青竜のたてがみ

み馬下諒

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第2話

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 ジェイクは、自分の名前を認識していた。しかし、初対面のクムザを警戒して名乗らなかった。ヤブ医者の可能性も捨てきれない。なにせ、ぱだかの幼女と少年を前に、平然としていた。手足が思うように動かないジェイクだが、なるべくふたりの子どもから視線をはずすよう気をつかった。

 ベッドの上で目覚めざめた理由を考えてみたが、何も浮かんでこなかった。それどころか、出身地や経歴けいれきなど、個人情報が欠落けつらくしている。あきらかに、ようす、、、がおかしい。記憶喪失という言葉にたどり着くまで、数十分を要した。

「……なぜ、こんなことになった?」

 ジェイクはそうつぶやくと、足腰に力を入れ、なんとか上体を起こした。軍服は(ロンファによって)脱がされており、パンツ以外はどこかへ消えていた。クムザいわく、ジェイクは道端に倒れていたそうだ。さすがに、最初から下着1枚でふらついていたとは考えにくい。洗濯でもされているのかと思い、ゆっくり壁ぎわの窓へ歩み寄ると、青く光る海が広がっていた。
 ジェイクの現在地は、帝国よりはる南緯みなみに位置する〈ファブロス島〉につき、朝から気温は高く、ひたいが汗ばむくらいである。ガレオス帝国とは真逆まぎゃくの気候だった。備え付けのテーブルに、プルプァが汲んできた湧き水がコップにいである。水質やニオイ、、、に異常がないか用心ようじんしつつ、少しだけ飲んで味をたしかめた。こじんまりとした診察室にムダな器具はなく、むしろ、質素しっそに見えた。

「……俺はなぜ、こんなところに居るんだ? ……まったくわからんぞ」

 だいぶ手足の感覚が戻ってきたジェイクは、ひとまず、ベッドの白いシーツを胴体へ巻きつけた。患者をるためのベッドはひとつしかないが、下着1枚で歩きまわるほどおろかな性格ではない。常識的な判断をしたつもりが、玄関の引き戸をガラッと開けた瞬間、唖然あぜんとなる。

「……な、なんてことだ。ここは裸族らぞくの島なのか?」

 島民らしき通行人は、誰も服を着ていない。ジェイクの姿に気づき、わらわらと集まってきた。

「あなたが〈水竜すいりゅう化身けしん〉かい!?」
「すごいぞ、本当に青い髪だ!!」
「おおっ、なんと素晴らしい!!」

 それぞれの表情は明るいが、中年男(それも全裸)に囲まれたジェイクは、返す言葉に悩み、まゆをひそめた。同時に、少し気になる点に意識がおよぶ。先ほどのクムザといい、成人男性にしては身長が低い。しかし、適度に日焼けした肌は健康的に見えるため、栄養不足が原因ではなさそうだ。ファブロス島に生まれた人間は、男女問わず、たいてい160センチ台で骨格の成長が止まる遺伝子の持ちぬしだった。ジェイクの上背うわぜいは181センチにつき、島民に囲まれると、存在感が増した。とはいえ、帝国の軍人たるもの平均身長は高い。本来、ジェイクは低いほうの部類である。

「ああっ、〈水竜の化身〉様、こうして立派な姿をあらわしてくださり、感謝します!」
「我々を、災異からお護りくださるんですよね!?」
「いつか、降臨なさると信じていましたが、よくぞ、お越しくださいました!」

(いったい、なんのことだ? こいつらは、何を云っている……?)

 別人とまちがわれているとさっしたジェイクは、小さくため息をいた。詰め寄る男衆から海のほうへ顔をそむけると、青年らしき人影が砂浜にたたずんでいた。波に太陽光が反射して、表情までは確認できない。淡い水色の髪が、ふわふわと風に揺れている。その時、

(……うっ!! なんだ!?)

 ジェイクは金縛かなしばりにったかのように、ビリッと全身が硬直こうちょくし、指先ひとつ動かせなくなった。


✓つづく
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