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嘘つき後輩と正直先輩と三段論法
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「人間は嘘をつく。私は人間だ。故に私は嘘つきだ」
「……突然なんですか?」
と言いつつも、僕は大して驚いてはいない。先輩のこんな発言はよくあることだ。
「この三段論法は成り立つかを検証せよ!」
先輩は女性らしい細くて美しい人差し指で真っ直ぐに僕を指す。その立ち振る舞いがあまりに様になっていて、つい検証しなきゃと思ってしまうのは先輩の魅力の成せる業なのだろう。もっとも本当に検証に付き合うほどの変わり者は僕ぐらいだろうけど。
頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗、才色兼備……先輩を表す単語はいくつもある。だが、先輩を正しく表す言葉は一つだ。
ーー正直者は馬鹿をみる。
先輩は自分の内側からくる衝動に正直に生き過ぎている。それが正しいと思っていても他人ができない事まで、その才覚でやれてしまうため集団からは疎外されてしまう。
「さあ! シンキングタイムは終了だよ!」
集団において嘘は重要だと思う。特に汚れ役の嘘つきがいれば大概のことはうまくいく。生来の捻くれ者が故にそんな大役を演じている僕からすれば、自分の気持ちに嘘をつくだけで輝かしい学校生活を送れるはずの先輩がそれをしないのは正直馬鹿だと思う。
もっとも先輩からすれば嘘つきの僕を馬鹿だと思っているかもしれない。だから毎度毎度こんな言葉遊びを振ってきているのだろう。
「そうですね。成り立ちません」
「へぇ~。断言する根拠は?」
先輩の妖しく光る瞳が真っ直ぐに僕を見つめる。心拍数が徐々に上がってくるのがわかる。だが僕は嘘つきだ。自分の内側からくる衝動など抑えてみせよう。
「……まず情報を整理します。ここで確実なのは【私が人間である】ことです。自己申告なので定かではありませんが、自分を人間として認識できるぐらいの自意識はあるということ。そのレベルの自意識を自己申告できるのは人間と断定していいでしょう」
「続けて」
「次に【人間は嘘をつく】ですが、全ての人間が嘘をつくとは限らないので【人間は嘘つき】とは断定できません」
「それで?」
続きを促す先輩の表情には妖艶さを秘められている。その強力な誘惑に流されないように続ける。
「最後に【私は嘘つきだ】ですが、本当に嘘つきの発言であれば【嘘つきである】という事実が嘘になります。逆に正直者だった場合は【嘘つきだ】という発言が嘘になります」
「うんうん。後輩くんはクレタ人だったんだね」
今度は幼い子どものような屈託ない笑顔の先輩。ギャップに萌え死にそうだ。もちろん、そんなことはおくびにも出さずに僕は結論へ向かう。
「以上の観点から【人間は嘘をつく。私は人間だ。故に私は嘘つきだ】の三段論法は成り立ちません」
「ブラボー! さすが後輩くん! 面白い回答だよ!!」
賢い愛犬を褒めるように僕の頭を撫でまわす先輩。う~ん……どこまで本気かわからない人だ。いや、どこまでも本気なんだろうけど。
「それでこの言葉遊びにどんな意味があるんですか?」
「ないよ。ちょっと思い付いただけ」
「……先輩」
「冗談冗談。自称【嘘つき】の後輩くんがどういう反応するか、興味があってね」
本当に心の赴くまま正直に生きている人だ。
「なら、先輩はこの論法をどう解釈するんですか?」
「私? そうだねーーーー信じる、かな」
「えっ?」
「人間は嘘をつくものだと思うし、【私】は人間なんだと思うし、そして【私】は嘘つきなのだと信じてみる」
「それだと嘘つきの言うことも信じるってことですか?」
「うん。だって嘘が必ずしも悪いこととは限らないでしょ? 真実が良いことは限らないようにね」
嘘であれ真実であれ、心の内側からくる衝動に正直に従う先輩はその真っ直ぐさ故に辛い想いも沢山しただろう。
飛び抜けた力を持った人もまた嘘つき同様、虐げられてしまう。それでも先輩は人を信じると言える。なんて強い人なのだろう。僕には到底無理だ。自分に嘘ついて自分を騙すのが限界だ。
そうでない先輩が、正直者が虐げられる現実とは真実とは何なんだろうか……
「真実は残酷ですね」
「……うん。だからきっと嘘は優しいんだよ」
出会って初めて憂いを帯びた表情を見せる先輩。ゆっくり深く一度瞳を閉じてから続ける。
「真実は残酷だ。だから嘘は優しい。故に嘘つきは優しい」
「……また検証すればいいですか?」
僕が尋ねると先輩は この検証は私がするよ。と言い僕の手をそっと握ってから続ける。
「私は優しいものが好きである。君は嘘つきである」
手が少し震えている。震える手を抑えるように強く握る先輩。そしてーー
「ーー故に私は君が好き」
先輩の手から温もりと一緒に想いが伝わってくるのがわかる。どれだけ言葉を重ねても、言葉では伝えきれない想いがそこにはある。だから僕はこう答える。
「ーー僕は先輩のこと、嫌いです」
そっぽを向き、できる限り素っ気なく言うーーーーでも、繋いだ手だけは離さず強く握り返す。先輩は優しく微笑むと僕の耳もとでそっと囁く。
ーーーーうそつき
「……突然なんですか?」
と言いつつも、僕は大して驚いてはいない。先輩のこんな発言はよくあることだ。
「この三段論法は成り立つかを検証せよ!」
先輩は女性らしい細くて美しい人差し指で真っ直ぐに僕を指す。その立ち振る舞いがあまりに様になっていて、つい検証しなきゃと思ってしまうのは先輩の魅力の成せる業なのだろう。もっとも本当に検証に付き合うほどの変わり者は僕ぐらいだろうけど。
頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗、才色兼備……先輩を表す単語はいくつもある。だが、先輩を正しく表す言葉は一つだ。
ーー正直者は馬鹿をみる。
先輩は自分の内側からくる衝動に正直に生き過ぎている。それが正しいと思っていても他人ができない事まで、その才覚でやれてしまうため集団からは疎外されてしまう。
「さあ! シンキングタイムは終了だよ!」
集団において嘘は重要だと思う。特に汚れ役の嘘つきがいれば大概のことはうまくいく。生来の捻くれ者が故にそんな大役を演じている僕からすれば、自分の気持ちに嘘をつくだけで輝かしい学校生活を送れるはずの先輩がそれをしないのは正直馬鹿だと思う。
もっとも先輩からすれば嘘つきの僕を馬鹿だと思っているかもしれない。だから毎度毎度こんな言葉遊びを振ってきているのだろう。
「そうですね。成り立ちません」
「へぇ~。断言する根拠は?」
先輩の妖しく光る瞳が真っ直ぐに僕を見つめる。心拍数が徐々に上がってくるのがわかる。だが僕は嘘つきだ。自分の内側からくる衝動など抑えてみせよう。
「……まず情報を整理します。ここで確実なのは【私が人間である】ことです。自己申告なので定かではありませんが、自分を人間として認識できるぐらいの自意識はあるということ。そのレベルの自意識を自己申告できるのは人間と断定していいでしょう」
「続けて」
「次に【人間は嘘をつく】ですが、全ての人間が嘘をつくとは限らないので【人間は嘘つき】とは断定できません」
「それで?」
続きを促す先輩の表情には妖艶さを秘められている。その強力な誘惑に流されないように続ける。
「最後に【私は嘘つきだ】ですが、本当に嘘つきの発言であれば【嘘つきである】という事実が嘘になります。逆に正直者だった場合は【嘘つきだ】という発言が嘘になります」
「うんうん。後輩くんはクレタ人だったんだね」
今度は幼い子どものような屈託ない笑顔の先輩。ギャップに萌え死にそうだ。もちろん、そんなことはおくびにも出さずに僕は結論へ向かう。
「以上の観点から【人間は嘘をつく。私は人間だ。故に私は嘘つきだ】の三段論法は成り立ちません」
「ブラボー! さすが後輩くん! 面白い回答だよ!!」
賢い愛犬を褒めるように僕の頭を撫でまわす先輩。う~ん……どこまで本気かわからない人だ。いや、どこまでも本気なんだろうけど。
「それでこの言葉遊びにどんな意味があるんですか?」
「ないよ。ちょっと思い付いただけ」
「……先輩」
「冗談冗談。自称【嘘つき】の後輩くんがどういう反応するか、興味があってね」
本当に心の赴くまま正直に生きている人だ。
「なら、先輩はこの論法をどう解釈するんですか?」
「私? そうだねーーーー信じる、かな」
「えっ?」
「人間は嘘をつくものだと思うし、【私】は人間なんだと思うし、そして【私】は嘘つきなのだと信じてみる」
「それだと嘘つきの言うことも信じるってことですか?」
「うん。だって嘘が必ずしも悪いこととは限らないでしょ? 真実が良いことは限らないようにね」
嘘であれ真実であれ、心の内側からくる衝動に正直に従う先輩はその真っ直ぐさ故に辛い想いも沢山しただろう。
飛び抜けた力を持った人もまた嘘つき同様、虐げられてしまう。それでも先輩は人を信じると言える。なんて強い人なのだろう。僕には到底無理だ。自分に嘘ついて自分を騙すのが限界だ。
そうでない先輩が、正直者が虐げられる現実とは真実とは何なんだろうか……
「真実は残酷ですね」
「……うん。だからきっと嘘は優しいんだよ」
出会って初めて憂いを帯びた表情を見せる先輩。ゆっくり深く一度瞳を閉じてから続ける。
「真実は残酷だ。だから嘘は優しい。故に嘘つきは優しい」
「……また検証すればいいですか?」
僕が尋ねると先輩は この検証は私がするよ。と言い僕の手をそっと握ってから続ける。
「私は優しいものが好きである。君は嘘つきである」
手が少し震えている。震える手を抑えるように強く握る先輩。そしてーー
「ーー故に私は君が好き」
先輩の手から温もりと一緒に想いが伝わってくるのがわかる。どれだけ言葉を重ねても、言葉では伝えきれない想いがそこにはある。だから僕はこう答える。
「ーー僕は先輩のこと、嫌いです」
そっぽを向き、できる限り素っ気なく言うーーーーでも、繋いだ手だけは離さず強く握り返す。先輩は優しく微笑むと僕の耳もとでそっと囁く。
ーーーーうそつき
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