ジョセフによる散文『グレリオ辺境伯と追放令息』

み馬下諒

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きびしい始まり

第8話  ※閲覧注意

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 現在、アルベリク家から遠く離れたイルシュタット州で暮らすリツェルは、タドゥザの宮殿での生活がふた月ほど経過して十八歳の誕生日を迎えると、伯爵の態度が豹変し、地下室の牢屋へとじこめられた──。


「リツェルよ。性行為は初めての経験だろうが、そうむずかしく考えるものではない。一昨日いっさくじつは、つい手荒な真似をして悪かったね。……ほら、やさしくしてあげよう」


 夜ごと、タドゥザに屈辱的な愛撫を身に受けるリツェルだが、自分でもふしぎなくらい働きかけには応えず、奇妙な静けさにとらわれていた。さすがのタドゥザも、「これは、いったい、どうしたというのだ?」と、眉をひそめた。

 六日目にして、せまい開口部へ無理やり指を挿入されたリツェルは、「くぅっ!」と、うめいた。

「さあ、これならどうだ? そろそろ、いい反応を見せてくれたまえ。……きみが、どこまでがまんできるか、これはこれで愉しみだな」

 本来ならば排泄器官であるあなに指を挿しこむタドゥザは、時間をかけて性感帯をさぐった。リツェルは「やめろぉ!」と声をあげて抵抗するが、セドリックによって事前に投与されるしびれ薬は、朝方まで効果が持続した。

「……くっ、……んぁっ!」

「むっ? このあたりがいいのか? しかし、きつすぎるな。リツェルよ、もっと躰の力を抜きたまえ。地下牢ここでならば、どれほど淫らにがろうと、地上の使用人には聞こえまいよ」

「この……、変態やろう……!」

 リツェルの憎まれ口に興ざめするタドゥザは、「まったく強情な子だ。主人に対する礼儀を忘れてはいかんな」といって、彼の前髪をつかんで床へ引き倒した。

「こんなにもやさしくしてあげているのだ。いいかげん立場をわきまえよ。きみの価値は、その肉体にかぎるのだぞ。わたしの前では、艶やかに乱れてみせよ」

「ふ……ざけるな……、誰がそんなこと……するもんか……(殴りかかりたいのに、うまくこぶしがにぎれない!)」

「わたしは、いちど手にいれたものを無傷で手放すほど寛容な人間ではないぞ? きみの無駄な足掻あがきにつきあうのは、きょうかぎりとする。あすの夜、きみはわたしに降参することになるだろう。……聞いたな、セドリック。あすは、いつもより多めにしびれ薬をのませておきなさい。きみの自尊心を、徹底的にこわしてやろう」

「……悪趣味め!」

 なぐさみものの末路は、例外なく廃人となる。リツェルの人格が崩壊するまで、タドゥザによる凌辱はつづく。

「あんた……も……、最低だな……」

「リツェル坊ちゃま、そのとしで粗相は困ります。以後、お気をつけくださいませ」

 仮面の下で冷ややかな表情を浮かべるセドリックは、水桶に浸した手ぬぐいを折りたたみ、リツェルの下半身を丁寧に拭いた。床へ転がった衝撃で、よもやの放尿をしてしまったリツェルは、恥ずかしさよりもみじめさでくちびるがふるえた。

「くそ……、くそ……っ」

 悪態をつく青年をよそに、身なりをととのえるタドゥザは「ぐふふ」と、下品な笑い声をもらしている。

 なんとかしなければ、タドゥザに躰をつらぬかれてしまうリツェルは、全身の筋肉が硬張こわばって痛み、顔をしかめた。この場を逃げだすには、牢屋の扉を解錠できるセドリックを利用するしかない。悲惨な展開がつづき眠れない夜を過ごすのは、もう充分だった。


「逃げなきゃ……、逃げなきゃ……、おれは、絶対に逃げてやる……」


 しびれ薬の効果が薄れるころ、浅い眠りについて消耗した体力と気力を回復させたリツェルは、窓のない牢屋を見まわして脱出する計画を練った。靴さえ禁じられて裸足で生活するリツェルは、武器になるようなものがないか探した。

「なんでおれが、こんな目に遭うんだ。こんなところ、来るんじゃなかった……」

 次に隠れる場所がないか確認したが、武器もなければ身をひそめる空間もなく、やはり、正面突破しかないと決断した。

「なんだか、気持ち悪い……」

 空腹のせいか吐き気がするリツェルは、使用人が運ぶ食事を待つあいだ、セドリックに作戦を悟られないよう、一時的に牢屋から出してもらえそうな理由を考えた。


《つづく》
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