異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

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第4部

第67話

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 黒蛇と二度も対峙して無事にすむというまれな経験をしたハイロだが、気を抜くにはまだ早い。[クマ泣かせ]の異名をもつ大神オオカミの影が、水けむりの先に揺らめいていた。足音がヒタヒタと聞こえ、確実に距離を縮めてくる。


「……いずれ、おれの前にあらわれるだろうと思っていた」


 ハイロは頬の傷を指先でぬぐうと、上位に位置する半獣属のオオカミを、その目で見据えた。人型であろうと、オオカミは灰色大熊の気配をまちがえることはない。ハイロが半獣の大熊オオクマだと承知のうえで、あえて姿を見せたのだ。

 金眼のオオカミは、キールやノネコ、クマやキツネの前にあらわれた個体と同一である。最近、森のあちこちがいつもより騒がしく感じるため、なにが起きているのか、原因を探っていると思われた。かつて、森林域を支配した大神一族の末裔は、最後の群れが数匹だけ生息している。だが、滅多に姿を見かけることはない。

 ハイロは、頰の切り傷を、さして気にとめていなかったが、いつのまにか回復していた。水面にうつる自分の顔へ視線を落としたとき、遅ればせながら皮膚が元どおりに再生している点に気がついた。オオカミから目を離した時間は、わずか数秒ほどだったが、あらためて向きなおると、忽然こつぜんと消えていた。

 川底で眠りにつくミュオンが、横たわった姿のまま浮上し、流れに身をまかせている。ハイロは、あわてて水にはいり、ミュオンの肩をつかんだ。こんどは、しっかりと感触があり、引き寄せることができた。全身を蔽っていた薄い膜は、脱皮するかのように剥がれ、流されていく。水氣の集まる川辺から遠ざかり、草地のうえにミュオンのからだを仰臥させたハイロは、鳩尾みぞおちを手のひらでして浅い呼吸を安定させた。ハイロは一張羅いっちょうらを脱いでミュオンにあてがい、しばらく寝顔を見まもった。

 黒蛇や大神といった自分より格上の種族と鉢合わせ、緊迫した展開から落ちついた状況に変わると、ハイロは急激な疲労感にとらわれた。留守番中の亮介たちを安心させるため、すぐにでもミュオンを背負って丸太小屋へ向かうべきだが、少し休むことにした。木の幹に背中をあずけてすわり、まぶたを閉じたハイロは、ある光景が頭のなかに浮かんできた。

 半獣属の始祖となる人間の男と水の精霊が、池の畔で性交渉をしている。それは、亮介が見た夢と同じ内容だった。


★つづく
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