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医師、かく語りき
第16話
しおりを挟むトリッシュの問いかけに、グレリッヒは一瞬、変な顔をした。遠まわしに訊くよりは、割り切りのよい発言だが、庭師は思わず吹いた。
「な、なにがおかしいんだよ?」
トリッシュが顔をしかめると、グレリッヒはひとしきり吹いたあと、「おまえさんの笑える勘違いを正してやろう」といって、胸もとから四つ折りの紙片を取りだした。
「ほらよ。原因の代物だ」
紙片を差しだされたトリッシュは、無言で受けとり、やや用心深く内側をひらいた。すると、繊細な筆づかいで描写された人物画と目があった。
「……これって、ユリネルだよな」
薬師とよく似た顔だちをしていたが、現在より少し若い印象を受けた。髪の毛の質感や衣服の皺など、細部まで丁寧に描きこまれており、胸から上を写した鉛筆画である。やはり、薬師にたいしてグレリッヒはとくべつな感情を抱いている。トリッシュはそう確信したが、事実は異なっていた。
「あいにく、そこに描かれている人物は薬師ではない」
「そんなことあるか。この顔は、どう見てもユリネルだろうが」
「双子の兄だ」
「ふた……、あ、兄だって?」
よもやの真相に、トリッシュは息を呑む。ユリネルが双子とは、初耳である。あらためて紙片の人物を注視するが、双子という見方を失念していた。動揺した医者に向かって、グレリッヒは過去を語りだす。
「施設を建てるとき、ユリネルは兄から資金援助を受けていた。離れて暮らす彼は、旅行かばんをさげてたずねてきては、別棟で生活を送るユリネルと夜遅くまで話しこんでいた。診療所に勤める医師も、最初のうちは彼が見つけてきたやつを採用したが、どいつもこいつも長続きしなかった。……おれは庭師だ。子どものあつかいは不慣れだし、医療の面で力になることはできない。そのほかの雑用ならばと、設備管理や買いものついでに台所をしきるようになった。……責任を感じて落ちこむ彼の姿をよく見かけたが、数年前、ぱったり音沙汰がなくなった」
グレリッヒは、遠くの坂道を歩く彼のまぼろしを目で追った。町で暮らす庭師は〈エレメンタリーハーツ〉が完成する前から、物資を購入するため丘をくだってくるユリネルと面識があり、どちらともなく声をかけ、そのつきあいは切れることなく現在に至る。双子の兄とも顔見知りとなったわけだが、彼は突然姿を消した。
✓つづく
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