異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

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第7部

第129話

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※そのころのクマとキツネのお話


 亮介一行が丸太小屋から移動を開始した同時刻、兎形目とけいもく(小動物)の死骸を見つけて腹ごしらえをしたクマとキツネは、川の中流で喉を潤していた。

「ぷはーっ、生き返るー!」

 バシャバシャと水飛沫みずしぶきをあげて泳ぐキツネは、川辺でなにやら考えこむクマに、「兄者! 兄者!」と、声をかけた。

「なんだ」

「せっかく天気もいいし、兄者も水浴びしやせんか。このあたりは流れもゆるやかで、すごく気持ちいいですぜ」

 ニカッと笑って見せるキツネに、クマは数秒ほど沈黙した後、「そうだな」とうなずき、のしのしと4本足で歩いた。以前、亮介が自己浄化のためみそぎをした上流とはちがい、中流域は動物たちの水飲み場となっている。クマもペロペロと水を飲んだあと浅瀬にはいり、ゴシゴシと毛づくろいをした。

 クマの頭には精霊ミュオン半獣ハイロの愛しあう姿がチラつき、常に苛立っていた。羨ましいという感情を自覚できず、嫉妬をあらわにし、ミュオンを傷つけて(凌辱して)失意のハイロを見るまで、一方的な嫌悪感と執着心をぬぐうことはできない。

「手に入れてやる。あの精霊が、悲痛に泣き叫ぶ姿が見たい。かならず、あいつらの関係を引き裂いてやる。……それに、あの小僧こぞううまそう、、、、だった」

 仔熊コグマの姿で亮介の世話になったとき、人間の子どもの体温に触れ、やわらかい肌の質感を思いだしたクマは、急に食欲が増した。

「いや、人間を食ったら血がけがれる。オレは、森の王獣、灰色大熊だ。ハイロあいつとはちがう……」

 ほんとうは、思うがままに生きたい。灰色大熊は肉食獣で、小動物を餌として食らう。かつて、毛皮や食用を目的として狩られた仲間たちは、人間の生活を豊かにして支えたが、半獣属にとっては惨事でしかなく、亮介のような子どもであっても、排除の対象である。しかし、ノネコが示唆しさしたとおり、亮介が森林域の秩序を乱す存在であれば、大神オオカミが放っておかない。むしろ、必要とされている可能性を失念していたクマは、ハッと空を見あげた。

「キーシッシッ」

「……大鳥オオトリか」

 渡り鳥のシギが、ゆっくりと向かってくる。鳥類の多くは人間より広い視界をもち、単眼でも遠視できる(紫外線も見ることができる)。川辺の木の枝にとまると、「沈黙は神秘、覚醒は栄光なり」と歌うように言った。

「なんの用だ」

 高いところから見おろされるクマは、太い眉をひそめ、低い声で牽制する。シギは「キシシッ」と、くちばしを鳴らして笑うと、「そんなにねたましいか」と問う。水の精霊と愛しあうハイロを、どうしても気に入らないクマは、「当然だ」と即答した。

「渡り鳥、おまえらとて、わざわざ危険な長距離飛行をしてまでこの森にやってくる理由は、繁殖に適した環境だからだろうが、旅先のメスつがうこともできるはずだ。なぜ、それをしない」

「そうじゃのう。発情した雌鳥めんどりを見かけても、種族と血統の維持を最優先とするならば、うかつに交尾はできぬのう」

 異種族での繁殖行為は、互いの血筋を穢すため、禁忌とされていた。したがって、ミュオンと交接したハイロは、自然界のおきてを裏切ったことになる。だが、半獣属の事情は、精霊に通用しない。種族を越えて愛しあうふたりを、誰もとがめることはできなかった。

「妬ましいのではない。オレは、ハイロあいつを罰したいのだ」

 それもまた、正論なのかもしれない。そう思ったシギは目を細めた。


★つづく
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