だいじょうぶか」
『……なんです、いきなり。だいじょうぶに極まっているでしょう。あなたこそ、不用意に近づかないでください。わたしは水の精霊です。半獣属より、ずっと永い時空を越えてきた種族ですよ。たやすくは消滅しません』
「そうは、見えないが……」
ハイロは、髪を短くした理由をたずねたが、ミュオンの返答は得られなかった。精霊は分化した瞬間より、なにも食べずに生命活動が可能で、成長に必要な養分は自己の体内領域で生成することができる。人間とも半獣属とも異なる性質をもっていたが、生殖による種の維持はできず、神秘的であると同時に、脆弱な存在でもあった。精霊の多くは環境に支配されていたが、超自然的な理から解放されたとき、生物の肉体に宿ることもできる……らしい(未確認)。
大熊のハイロは肉食動物の部類だが、ふだんは植物や昆虫、どんぐりなどを食べている。ハイロが携帯食としている干し肉は、斃れていた半獣属の鹿を見つけ、弔いのことばを述べたのち、丁寧に加工したものである。
ハイロは、精霊と直接ことばを交わすのは、ミュオンが初めてだった。
「無茶をするのは勝手だが、リョウスケが心配するぞ」
『そのようなこと、あなたに言われたくありません』
「どういう意味だ」
『さあ、知りません。自分の頭で考えてください』
ミュオンの態度は冷ややかで、まともに会話が成立しない。ハイロは眉をひそめたが、夕方までには囲いを完成させると、余った材木を片付けた。亮介とキールの関係は、短時間でずいぶん打ち解けていた。
★つづく
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