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第4話
しおりを挟む水色の髪の青年を捜して海岸沿いを歩くうち、漁師に見つかり囲まれたジェイクは、うんざりした。出会う島民は裸体の中年男で、しかも、口々に〈水竜の化身〉と呼んでくる。
「悪いが、俺の名はジェイクだ。ジェイクリッドという。水竜の化身などではない」
断言しても、島民は主張を譲らない。青い髪がなによりの証拠だと云って、ひざまずく者さえいた。たしかに、ジェイクの髪は帝国でも稀少な部類であったが、崇めるような人種ではない。島国の風習だろうと、ジェイクに特別な神通力など備わっておらず、期待に応える義務はない。立ち往生している間に、腹の虫が鳴った。
「なんと、水竜様は空腹でしたか!!」
「そりゃ、いかん。今すぐ食事の準備を」
「クムザのじいさんに報せよう!」
たしかに空腹だったジェイクは、漁師に案内されるがまま、島で唯一の病院へ戻るハメになった。せまいなりに食堂が設計されており、クムザとプルプァが料理を運んでくる。リェータの姿は見あたらなかった。砂浜にいた青年について訊ねると、先にクムザがこたえた。
「そいつは〈ロンファンの幻〉じゃろう。水色の髪をもって生まれた赤児は、成長すると海に還ると云われておる。わしらの時代より、さらに千年以上前のことじゃが、本当に水色の髪の赤児が誕生したそうじゃ」
「あっ、その話なら父ちゃんから聞いたことある! ロンファーってキレイな人間が、海に恋をして、水竜に願いごとをしたって! 海の中でも息ができるようにしてほしいってさ!」
クムザとプルプァに共通する用語は〈ロンファ〉だけで、内容は異なっている。箸を持つ手を休めたジェイクは、伝承とは所詮そんなものだろうと思った。長いあいだ語り継がれていくうちに、どこかで解釈がちがってくる。まして、当時の文献が残されていない事物についての真相は、現代人の憶測にすぎない。
(……ロンファか。もし、あの青年が伝承どおりの人間ならば、俺は夢を見ていたことになるな。ふん、バカげている。……たとえ同一人物だろうと、あいつを捜して話をする必要がある。服を返してもらわなければ、裸族の仲間入りになっちまうぞ)
島国とあり、配膳された赤魚の煮付けは美味である。椀に盛られた白米を一粒残さず口へ運んだジェイクは、「旨かった」と、礼を述べておく。いつまでも、胴体にシーツを巻いた状態ではいられない。クムザは食器を片付けているため、近くにいたプルプァに洞窟について質問した。
「このへんに、そんなのあったかなぁ……。もしかしたら立入禁止の場所にならあるかもよ。病院をでて、目の前に見えるごちゃっとした岩場の先に、漁場があるんだけど、もっと東緯に向かっていくと、立入禁止の看板があって……」
「なぜ、立入禁止となっている」
「え? 危険だからだろ? 行ったことないから、よくわからないけど、どうくつなんて、近くにはないよ」
「……そうか」
ジェイクは席を立ち、早速、東緯の海岸へ向かうつもりだった。廊下を歩きだすと、追いかけてきたクムザに声をかけられた。
「先ほど、漁師どもからおまえさんの名を聞いたぞい。〈ジェイク〉というそうだな。なんでも、駿馬のごとく疾走してみせたとか。やはり、たいした人物じゃ。行くところがないうちは、わしの病院で寝泊まりするとよいぞ。ジェイクのことを、長老に紹介せねばならんしの」
ひとまず、居場所を提供されたジェイクは、「世話になる」と短く返した。謎めいたファブロス島での生活は、始まったばかりである。
✓つづく
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