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スーツの下の化けの皮/二幕
第90話
しおりを挟む当初の幸田は、年長者として物事を諭す目的で、姫季に手を差しのべた。若者の後学に役立てればと思い、交流の機会を与えたが、すがりついてきた姫季の体温は思いのほか心地よく、愛おしい存在となってしまった。姫季の脆弱さを知り、才能を知り、肉体を重ね合うたび、離れたくない思いが強くなってゆく。
「……ねぇ、今、なに考えてた?」
「きみのことだよ」
「うそ」
「本当さ。……動くぞ」
「あっ、……んんっ!」
芸術祭のあと、合鍵を使って姫季のマンションで帰りを待つ幸田は、寝室のドアを開け、パイプ式ベッドを見つめた。ラブホテルで姫季を抱くことにこだわらず、これからは恋人同士らしく、この部屋で愛し合うべきだと考えた。夕方になり、姫季が帰宅すると、正面から抱きつかれた幸田は、「おかえり。……疲れてないか?」と、相手の具合をたしかめた。すると、姫季のほうから「シャワー浴びてくるから、待ってて」と、先を越された。言外に示された要求を、肌で感じ取る。もはや、ふたりの欲望は合致していた。
「やっ、やぁっ、幸田さ……んっ、す、すごい……!」
容赦なく腰を振る幸田は、姫季と夢中で抱き合い、昂ぶる感情のまま激しいセックスをした。互いに果てたあとも、深い口づけをくりかえし、手足を絡ませていたが、やがて、どちらも眠りにつく。静かな寝息が、暗闇に消えてゆく。
チュンチュンと、雀の鳴き声で目を覚ました幸田は、姫季の寝顔を見つめた。そっとベッドから抜けでると、キッチンで珈琲を淹れた。相変わらず裁縫道具が床に散らばっていたが、以前ほど気にならなかった。無秩序な環境でこそ、姫季の感性は才能と結びついたのかもしれない。恋人がシャワーを浴びる音で気がついた姫季は、幸福な朝にまどろんだ。
✰Fin✰
※これにて本篇は完結となります。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。しかし、いくつか未回収部分が残っているため、いったん連載をお休みさせていただきますが、再開予定ありにつき、よろしければ、引き続きお付き合いくださいませ!
もともと2017年に漫画で描こうとしていた作品につき、当時の資料を片手に、毎日更新がんばりました。いつか第三幕も書きたいなと思っています。まだ登場させていない人物や、小話がたくさんありますので、今後とも、よろしくお願い申し上げます。
✰ ✰ ✰ ✰ ✰ ✰ ✰
応援ありがとうございます!
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