異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

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第2部

第45話

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 精霊は、地上の自然界に存在する神秘的な生物である。万物の根源に宿り、上位の精霊は人派に変身できるため、異種族と性的な関係におよぶことも可能だった。見た目の美しさから、相手の理性を狂わせ、心を迷わせるといった魅惑的要素が誇張こちょうされやすいが、快楽と幸福を享受する行為は正しいと解釈する側面をもっている。


 いつまでも目覚めない水の精霊ミュオンの原因解明のため、亮介は自己浄化をし、森のどこかに散らばっている精霊との交流をためそうと考えた。そして、ハイロの案内にしたがって川の上流へ向かう途中、ノネコから意外な仮説を聞かされた。

「……人間の血を引く精霊の子?」

野猫ノネコの一族は、森の番人ばんにんとして、広範囲に分布していた時代があってね。過去の記憶は口承されていく。もし、人間と精霊の混血種ハーフが存在するならば、この機会に、わたしも事実かどうか、確かめたいと思っているよ」

「それで、ノネコもみそぎに参加するって言いだしたのか。なんだか、おもしろくなってきたな。おいらも、ミュオン以外の精霊を見てみたくなったぜ!」

 キールは冒険気分で笑ってみせるが、ノネコは神妙な顔をした。精霊が人間の子どもを産んだという逸話いつわが事実だとすれば、その子どもは人外となる。おそらく、特異な成長過程を経て、おとなになったはずだ。自然の法則を超越しているため、寿命さえ不明である。


(……だとしても、急に思いだした話を僕に聞かせるなんて、なんだか、ノネコさんらしくないような?)


 ノネコは、あいまいな情報を口にして周囲を悩ませる気質ではない。今回にかぎっては、口承の信憑性しんぴょうせいよりも、聞き手の反応をさぐる目的が優先されている。なぜか動揺した亮介は、立ちどまってしまった。少し離れた場所で、ハイロが待っている。

 少年の心臓は、その在処ありかを主張するかのようにドクドクと強い脈を打ち、さきほどまで遠かった動物の歌声が、自分の耳で聞き取ることができた。


 だれが しゃべった
 だれも しゃべらない

 大地が愛を語りかけるとき
 泉水いづみは赤らんで待ち伏せる

 かれらは ともに恋をした

 森のなかで泉水にひた
 からだをひとつにする

 ふたつの影が混ざり合ったあと
 水面みなもに息づく生命は
 にんげんのかたちになる
 
 ひろがる夜は希望をたたえた
 生まれた瞳は世界を証明する

 やがて 恋人はひとりぼっち

 ……どこかへ のこされた
 ……どこにのこしてきた?

 祝福を忘れた子どもは
 純粋に永遠の夢をみる
 消える日を知らずに


(この歌詞うた……、なんだか、こわい? 生命の誕生を祝福しているっぽいけど、最後の消えるって、なに……?)

 キールが厭味イヤミだと鼻にかけた理由が、わかったような気がした。声のぬしは、気持ちよさげに高らかと歌っていたが、孤独と絶望を予感させる終わり方である。ノネコの口承と、歌詞が微妙にかさなる点も気になった。


(まさか……) 


 あり得ないと思いつつ、ひとつの可能性が浮上する。


(僕の両親、どっちか精霊なんてこと……) 


 あるわけがない。父は中小企業の工場で働く一般人で、母はごくふつうの主婦である。ただ、亮介が異世界へ飛ばされた理由を考えたとき、なにか使命があって、あるべき場所へ引きもどされたとしたら、すべての現象に合点がいく。

 大熊の先祖がえりによって、半獣属の一部は人間として活動した過去が判明し、水の精霊は愛を享受して、精魂たましいを得ることができた。本人さえ気づかない秘密が、この森には隠されている。亮介だけでなく、ハイロとノネコも、そう確信した。
 

★つづく
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