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第5話
しおりを挟むファブロス島は、いわば絶海の孤島のような楽園である。周辺諸国と呼べるほどの海域に陸地はなく、何千年ものあいだ、独自の文化による発展と、固有民族のみによる営みを続けてきた。ジェイクの認識は、今のところ南国の裸族である。
「あたいが長老の〈ラミルダ〉だ。あんたがジェイクリッドか。あーっはっはっ! 本当に青い髪だな。それに、顔も躰つきも見事じゃないか。気に入ったぞ、ジェイクリッドよ!!」
太陽の位置から、まだ日中だとわかる。クムザによって、長老の住居まで案内されたジェイクの第一印象は、「声のでかい女」だった。ラミルダと名乗った46歳の現役長老は、ファブロス島では指導者的立場につき、布地を身につけていた。とはいえ、かなりの巨乳で、胴体に巻きつけた薄布からくっきりと、乳首の形が浮きでている。膝から下は素足で、パンティーは着用していないだろうと思われた。ラミルダは身長こそ低いものの、見知らぬ男相手に豪快な口をきく。
「クムザよ、祝酒を用意しな! あたいのとっておきを、ジェイクリッドにふるまってやろうじゃないか!!」
昼間から酒杯をあおる気分ではないジェイクは、丁重に断った。ラミルダはひどくつまらなそうな顔をしたが、「水竜の化身に強要はできんな!」と云って、軽く肩をすぼめた。長老らしからぬ態度に見えたが、もとより、古びた木造の小屋に身を置くため、偉ぶって贅沢をしているようすは見られない。しかし、島民の代表者から〈水竜の化身〉として扱われたジェイクは、この際はっきりと、記憶喪失である事実を打ち明けた。ところが、さらなる歓迎を受けた。
「なるほど! そいつは結構なことじゃないか。あーはっはっ! この島にきて、あんたは生まれ変わったのさ! そう思わないか、なぁ、クムザのじじいよ!!」
「う~む、そうだのぅ。ジェイクの見た目も運動神経も、伝承どおりじゃわい。〈水竜の化身〉として、この島で暮らしてもらえたら何よりじゃ。いずれ、奇蹟が起こるやもしれんしのぅ。フォフォフォ!」
記憶喪失の件を信じていないのか、ふたりは勝手に話を進める。とはいえ、これといって悪意は感じない。そもそも、名前以外の個人情報を思い出せないジェイクにつき、どこへ帰るべき人間なのか記憶が戻るまで、ファブロス島で暮らすしかない。下手に否定するより、長老や島民に受け入れてもらうためにも、低姿勢が正しい選択である。ジェイクはラミルダに向かって頭をさげると、改めて挨拶した。
「俺が何者であろうと、迷惑を掛けるつもりはない。しばらく厄介になるが、よろしくたのむ」
あくまで礼儀として頭を垂れたが、海軍の大佐であった事実を忘れたジェイクの自尊心は、あまり高くはない。
✓つづく
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