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スーツの下の化けの皮
第30話
しおりを挟む「……やはり、姫季くんとする場所は、ラブホテルが無難か?」
帰宅した幸田は、2階の自室でネクタイを解きながら、学生との初夜について真剣に悩んでいた。まさか、彼のマンションで性交渉に及ぶことはできない。万が一、不始末が発生した場合、気軽に訪ねる空間ではなくなってしまう恐れがあった。
「……俺にとっても初体験だし、男を抱くなんて未知の世界だからな。……慎重を期するに越したことはないだろう」
攻めの身でありながら弱腰では、沽券に関わるうえ、それなりの知識と事前の準備に手抜かりは許されない。前者の調べはついていたが、最後までやり遂げる場所は、事後処理を気にせず集中できる宿泊施設が、妥当ではないかと考えた。
「姫季くんは未成年者ではないし、セックスは合意のうえで行うわけで、ホテルに誘っても、なにも問題はないはず……」
スーツの内ポケットから携帯電話を取りだした幸田は、次の予定を決めるため、メールを送信した。サラリーマンと学生では、日常生活を送る時間の流れが異なるため、どちらかが相手の都合に合わせる必要があった。ルームウェアの袖に腕を通すと、着信音が鳴った。姫季の予定を確認した幸田は、いよいよ、肉体関係に発展する機会を探る。
「来週の金曜日か」
仕事帰りの遅い時刻でも、マンションへ寄っていいとの内容に対し、待ち合わせ場所を指定する返信を送った。
〔午後7時に、パブ〈シャンパーニュ〉まで来てもらえるか?〕
〘行けるけど、外食すんの? おれ、幸田さんのラーメンが食べたい〙
〔それはいつでも作ってやるさ。……わからないのか? 夕食だけで、きみを返すつもりはないよ〕
〘どういう意味?〙
〔ホテルに誘っているのだが、きみの具合がよくなければ日を改めよう〕
〘行く〙
〔即答だね〕
〘だって、そろそろかなって、思ってたから……〙
幸田が〔了解〕と送信すると、わずか数分でメールのやりとりは終了した。まだ室内に来客(沢村)がいる状態を考慮して、電話ではなくメールにて連絡したが、きちんと声にだして伝えるべき内容ではないかと、少し後悔した。
「しかし、これで合意を得たも同然だ。……よし、来週の金曜は姫季くんを抱きにいくぞ」
意気込む幸田は、その晩から全身を念入りに洗って過ごした。
✰つづく
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