青竜のたてがみ

み馬下諒

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第3話

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 なにか、やわらかいものが口唇くちびるふさいでいる。洞窟でロンファの接吻せっぷんを受けたさい、青年の唾液だえきみ込んだジェイクは、その光景が脳裏のうりをよぎる。おぼえていないはずの場面が、はっきり頭の内奥ないおうに浮かんできた。

(……あいつなのか? あいつが俺に、何かした張本人ちょうほんにんか!?)

 フッと、金縛りがけたジェイクは、目の前の男衆を押し退けて走りだす。士官学校時代、短距離走の記録保持者でもあるジェイクの脚力は、島民を(ますます)おどろかせた。砂浜まで一直線に向かっていくと、青年はジェイクの接近を避けるように、サッと、岩陰いわかげへ姿を消した。

「ふん、いいだろう。どこへ行こうと必ず見つけてやる」

 逃げるように立ち去る青年だが、向かった先はあの洞窟、、、、だろうと思われた。そこが彼の棲家すみかだと、そんな気がするジェイクは、短靴の底で岩場のくぼみを捉えながら、しっかりとした足取りでのぼってゆく。胴体に巻きつけたシーツが落ちそうになると、いったん立ちどまり、胸もとできつく結びなおした。

(……なぜ、わざわざ脱がせる必要があった? あいつが俺の服を持っているというわけか。どの道、用があるのはこっちのほうだ。聞きたいことが山ほどある。……あいつは、何者なにものなんだ。この俺自身も……)

 怪我けがを負った記憶がないため、ジェイクは青年の行動が理解できず、顔をしかめた。もっとも、背中の傷は深く、頭部から流れた血の量も多かった。ただでさえ、海水を飲んで内臓が弱り、皮膚ひふの表面はスリ傷だらけであった。ロンファの応急処置と唾液のおかげで完治していたが、あのまま海岸に放置された場合、ジェイクは確実に命を落としていた。

「……あいつは、どこだ」

 裸族の島民とちがい、彼は太腿ふとももまで隠れる白い麻布シャツを着ていた。高い岩場からあたりを見まわし、人影や洞窟がないかを探す。ザァーンッと、波が打ち寄せて返すようすは、ひどく穏やかに見えた。振り返ると、緑の山や、あざやかな草花くさばなへ目が留まる。島の空気もさわやかで、嵐の海におぼれ、瀕死の状態で流れ着いたとは考えもしなかった。

 健忘症けんぼうしょうという、忘れてしまったこと自体を覚えている記憶障害がある。原因となった頭部の外傷は完治していたが、ジェイクが脳に衝撃を受けた事実は変わらないため、名前以外の記憶が抜け落ちていた。また、かつての記憶が戻るかどうかは、症例により異なってくる。これより先、ジェイクがおのれの立場と目的を思い出したとき、帝国の計略と島の行末ゆくすえに、ひどく葛藤かっとうすることになる。


✓つづく
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