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幕開け
第16話
しおりを挟む「ミュオンさん、ただいま」
「ミュオン、もどったぜ!」
亮介とキールが丸太小屋に帰ると、水の精霊に変化の前兆が見られた。
「ミュオンさん、寝てる……?」
寝室のベッドで仰向いて眠るようにまぶたを閉じるミュオンは、背中の4枚の羽が消えていた。自由に消すことができるのかと思った亮介は、銀色の髪がさらに短くなっている点に気づき、枕もとまで歩み寄った。キールもあとにつづく。
「ミュオンさん、また髪を切ったのかな。きれいなロングヘアーだったのに、もう肩までしかない……」
「食っちまったンじゃねーの」
「え?」
キールは、前にもミュオンが髪を食べた経緯を話すと、亮介は、ひどく驚いた。
「そんな無理をしてまで、ニッシュの樹皮を手に入れてくれたんだ……」
「リョースケのよろこぶ顔が見たかったンだろうけど、ぶっ倒れたら意味ねーよな」
「……僕のために」
そのとき、亮介はズキッと頭の芯が痛んだ。なにかぼんやりとした光景が浮かんできたが、ミュオンが目を覚まし、意識は現実へと引きもどされた。
『リョウスケくん……』
いつになく弱々しい声で名前を呼ばれ、亮介は不安になった。
「ミュオンさん、しっかり。僕のために無理ばっかしないで」
病人を看病するかのように、亮介は無意識にミュオンの手をとった。ひやりとした感触に、ハッとする。
「あれ? ミュオンさんの手、透けてない!」
『……精気が、回復しつつあるようです』
「ホントに? よかったぁ!」
へにゃっと気の抜けた顔で安堵する亮介を見たミュオンは、左手の感覚が復活し、物体をつかむことができるようになった。右手はまだ半透明のままだが、精霊に利き腕はないため、片方だけでもじゅうぶん役に立つ。ためしに、亮介の濡れた髪を撫でるミュオンは、満足そうに笑みを浮かべた。
「あのね、ハイロさんが池につれて行ってくれたんだ。こんどは、ミュオンさんもいっしょに行こう」
『池……、ですか』
「うん。大きな水たまり。きれいな水だから、きっと気分転換になるよ」
亮介はうれしそうに語るため、ミュオンは承諾した。少年の解釈は単純だったが、水の精霊といっても、生命活動に水源が必要なわけではない。庭のほうから、魚の焼けるにおいがしてくると、キールが「おっ!」と耳をたて、鼻をヒクヒクさせた。
ハイロは、串に刺して焼いた魚を葉っぱの大皿にならべ、軽く塩をふる。駆けつけたキールは、「いいにおい!」といって、尻尾をフリフリした。亮介は寝室の窓から手ぎわよく調理するハイロを見つめ、少し胸の奥がムズムズした。
(……ハイロさんって、半獣っぽくないところあるよね。人間並みに器用だし、まさか、ホントにきぐるみとか? ……毛皮の下に誰か入ってるなんてオチ、あるのかな。だとしたら、どんなひとか見てみたい!)
夢でみたツンツン頭の人型番長を思い浮かべた亮介は、急激に真相をたしかめたくなった。食事をとらないミュオンに「ちょっと行ってくる」と声をかけると庭へ向かい、土をかけて火を消すハイロの背中にガバッと飛びついた。
(うわ、やわらかいけど、あちこちツンツンしてる!)
「……なんだ?」
「な、なんでもないよ? ハイロさんはあっち向いてて!」
肩越しにふり向かれ、一瞬ギクッとした亮介は、おおげさに前方を指さして、ハイロの気をそらした。キールは、おいしそうに魚を食べている。亮介は、ギュウッと腕に力をこめ、ハイロの骨格や中身の手応えを探ってみたが、人間らしい部分は感じ取れなかった。
(……僕、ばかなことしちゃった?)
勢いよくしがみついておきながら、亮介は青ざめた。
★つづく
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